第二話
時計の針が午前11時を回った。
数学のワークはようやく半分、理科の元素一覧も同じく半分。国語のプリントは終わったが、作文が残っている。
これはもう無理だ。終わった。
夕夏は確信し、机に突っ伏して頭をガンガン机に打ち付ける。その音に驚いて、台所で片付けをしていた聡が様子を見に来た。
「どうした、なんか音がしたけど」
「……おとぉさーん……もう疲れたよぅ」
「まだ厨二のくせして何言ってんだよ。言っとくけど、自業自得だぞ? お母さんが起きちゃうから、静かにしな」
「でもさー」
「でもじゃない。間に合わないから最小限の被害にしようって頑張ってんだろ。あと少ししたらお父さんピザ取りに行くからな。ちゃんと進めとけよ」
聡がピザ屋に受け取りに出たと同時に、夕夏は家族共有のタブレットを充電器から引っこ抜き、ゲームアプリ「ザグワイア」を開いた。同級生で同じ女子バレー部の絵梨と一緒にプレイしているRPGのアプリだが、チャット機能が付いており、家に居る時に連絡用に使っている。
(絵梨、夏休みの宿題どうしてる?)
絵梨は今何してるんだろうか。ピコンとレスポンスが帰ってくる。
(今からご飯食べに行くよー)
えー。
(宿題終わった?)
(うん。昨日で終わらせたぜ。ゆかちんは?)
まだだよと返す気力も無く、夕夏はタブレットをソファの上に放り投げた。
もうこれは、本当に駄目なやつだ。絵梨だって、去年までは夕夏とどっこいどっこいだったのに。
この状況を逃れるには、不謹慎だが天変地異が起こるしかないだろう。
(ゆか、宿題まだなの?)
(うん、ちょっとやってなくてさ。みんなどんな感じ?)
(私もまだ全部終わってないよ。課題の新聞があと1つ)
(私は理科と国語のプリントかな)
(さつきはあとワークだけって言ってたよ)
(みんな同じだからさ、ゆかちんも頑張ろうね)
一緒じゃないし☆ もう、君たち優秀過ぎ。
もうここまで来たらどうしようも無いので、最低限ワークとプリントを仕上げることにして、夕夏は机に戻った。時計を見ると、もう11時半である。あと少ししたら父がピザを持って帰ってくるだろう。
ピザを思い出して気を取り直し、机に向かった瞬間、ふと部屋が暗くなったような気がして窓の外に目を向けた。朝は晴れてたのに、灰色の雲が重なり始めている。
やだなぁ、と思いながら部屋の電気を点けに立ちあがると、玄関が開く音が聞こえるのと同時に賑やかな父の声が響いてきた。
「いやあ、天気悪いぞ。午後は雷雨だってよ」
その瞬間、部屋の中に閃光がパチィっと奔り、空気が裂ける轟音がとどろいた。
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