第3話 決戦! スモル王国VSビックス帝国

 スモル王国とビックス帝国の国境に位置する森林地帯。

そこの木々を薙ぎ倒しつつ、黒い竜の形をした巨大なMBが、多数の中量級MBオーガを引き連れ進行している。

そして黒いMBブラックドラゴンから、こちらへ通信が入ってきた。


 相手はビックス帝国の帝王・ビックス3世という名の、でっぷりしたおっさん。


『アイリス・スモルよ。最後通告だ。武装を解除し、我が軍門へ降れ。さすれば国を焼くのだけは勘弁してやろう」


「ふっふっ……おとといきやがれですわ、クソ親父!」


 俺と一緒にゴブリンに乗っているアイリスは、汚い言葉を返す。


 美しい声に乗せて罵声を吐く……まさに俺の愛したアイリス・スモルそのものだ!


すると、画面の中に映るビックス三世の顔をがみるみるうちに、怒りに染まってゆく。


『小娘め、年長者への礼儀を知らないようだな! この戦いのあと徹底的に教育してやる! 全軍進め! アホ王女もろとも、スモルを滅ぼすのだ!』


 ビックス3世の命令を受け、数えきれないほどのMBオーガが進行を開始する。


「うふふ、それはこっちのセリフですわクソ親父! さぁ、ハイカキン様! いざ!」


「おう! じゃあまずは軽く揉んでやれ!」


「承知しましたわ! では……出番ですわよ、サクラ三姉妹! まずは敵をかき混ぜてやりなさぁい!」


 アイリスの命を受けて森の中から飛び出してきたのは、最弱のMBゴブリンが3体。

それぞれが弓、槌、杖といった個性的な武器を装備している。


『たかが三機のゴブリンでなにができーーーーう、うわぁぁぁーーーー!!』


 敵のオーガから響いた侮りの言葉がぷつりと途切れる。


 弓のゴブリンが放った矢が、あっさりとオーガの装甲を貫く。

しかもその一機だけではなく、続く複数体の機体さえも、貫き撃破する。


 次いで、弓のゴブリンの背後から姿を現したのは、巨大な鉄槌を持つゴブリン。

鉄槌が振り落とされた途端、激しい衝撃が生じ、砂塵を巻き上げ、複数のオーガをまとめて吹っ飛ばす。


『な、なんだ、今の力は!?』


『ゴブリンがこんなに強いなんてありえねぇよ!』


『怯むな! 相手はたった三機! 数でおせぇー!』


 体制を整えたオーガ軍団は、徒党を組んで再び進行を開始する。

だが、その一段は突然目の前に発生した、紫紺に耀く障壁に阻まれ、ガラガラと将棋倒しとなってゆく。


 その障壁の発生源もまた、杖を装備した我が方のMBゴブリン。


 サクラ三姉妹がそれぞれ駆る、弓・鉄槌・杖のゴブリンは縦横無尽に戦場を舞い、たった三機で大軍勢を混乱へ導いてゆく。


ーーサクラ三姉妹とは、スモル王国出身で、アイリスを守護する近衛のようなキャラクターだ。

この世界がゲームだったら頃、俺はありとあらゆるキャラクターを育てに育てまくった。

故に、このサクラ三姉妹も当然、レベルマックス。


 この世界での初めての戦闘の際に気付いたのだが、俺はゲーム内で育てたキャラクターや、機体のステータスを、本物へ付与できるらしい。この戦闘が始まる前に、さまざまな角度から検証した結果なのだから、間違い無いだろう。


「アイリス、さすがにサクラ三姉妹だけじゃキツそうだ」


「了解ですわ! さぁ、そろそろ出番でございますわよ、スモルヴァルキリーズ! ハイカキン様から力を賜ったあなたたちは無敵ですわよ!」


 次いで進軍してきたのは、これまたアイリス関連ということで、最大限にまで強化した、総勢5名のスモルヴァルキリーズ。

揃いの剣と盾を持ったMBゴブリンが、敵中へ傾れ込んでゆく。

その見事なまでに連携の取れた戦闘手腕は、次々とカタログスペックと数でまさるビックスのオーガを屠ってゆく。


 これが、今のスモル王国が持つ、戦力の全て。

機体性能だけで戦力を推し量れば、どんな愚か者でも、ビックス帝国側の勝利を信じて疑わないだろう。


ーーだが、この世界の人間はまだ知らない。今のこの世界には俺というイレギュラーな存在がいることを!


 俺はサービス終了のその日まで、このモンスバトラーズというゲームと、アイリス・スモルというキャラクターにガチ恋して、仕事以外の時間全てと、給料のほとんどを注ぎ込んだ。

 故に、あらゆる機体、あらゆる搭乗者キャラクターのレベルはすべてマックス!


 そしてそのデータを、この世界の機体や人間へフィードバックできる。

だからたった数機のMBで大軍勢に立ち向かえる。


 ただこの力には二つ制約があり、その一つ目が……


「ハイカキン様、サクラ三姉妹よりゴブリンの交換要請が出ております」


 やはりサクラ三姉妹のステータスに、ゴブリンの性能が追いつかず、色々と壊れ始めているらしい。


「予備機との交換を急いでくれ。スモルヴァルキリーズはその援護を」


「了解ですわ! ついでにヴァルキリーズの補給も用意しておきますわね」


 アイリスは前線に立つ王女らしく、各種連絡を開始した。


 本当はもっと上等なMBを用意したいのだが、今のスモル王国の国力ではゴブリンを用意するので精一杯。

それに俺の持つ力は、無から有は生み出せない。

つまり、能力をデータとして保有をしてはいるが、実機や本人が居なければ、その力を付与することができない。


そしてもう一つの制約がーー


『おのれ、スモルの小童どもめ! ブラックドラゴンの餌食にしてくれる!』


 ほとんどのMBを失ったビックス三世は、ついに自ら動き出し、乗機のブラックドラゴンは激しい黒炎を吐き出す

サクラ三姉妹とヴァルキリーズは、果敢にもブラックドラゴンへ立ち向かうも目立ったダメージは与えらられず、次第に押され始めた。


 俺の頭の中にあるブラックドラゴンとビックス3世のステータス値が正しいならば、現状のレベルマックスゴブリンに乗ったサクラ三姉妹とヴァルキリーズで十分に対処ができると思う。しかしここまで押されてしまっているのは、俺の持つ能力のもう一つの制約ーー距離の問題だ。


 どうやら距離が離れてしまうと、半減とは行かずとも、能力値が低下してしまうようなのだ。


 そういった不便に感じさせる部分はあるのだが、その逆もまた然り。


「アイリス、状況は?」


「サクラ三姉妹、ヴァルキリーズ共に、苦戦をしつつもブラックドラゴンへダメージを与えていますわ」


「よし……じゃあ、そろそろ行くか!」


「きましたわ! 腕がなりますことですのよ!」


 興奮しているのかアイリスの口調が怪しく、後部座席で苦笑いを浮かべる俺だった。

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