Episode.4...Sudden appearance for her.
「陰で見ていて素敵だな、と前々から思っていて、付き合いたいな、と思っていました。もし良かったら、これどうぞ」
何だ?急に。僕は、校庭に呼ばれて、目の前に現れたのは、絵美理と名乗った女子。
僕は焦った。あれ、そういうシチュエーションもあるのか、と思うと同時に、告白しよう、と思っていた亜紀には申し訳ない想いがあったけれど、彼女の文言を思い出せば、そんなものは杞憂かもしれない、と思い直す。
……しかし、と思いだす。告白私からしようか、みたいなこと言っていなかったっけ?亜紀は。そうだったよな。でも素敵な人が現れれば、多分もう諦めてくれるんだろう。
―――森の木陰のような場所で、モスグリーンの木漏れ日が僕を撫でるように白い剣のような光が差す。僕と新たな彼女絵美理との出会いだった。
しかし、選ぶ時間があった方が良いのかな?、でも僕にはあまりそういう大人な事情は分からない。単純だからだ。多分、そもそも彼女の事を知らないから、単純にそういう発想に至るのか。しかし、後でその選択は多分彼女の事を真剣に思っていれば間違いではないことを知る。
「私のこと、好きだったら、後で返事下さい。手紙に書いておくだけで良いですので。急に言われても困るだろうし。じゃあね」
「そうだね」
僕は、その発言をした理由を考えた。どう見たって彼女持ちかもしれない、などと考えたから、と思えたからの発言かもしれない。
しかし―――綺麗に整頓された亜紀の部屋を思い出す。亜紀は僕の彼女と約束したが故の発言なのだろうか?
それが分からず、発言出来なかったのを察したわけではないだろうが、多分僕に事情があるだろうな、くらいには察したに違いない。それだけの大義名分などという名分は存在していなかったけれど。
いくつになっても女の子に夢を見る男の子はいる。それは多分どこまでが夢であったのか、現はなんなのか、ということを考えているというだけではない。
僕は今まで単純に、女の子を知らなかったのだ。仕方がない。想像して手紙を書く外ない。全てが、善の行動をしてくれるわけではないだろうが。全てが悪だというわけではない。何を持って善とするのかも、悪とするのかも分からない。人間悪だと断じるのは簡単だ。
故意に失敗したら悪だ。ただそれだけの話である。故意でなければ、概ね僕をコントロールすることは多分彼女にとって正解だと思ったのか。彼女は僕を管理したいと思って告白したのか。
そうかもしれない。だからこそ。
断ることに決めた。単純にどれが正解か、などという話ではない。どれが合っているのか、という話でもない。単純に、管理の内容にも拘る。僕は割と日常生活に煩いのだ。邪魔はしないで欲しい。僕が僕であることを。たったそれだけの理由である。それを全て聞き入れてくれそうだと思えたのが彼女こと亜紀であった。たったそれだけの理由で選択しているのも彼女は友達から入ってきたからである。お互いの事を知れば、彼女である理由も自ずとわかる。彼女でいなくてはならない理由も分かる。
たった、それだけで続けている関係だった。でも彼女を知れば知るほど、どうしても彼女でなくてはならない理由の方が増えていき、内心絵美理からの告白は困っていた。
というのもある。
友達からの関係はアリだろうか?でもどんな態度を取られるのかが分からない。断り文句だなどという風潮があるが、僕にとっては困る話である。そもそも選ぶにも選ぼうにも選ぶ根拠が全く無いからだ。そんなもの単純に獣なだけである。
僕は僕であるには。
友達を作るしかなかった。いつまでも友達でいれる関係は誰なのかが分からなかったから。だから僕なりに考えているのに。僕の理由を聞き入れない女の子は要らないだろう、とも思える。そもそもが、そもそもの理由であるし。単純に。そうだろう。単なる管理系女子かもしれない。
真相は闇の中だったけれど、闇の中に入ってみよう。藪蛇かもしれない。でもどんな人か分からない以上、そうして決める必要性しか残っていないだろう。
『告白は断ります。あなたの事が分からないので友達から知りたいです。陰で見ていたと言われても困ります。あなたの事が分からない以上友達から入るしかないでしょう。知らない男と付き合っても僕自身演じるのは獣しかありません。そんな関係は嫌です。』
僕はそう書いた。遠くから、女子の笑い声がしたのは気のせいか。
さあ、返事はどうだろう?
