Episode.11...bye bye Mr.Kroud.
しかし、彼女は出て行った。
元カレの下に出かけて行ったのだったら仕方ないな、とクスっと僕は笑った。そんな人殺しの下に帰って付き合うだなんてまぬけだから、とか、そういうのではなく、どうしても元カレが良いのであるなら、元カレの誠実な姿が見たいのなら、彼女から口に出すべきだ、とも思ったからだ。
無常な心が紡ぎだす一筋の願いは、必ず叶えられるべきだ。
僕が亜子が殺されてしまうのではないか、とか心配したって無駄だ。結局は、元カレと彼女の関係次第なのだから。
想いは心の静寂を保つ。
願いはその静寂を破る。
元カレと彼女は危険な関係だろう、とは思う。
しかし、僕はそれ以上に、元カレにも彼女にも足りないことはあったのではないか、と思えるのだ。
僕は観測できる事柄を述べたまでだ。
しかし、彼女は許さないだろう。
元カレとの関係も。
僕の一心なまでの誠実を。
それは当然だ。
彼女は悩んで迷っている内は、まだ彼女の行くべき道を知らない。
未来に歩むべき道を。
道に悩んでいる内に、僕の下に還ることも僕自身は甘いから許してしまうけれど、彼女自身が許さなかった。彼女は自分を断罪しているのだ。
その数日後、彼女からメールが届いた。元カレと付き合ったとのメール。でも最初の内だけなんだよな、優しいのは、束縛ばっかで、蔵人と一緒、とか愚痴って笑っている。
そのメールを見せつけるんだろう。多分笑えないだろうな、自分のやってきた束縛という過ちが度を越えて暴力に結び付くだろうし。また、その瞬間にも、同じメールを見せるんだろう。
それが彼女の武器だ。元カレは彼女に付き合いからの自由を与えるわけではないだろうけれど、多分彼女に何かしらの空白の時間を与えるのではないか、とにらんだ。
予想は的中した。数か月平穏な日々が続いたが、しかし突然、彼女に暇が出たのだ、もう好きにしていい、とのこと。
元カレからそういわれたけど、どういうこと、と彼女は僕に聞き直した。
僕は、にやりと笑いながら、僕のところに来るならメール入れておいて、とだけいった。
彼女の人生も、彼女の白い顔も、きっと元カレのものになるかなあ、どうなのかなあ、と笑って見つめていたあの頃が懐かしい。
やっぱり僕のものになったんだね。
これが僕らの、どうしようもないくらい、不幸せなハッピーエンドだ。
元カレは自殺した。薬を大量に飲んだらしい。そんなところをアップロードして動画でプレゼントしたみたいだった。彼女はおぞましいとだけいって、僕に見せた。僕は、多分、笑ってはいなかっただろうけれど、気分は平行線だった。ダウナーというよりかはアッパーだったけれど、多分、そうさせたのは、ボクシングで勝った時の高揚感に似た狩人の興奮に似ているだろう。
僕は、獲物を狩ったのだ。
君という、秘宝のような獲物を。
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