魔法のローブの着衣弟子〜Rose〜

彼岸りんね

魔法使いの端くれに

第Ⅰ話 訓え


 昔、とても幼い頃。

 誰かに言われた。………いや、聞かされた。

 その人は僕にまたがり、なぶり、半狂乱になりながら言った。


「誰でもいいの……」


 女であれば。


「細身でも……、肥えていても………」


 女よ。


「どうでも、いいの、………ただ、」


 女。


「……光る……、服を……着た」


 女を探して捕まえろ。


「そんな………女は……


 金持ちだからねェ______」


___________

______


 ねっとりとした質の熱い息が耳に残る。あの時の感覚がさえぎった。


「ッ……」


 狙いを定める。宝石で身をかざった女。

 傷む身体を引き摺るように走った。


 ゴミ箱を足で弾きながら路地裏を抜ける。

 別世界とも思える神々しい光が照らす広間に飛び出して、女の脚にしがみついた。


「……、」


 それは一瞬の出来事。


 女は黒い紙の面の隙間から僕を見下すように、見定めるように見つめるとニヤリ、そう口角を上げていた。


 その刹那。私は、柔らかく歪ませる瞳と口だけが見える不気味な笑顔に、怯える隙きもなく何かに包まれてしまう。


「――――――ぁ……」


 私は知っている。会話の無い一方的な笑み、戸惑とまどう隙もなく瞬時しゅんじに迫る驚きで自由を奪う行為。


 これは誘拐。


 紛れもない誘拐だ。

 

 黒に視界が侵される中、僕は、やっと持てた希望に諦めと絶望を理解し、まぶたを閉じた。

 そして、一つ思う。

 

 …………………もう。なんでもいい。ただ、ただ、温もりが欲しい。


 幸せなんて望まない。僕が幸せに生きていい理由なんて、一つたりともあってはいけない。



 それでも。



「……」


 ただせめて、次の場所いえは灯りが灯っていれば。灯してくれる人がいれば___

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