Episode.8...Luck or lack.
僕の時を彼女と共に刻む時、月が出ていた。スーパームーンが見たいと、嘆く夜に、僕らは自転車で走っていく。
ペダルを漕ぎだした先には―――。
無数の青白い白熱灯と共に浮かび上がる亡霊の集まりにも似た石碑の形がどこか奇妙で、美しく僕らの鏡面のような瞳に映った―――。
煩い羽虫の集まりが、僕らの神経を狂わせる。それは、青白い白熱灯に浮かびあがる熱帯夜、僕はスマホのTicTokの動画で、花火をファンキーに乱舞させる動画を流した。
その姿に浮かび上がるは友人の白い顔。
その名は亜紀。僕の唯一の親友だった。
不安定な夜に四季を感じなくなってきた時代に僕らは夏に花火を流す。
これが僕らの精霊流しだった。
さあ、始めよう。
亜紀と付き合う演技はもう終わった。
「バイバイ、亜紀さん」そういうのは、絵美里。そう、今まで亜紀と言い合ってきたのは絵美理に対する嫉妬心を沈めさせるためのプレリュード。
実は、あの熱に浮かされた時に死んでいたのだった。もう、僕らの日々は刻むことは出来なかった。だから絵美理に頼んで、亜紀であるフリを演じてもらったのだ。だからその間までは僕は絵美理のことを亜紀と呼んだ。
そんな日々は楽しいというよりかは単なる亜紀と僕だったらこうするだろうという演技だったのだ。もうそれは終わった。
「Goodbye yourself」僕は聞こえない声でそう言った。もう、亜紀には感謝しきれないくらい感謝している。
だって好きだったから。
そのくらい亜紀は僕の傍にいてくれたから。
それが天使の羽根が肩から生えてきそうなくらいの双眸で僕を見つめていたのが、もう突然いなくなって急きょ思いついた絵美理と僕の最後の演技。
喧騒が弾け、閑静な石碑に僕らは佇む。風力発電のプロペラはこれからの未来を予想させるような未来的な夢の形を描いていて、僕らを見降ろす。それが流線型で綺麗だったね、と最後に僕らは絵美理と酒を飲み交わし、誓いあった。
僕らも、亜紀の世界と別れ、共に歩んでいこう、と。絵美理には彼氏がいると言ったが、彼氏に協力してコスプレまでして最後のデートに駆り出したのだった。
絵美理が彼氏の名前を呟いたから。
意地悪して、亜紀との演技を限界まで引きのばした。
それが気に食わなくって、僕と亜紀は喧嘩した。
多分、その筋書きは間違っていて、そういうフザケタお遊びをするほど、亜紀は単純じゃなくって。すっきり澄みとおった眼で、僕のことを見て微笑んでいたような彼女には似合わないだろう。
そんな事実も全部知っていたから。
「じゃあ、別れるか」
「そうね」
「彼氏には言ってきた?」
「うん、ばっちり」
「そっか、じゃあバイバイ」
別れる僕らには、何もなくって。
友人として出会い、協力してくれた舞台に一個の確たる自分がいて。
また、僕は彼女を見つけるだろう。
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