第四話

 結局のところ、夏休みの最終日は雷と停電と暗くたちこめた雲、吹き荒れる風でまるで「嵐が丘」のように終わった。

 あの後ひと眠りした母が夜勤に出る準備をしている間、夕夏はリビングの窓からぼんやりと窓の外を眺めていた。

 現在夏休みの最終日、18時半。

 お昼ご飯を食べながら、聡の「生活オール電化計画」を傾聴しつつ、その流れでyoutubeで電気自動車の動画を観て、また15時くらいから数学のワークと理科のプリントを片付けた。あとは数学のワークのチェックをするのだが、父がやると言ってたからお願いした。リビングを振り返ると、めちゃめちゃ集中している。

 夕夏が見てるのに気付いたのか、はぁーっと溜息をついて「丸付けって大変なんですよ」と言って背もたれにのけぞっている。だってお父さんがやるって言ったじゃんと思いつつ、お疲れ様ですと肩をもんであげた。


 丸付けを終えた聡からワークを受け取ると、ご飯が出来るまでの間、明日の始業式の準備をする。

 制服と靴下、ハンカチを確認して、あとはペンケースやノート、今日仕上げた夏休みの宿題をリュックにしまった。明日からは学校である。お盆以降は部活も登校日も無かったから、逆にみんなに会いたいと思う。

 タブレットから着信音が聴こえたので、「ザグワイア」を立ち上げた。見てみると、絵梨からだった。


(おっつー、宿題終わった?)

(ううん、ワークとプリントは終わったけど、課題は全然)

(まぁまぁ頑張ったじゃん。課題は仕方ないね)

(そうなんだけどさ。絵梨は全部終わった?)

(うん。でもまだあと一つあった。英語の感想文。知ってた?)

(知らんし!)

(最後の英語の授業で言ってたみたいだよ)

(マジかーーーー)

(まあまあw)


 チャットしてるとだんだん気持ちが乗ってくる。明日が、薄っすら褪せていた学校の風景がだんだん色付いてきて、夕夏は勢いをつけて飛び起きた。

 リビングでは聡が伸びをして立ち上がる。どうやら丸付けが終わったようだ。


 「めちゃめちゃ大変だったぜ」

 「ありがとございました!」

 「次は計画立ててちゃんとやるんだぞ。これは父さんからの宿題な。でないと次からは料金取る」

 「丸付けに?」


 笑いを堪えながら父の顔を覗き込むと、聡はおどけた顔をして立ち上がった。夕ご飯を作り始めた父の背中にありがとうと両手を合わせると、また窓の外に目をやる。窓の外は暗く、街の明かりがキラキラと風の中ゆらめいていた。雨はもう降らなさそうだ。

 夏休みの最後の日は、バタバタするのは仕方ないんだなぁと、他人事のように考えた。ゆったりと身にまとっていた時間が、速度を上げてもとに戻っていくのが判る。

 

 あーあ、お休みはもう終わり。

 遠くに時折輝く稲妻を見ながら、夕夏は小さなあくびをした。




 

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夏休み最後の日 マキノゆり @gigingarm

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