Episode.5...Rainy blue mind in holiday.
今は夏、僕は夢幻の記憶を思い出す。
僕の刻んだ意思は遠く黒い過去から白い光を取り出す。
そうだ、あの遠く高い青空の下、砂浜で亜紀はダンスをするように手を伸ばして―――。
遠い記憶は波のように寄せては返していく。
そうだ、白い光が影の濃淡を醸し出し、亜紀と一緒に図書館に入ったあの頃。
僕は、最近の雑誌を手に取っていたけれど、亜紀は古風に小説を読んでいて。ページをめくる手が、途中で止まる。
『―――ねえ、私を彼女にしたら、疲れるでしょ、結構?』
『君が言うほどではないことくらいは、既に分かっているんだろう。……僕のこれからの悩んできた道のりを君も知っておくといい。多分、僕の本当の姿が分かるだろうから』
『―――悩みを隠さず言わないで我慢してきたのってそんなの疲れないの、ってこと』そう言って、亜紀は僕に手を置いた。僕も手を握り返す。借りようとまでは思わなかったので、そのまんま自販機でコーヒーを買って出て行った。
夏は、どこまでも真っ直ぐに、素早い動きで時が回りだして。そんなたわいのない日々で終わるかと思っていたら、ひょんなことに友達になった人がいる。それが絵美理だった。
―――もう好きな彼氏出来たからあなたは友達ねっ、て。
僕は返事をクシャクシャにして二人を連れて映画館に連れてった。絵美理は、えっ、でも彼女さんと映画館行った方が良いんじゃない?というと、亜紀は了解した。僕は亜紀のあの性格を見ているからわざとこんなシチュエーションを確約したんだ。亜紀はきっと了解するだろう。そっちの方が恋愛は盛り上がるだろう、くらいにしか僕は考えていなかったが、彼女は映画の意見が知りたいみたいで、是非来てね、と何度も念を押していた。
青空の下、駅のロータリーで君を待った。改札口の中から君はプレーリードッグのようにちょこちょこ顔を出している。
やはり君の姿は眩しい―――君を選んでいて、多分僕は僕らしくいられる、そんな気が一瞬よぎる。
水木亜紀は、今年の初夏に更に綺麗になった。一言で言えば、等身大の王女のような、そんな印象を受けた。空には満月の残像が見えた。駅には人が一杯いる、昼前だしね。そんな白昼堂々に僕らは腕を振ってあいさつした途端、僕は彼女の手を繋いで、肩に手を回す。そして肩に回した手を離す。すると、彼女は最初は戸惑っていたけど、次第に慣れてった。
「ねえ、近くにカフェがあるから行かない?」
「いや、そうするよりも、映画館に持ってく飲み物近くのスーパーマーケットで買う方が良い」
「ああ、そういう事」
僕はブラックのコーヒーを選んだ。彼女は、ミルクティーを選んだ。タピオカミルクティーは後で吸い込む時上手く吸い込めないからって、遠慮していた。後、丁度ベーカリーがあったから、彼女とシェアするために、ちぎりパンを三つほど買った。ミルクが入っているらしく甘い味がしそうな気がする。彼女は、僕の分もシェアするためにソースコロッケパンとBBQ風ハンバーガーをそれぞれ買った。
僕らは店のショーウィンドーを通り過ぎ、そこから出ていくと、絵美理がぷんぷん怒っていた。
―――あなたの彼女さんになったら、そんな特典が付いてくるんですね。もう!と皮肉交じりに言っていた。私にも買って下さいよ、もう。一緒に行くんですから。絵美理がそういう。
「ただいまより絵美理様は僕からのサービス受ける場合は有料になりまーす」と僕は答えた。絵美理は悪戯っぽい顔で肩を軽く叩く。
「はい、誘ってくれたお礼にクッキー焼いたんだ」そう言って、絵美理は有料の代わりに、リップサービスをプレゼントしてくれた。僕らはバスケットに入った、袋包みのクッキーを受け取ると、案外美味しかった。
