第2話 俺は伝説の英雄ハイカキン様!

 うおっ!? 出た、名物アイリス語! まさかリアルで聞ける日が来るだなんて最高だ!


 アイリスの意思を受け、ずんぐりむっくりなモンスバトラー・ゴブリンが立ち上がる。

機体に群がっていたシアンの連中がボロボロと、地面へ落ちてゆく。


『ちぃ、無駄な足掻きをしやがって! そのMBぶっ壊してやるぜ!』


 オーガが手にした大斧を振り落としてくる。


「うふふ……そんな攻撃ヌルいだよ! と、思いますですことよ!」


 しかしアイリスは巧みな操作でゴブリンを動かし、回避を行動を 続けている。

しかもちゃんとアイリス語付き。もう、俺、いつ死んでもかまいません……!


「ぬぅ!? やっぱりゴブリンではオーガに敵わないのかしら!」


 だが、スペックが段違いなオーガに対して、アイリスのゴブリンは逃げているばかりで、全く攻撃を加えられていない。


……いや、待て……アイリスのキャラスペックが、本人に反映されたということは、もしかして!


 俺は機体項目から、レベルをカンストさせているMBゴブリンを選択。


「アイリス! 今から俺がMBの性能を押し上げる! ちゃんとついてけよ!」


「どういうことですの、それは!?」


「心と身体で感じるんだ! そうすればできる! 君ならできる!」


「心と身体で……承知しましたわ、マスター! 素敵なお言葉ありがとうございますですわ!」


 俺は所有機体一覧からカンストゴブリンの項目を選択、そしてクリック!


 途端ーー


「わわ! 急に機体が軽くなりましたわぁぁぁ!」


 目まぐるしくグルングルンと回る視界。

アイリスは当初、性能向上したゴブリンに戸惑い気味だったが、やがてーー


「これなら……ぶっ殺せますわぁ! おほほ!」


 まる闇落ち時のようなテンションで、敵のオーガの装甲を剥ぎ、腕をもぎ、頭部を凹ませるアイリスとMBゴブリン。


 いいぞ! 俺の大好きなアイリスらしくなってきた!


「ひぃさつ、ゴブリンパァーンチっ!」


『あがァァァァァァ!!!』


 ゴブリンの拳は、機体スペックではこちらを遥かに上回る、オーガをあっさりと突き飛ばし、一撃粉砕!


「おとといきやがれ……こほん、ですわ。おほほ!」


 これぞアイリス・スモル! この戦闘になると、口調が荒くなるのがいいんだよなぁ!

まぁ、他のプレイヤーはこの娘のことをネタ枠キャラなんて言いってるだけど……


ーーシアンのモンスバトラー・オーガを撃破しました。併合しますか?ーー


 そして視界に浮かんだ見慣れた文字。答えは当然YES!


 こうして、本筋のシナリオがまだ始まっていないにも関わらず、本来滅ぼされるはずだったスモル王国は領地を広げたのである!


●●●


「もしやマスターは、伝説の英雄"ハイカキン様"ではございませんこと!?」


 シアンを併合し、姫のアイリスを救ったということで、スモル王国で歓待を受けていた俺へ、件のお姫様はそう問いを投げかけてきた。


「なんですか、そのハイカキンって……?」


「国が危機に陥る時、ハイカキンと言われる英雄が数多の奇跡を起こし、我々を救う。古くからの言い伝えですわ」


 元の世界だと冴えないリーマンだったから、英雄って言われるのはすごく嬉しいけど……ぶっちゃけ、ハイカキンと呼ばれることは微妙である。


「なので、これからはマスターのことを"ハイカキン様"とお呼びいたしますわ!」


「あ、うん、わかった……」


 まぁ、アイリスから様づけで呼ばれるんだから、よしとしよう。


「大変です、王女様! ビックス帝国の連中が、こんな書簡を!」


 と和やかな宴席をぶち壊す不穏な言葉ともに、給仕長が駆け込んできた。


 アイリスは書簡を開いて熟読し、そして眉間に皺を寄せるといった、怒りの表情を見せる。


「まさかビックスからの宣戦布告だなんて……!」


 あちゃー、これはやっちまった。多分、俺が属国のシアンを併合してしまったからだ。

そりゃどこの国だって、自分の領地をぶんどられりゃ、心穏やかじゃないわな。


「伝説の英雄ハイカキン様! どうか我が国を再びお救いください! お願いします!」


 アイリスの宣言を皮切りに、全員が俺に傅いてくる。


 ここまでされちゃ、やらないわけには行かない!


 それに、俺自身、試してみたいことがある!


ーーそうして、諸々を試し、自分の持つ力に納得した俺は、アイリスたちと共に、いよいよビックス帝国との決戦に臨む!


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