第Ⅱ話 純白は浸かる


 ココがどこだか分からない。僕は、やっぱり攫われた………


「失礼な小僧だ」


「!!」


「少しは礼儀をわきまえている子供だと思ったから連れて来たというのに……」


「…………ぁ……」


 愚痴ぐちらしき譫言うわごとを聞かされているとポンっ、と肩に後ろから手を置かれる。


「旦那ぁ〜! そんなこと言っちゃ駄目でしょーよ〜、多感な時期っすよ〜?」


 糸目でローブをからかい笑う金髪の青年とも見受けられるくらいの女性。あの耳は……飾り物?


「……リフー。この小僧に風呂を」


「は〜い! じゃ……行こっか!」


 足をすくわれ、軽々と抱えられる。綺麗なカーペットのかれた廊下を進むと扉が開く。







 パシャア……、ゆっくりと温かい水が掛けられる。泡を落とされるとワシャワシャと真っ白なタオルで拭かれる。 


「じゃあ上がったら教えてね、〝どんな〟声の大きさでもオッケーよ!」


 バタン、とドアが閉まると水滴がタイルに落ちる音が響く。

 ………………意外だ。意外にもここは温かい場所だった。


「温かい水………………」


 いや、お湯か。それでも、お湯なんて


「何年ぶりだろ……」


 ……でも、そんな水の感動よりあの人、目を瞑ると眼前にはローブが映った。

 ……よく分からなかった。顔も身体も、血色も匂いも気配も。全部、ぜんぶ判らなかった。


「……っ」


 頭が、割れそうだ……。

 急におそって来た、耐え難い頭痛に頭が落ちてしまいそうになる。


「だれ__か___」


――……………!!!


「____」


 沈んだ意識の中で、もう一つの意識が浮き上がってくる。


__________________

____________


『お前は道具だよ、殺しに使う道具なのさ。殺すための道具なんだよ』


「……」


『黙って言われた通りに動けば良い』


「……」


『いいか勘違いするな!! アタシゃ殺し屋、お前はナイフ、俺が動けばお前は人間を傷付ける。アタシが動かなくてもお前は人間を傷付ける道具だよ!』


「……」


『返事はッ!!』


「………………はい」


 そうだ。

 誰か僕を人として、見てくれればいいなと、少し、ほんの少しだけ思っていた。


____________

__________________


「――!!」


 …………


「――ん――く!!」


 ……


「じゅ・ん・ぱ・く!!!」


「……し」


「純白!!」


「…………じゅ、ん…」


「うん!」


「じゅん………ぱ、く……?」


「そうそう! ………良かったぁ……」


 視界が安定すると、大きな耳を垂らしてため息を深く着く人が見えた。

 安堵の息が僕に掛かる。


「……ぼく………」


「純白くん溺れちゃっててさ、アタシが飛び込まなければ……って」


 そういえば、私が寝る前、金色の何かが飛び込んで来たような……。


「何か、じゃなくてキツネ、ね? キ・ツ・ネ!」


「……あぁ…………なるほ、ど…………」


 あぁ………また意識が……もう、駄目だ


「ちょ、ちょっとー!?」


「……あ………がと……ぅ___」


 そういえば、僕、裸、だったのかな。……別に良いか………どうでも。

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