一応、LINEで、亜紀には返事した。返事は既読スルーだった。そうだろう。彼女も悩んでいるかもしれない。返事は後になって返ってきた。
『それは良いと思う。しかし、多分断られるかもしれないよ。彼女もそんな時間無いかもしれない。進学校で中々会えないだろうし、友達作っても中々会えないだろう、とか色々考えるだろうしね』
……どうして、君と会って誕生日会開いているのに、一々進学校の話を持ち出したのだろう。もしかして、彼女には会えないのか。それとも、素敵な人が亜紀より先に出来たから、なのか。と最終的に思い至り雷に打たれたような想いがした。真相を確かめよう、と思い返事を切りだした。
『君に会いたい』とだけ送って切った。
返事は、来なかった。
今日中には、来なかった。
僕には理解できなかった。多分、彼女なりの断り文句だろうか、みたいに考えたのだろうか。分からない。
何もかも謎だった。
『さっき、心に触れたその先が、愛だとしたら、私たち以降の道の先って確かに永遠なの?』
『でもあなたにとってそうじゃないんでしょう?』
『だから私は警告したの。全てが偽りの感情で動いているから、貴方は獣のようになってしまう―――だから』
翌日、亜紀から、不思議なメールが届いた。
僕は、言葉を反芻するが―――、僕は、多分亜紀は、絵美理を選ぶのであれば、それを捨てた先が愛だとするならば、きっと亜紀とは幸せになれるだろう。そういった単純な愛の先に潜むのは障害だろう。山のように転がったハードルに僕はのめりこむだけのような気もする。ただ、一時の感情で決めてしまうような仲を考えているわけではない、ということを彼女から悟った。
彼女は、亜紀は、彼女らしさって、亜紀らしさって、よく知らないままで、ただ話が合うという間柄で、どうでもいい間柄を続けてきたわけだけど、彼女にとってはそれは、僕を試すだけの試練に合格していたのだろう。しかし、そこから先は分からない。何が起こるのか、ただ一方的に彼女が僕を愛しているとも取れる文章を送った意味も分からない。
彼女は愛していなかったはずだ。これは、どういうことだろう。でも、彼女は好きだったけれど、最後に僕に彼女なりのとどめを刺したつもりだったのだろうか。
亜紀なりの、最上級の告白を、僕は振り払える勇気はなかったけれど、僕は、ここで迷ってしまったら、僕と彼女の関係は壊れる、そういう打算的な愛でしか答えられなかった。
『言葉の意味はあまりよく分からなかったんだけど、もし、僕を選ぶのであれば、もう一方の彼女の事、諦めようと思う。だけど、そうではないのであれば、邪魔はしないでくれ』
そう送ることにした。暫くたって、亜紀から返信が来た。
『会いたい。今すぐ』
丁度今日は天皇誕生日だったから会いに行こうと思えば会える。僕はタンブラーに、ラズベリースムージーを入れて持って行った。亜紀の家は近い。
会おうと思えばいつでも会える。
しかし、彼女の言葉の内『心』という大事な言葉を借りれば、『心が反発しあって、僕たちが抱き締めあえる距離は無限大に遠い』
彼女の答えは、家から出迎えただけでは分からなかった。しかし。
「ごめん。ゴホ、ゴホ。今咳止まらなくってまともに考えられない。熱もあるって母さんが。でも私が出ていった方がいいでしょ、って母が言ってた。こんなときに何言ってんだか。ああきつい、ケホ、ケホ」
「どうしたの、夏風邪?」僕は手をおでこに当てると、彼女がそのまま近づいて抱きしめた。
一瞬の間があった。彼女は僕の胸の中だった。そっと僕は彼女を包む。僕は頬が熱くなる。何も考えずに家まで走ってきたから、彼女の突然の事についていけない。
―――ごめん。
―――何があったんだい?
―――もう少し、このままでいさせて。
―――中に入ろう。
彼女は部屋で、アニメを見ている最中だった。音楽もかけている。
ロックが奏でる部屋の中。
彼女は僕を押し倒した。
「ちょっと、何してんんだ!」
「ねえ。貴方―――私と付き合うつもりあるの?それだけ、はっきり聞かせて」
「分からない、多分。好きだと思う」僕は口に出たのは―――そんな、馬鹿みたいに分かり切ったことだった。
「私、考えたの。もう、この先どうなってもいいって思ったわけじゃないけど。貴方とだったら一緒にいれるかなって」
そう言って、彼女は僕に口を付けた。
長い時間だった。
僕は肩をまわして、離さなかった。暫くの間、アニメが終わった音が聞こえても関係なかった。
僕らの心の距離は、今この瞬間砕け散り、のめり込むくらい近づきあった。
やがて、彼女から口を離すと、倒れ込んだ。熱が出ているため、毛布と氷枕を用意した。ラズベリーは健康には良いと思うけれど、こんなときに飲むものではないかなあ?
そう思って尋ねてみると、意外に彼女はOKしてくれて。
後で色んな駆け引きの顛末は、亜紀と僕の間柄を引き裂く第三者の存在で、急接近させてくれる大事なシチュエーションになったようで。
僕は心の内でファンファーレが鳴ったような気分だった。
今度は僕の部屋に遊ぶ機会があって、家宅捜索みたいにエロ本を探そうとしていたので、はがいじめにしたら、痴漢扱いされた。そんなたわいもない遊びが、居心地良くって、でもオシャレは欠かさず続けている。
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