「張り切ってチョコミントにしたんだけど、どうかな?そっちにはカモミールを入れてみた。本当は紅茶にいれる予定だったんだけど、余ったから丁度良いかなって」絵美理は照れながら言った。彼女の味覚は間違っていなかったので、今度は僕のおごりで二人にパフェを奢った。二人は大きなものをチョイスするかと思ったら、アイスクリームの載ったパフェをそれぞれ注文した。今が暑いからだろう。僕も習って注文すると、店員さんが気さくに、彼女さんに店に入ってくれた記念にチョコレートのプレートで書いたネームプレートをプレゼントするから、名前教えてくれ、というので教えた。
しばらくすると、店員がパフェを持ってきてくれた。全員バニラアイスの付いたパフェを注文したが、亜紀と絵美理と僕のものには、それぞれネームプレートで「thank you for○○(名前)」と書かれていた。中々粋な心遣いに感謝した。店員はいえいえ、と挨拶して去っていった。ネームプレートが溶けないうちに、早く食べきろうと三人は急いだ。どうやら生チョコらしく、持ってきたときも若干溶けていた。そこまで計算しなくていいのに、と残念だった。バニラやベリーや各種フルーツの層が何層も分かれており、そこにネームプレートのソースが絡むと丁度いい味に仕上がった。凄い演出だな、と思えた。
それを一しきり堪能すると、映画館に辿りついた。映画館でミッションインポッシブル-フォールアウトーを見た。エンターテインメント性の溢れる映画で、最期は世界全土を巻き込む闇の組織との対決が見逃せない。
「何だか、ストーリーが複雑でよく分からなかったわ」そういうのは絵美理。
「まさか何重にも展開が凝ってあって驚きの連続だった」そういうのは僕。
「うーん、映画のチョイス間違えたかな」そういうのは亜紀。
「どうして?」僕が聞き返す。
「楽しかったけど、申し訳ない程度にラブストーリーが入っていたのが気に食わないかな」と言った。「これはエンターテインメントであって、色んな要素が入っていて面白かったけどね。でも、ラブストーリーだったらアニメで見るかなあ」
まあ、確かにとも思う。新海誠監督作品にほぼ間違いはないし。来年公開だろうから、見に行けばいい、と言う。
亜紀はうーん、と唸っていた。でもやっぱ、リアルで描かれた映画が見たいのよね。恋愛だし、と一言。まあ彼女なりに悩みがあるのだろう。
昼前だから、結構人は混んでいて、その中でもとりわけ混んでいた方に思うが、映画を見る分には何も問題なかった。ただ食事はどうかな、とも思えたので、遠慮した。ハンバーガーのサイズが少し大きく、ソースが出ちゃう可能性があったからだ。他の観客に付いちゃったら、大変である。
そんなこんなで後はボーリングに言った。ハンバーガーもすっかり冷え切って、残念だったが、仕方無い。とんだシチュエーションだったが、絵美理もボーリングは満足したらしく、サイダー持ってはしゃいでいた。
「やった、ターキー」
「すごーい、絵美理さん、半端ないね」
「でしょー。昔中学時代に小さなボールで腕を鳴らしていたのよね」
「おおー」と僕。
結局僕は二回ずつ地道にピンを倒し、順々にスペア。亜紀も同じくスペア。絵美理だけだった、ストライクの連続は。まあ、僕らみたいな初心者の腕だとそんなものかもしれない。
―――ああー、英吾とくれば良かった。まだ、アイツとだったら盛り上がったのに。
絵美理はそう言った。英吾とは誰だろう、と思い訊いてみようかと思ったら、亜紀が立ちふさがって聞けなかった。後で聞くと、友達、と一言。どうして友達と来なくちゃいけないのだろう、そう思うと、どうでもいいでしょ、と一言。何だか意味深な一日だった。
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