第4章 遠い記憶
チャプター1
地下4層、圧力の森。
一足先に向かい、ハーモニック・サークルを詠唱したハティエルの周辺が光り輝いた。戦闘がなければ半径10メートルもあれば十分だろう。
程なくして残りの3人がテレポートをしてきた。普通に立てることに驚くと、禍々しい森を見る余裕も出てくる。
どこからか、ドギャァァ!という、鳥のような鳴き声が聞こえてきた。
ハティエルは地図を思い出し、
「まだレストシンボルにいかなくていいよね?」
と言った。
エリシアが頷いた。
「適当にうろつきましょう。まずは戦闘ですー」
10分ほど歩くと、森の上から3匹の悪魔が襲いかかってきた。
殺気はあらかじめ感じていたため、ハティエルはハーモニック・サークルの範囲を広げると、冷静に1匹を盾ではじき飛ばし、もう1匹に突撃した。グレーターデーモンの落とした『デーモンスレイヤー』は文字通りに機能し、悪魔の体を斜めに切り裂いた。
残った1匹は飛び上がったエリシアが力任せに地面に叩きつけていた。地面に衝突する瞬間、ボルトラが槍を持ち上げて斧の部分を落とした。それは、悪魔の背中に突き刺さった。
だが、致命傷にはならなかった。ダメージをおいながらも、悪魔は飛びのいて距離を取った。その間、ハティエルは盾ではじき飛ばした悪魔を追いかけていたのでカバーには入れない。
エリシアは悪魔に向けて攻撃を仕掛けた。素早いラッシュを繰り出すが、悪魔の蹴りを食らって木にぶつかり、地面に激突した。
ミュカが回復魔法をかけてやる。その間、ボルトラがなんとか抑えるが、相手の力が強く、攻撃を食らったらどうしようという緊張感があった。
悪魔は右手で炎の塊を出すと、それをボルトラの腹めがけて飛ばした。接近していたため、ボルトラは直撃を受け、うめき声をあげながら、地面に倒れた。
傷のいえたエリシアが再度突撃をする。顔はニヤニヤしており楽しそうだ。ボルトラの傷を素早くいやしたミュカも、興奮しながら魔法を詠唱し、風の刃を悪魔に飛ばした。
悪魔はエリシアのラッシュを受けた。今度は足にも注意をしたエリシアは、悪魔の動きを固定する。
そこへ、ミュカの魔法が飛んでくると、エリシアはさっとよけた。悪魔はその魔法をくらい、左腕が切断された。
大きな声をあげて、ショックを受けている悪魔の後頭部から、エリシアは重い一撃をくらわせると、悪魔は絶命し、蒸発した。
ハティエルも戻ってきた。先端が三叉になっている黒い槍を持っている。
「この剣凄いね。相手が悪魔なら、私でも余裕で戦える」
「こっちはめちゃくちゃキツかったですよー。早く新しい装備が欲しいですねー」
それを聞いたハティエルは槍を前に出した。
「ボルトラって、これ使える?斧がついているタイプじゃないとだめかな?」
ボルトラは頷きながら受け取った。
「槍なら一応いけるぞ。これは悪魔が落としたのか?」
「うん」
その槍は『デーモンフォーク』といった。
ハティエルの剣とは逆で、天使に対して効果があるらしい。ただしそれはダンジョン内で出てくる物語上の天使と悪魔の話であり、現実の天使であるハティエルにはまったく効果がない。
ボルトラは頭上でくるくると回し、感触を確かめてみた。
突きが主体の槍は久しぶりだが、今の鉾よりもずっと良い。
前に向けて、何度かラッシュしてみる。
エリシアは両手を合わせて喜んだ。
「鮮やかですねー。そっちの槍もいいじゃないですかー」
武器を手にすると、先程まで落ちていたテンションがウソのようであり、モチベーションが湧いてくる。ボルトラは早く次の戦いをしたかった。
ボルトラはそれに気づき、ふっと笑った。
「病気だよな、完全に」
ハティエルは言った。
「なにが?」
「あ、いや、なんでもない。次行こうぜ、次!日が落ちるまでにはまだまだ時間があるぞ!」
エリシアは元気に右手をあげた。
「おー!」
-※-
その日は日が沈むまで地下4層で経験を積んだ。
安全な転送位置の周辺で休憩を繰り返しながら、少しずつ戦った。
敵は地下3層と比べるとかなり強くなっていること、そして、ハティエルが得意な悪魔以外の敵も当然おり、4人は苦労した。
敵は単体で出てくるとも限らなかった。ハティエルが1体を引き受けている間、残りのメンバーを相手にするのは骨が折れた。敵は強くなるが、重戦士や格闘家の防御力が大幅にあがることはなく、攻撃が致命傷となりうるのはヒヤヒヤした。
デーモンフォーク以外の良さそうな武器はなかなか落ちなかったが、冒険の終わり頃にミュカの杖とハティエルの盾を手に入れることができた。
ただし、それは『スパルタカスポール』と呼ばれるもので、持ち主の腕力をあげて攻撃できる物理攻撃用のものだった。当然、前線に出ないミュカには不要だった。格闘家であるエリシアが棒術をマスターしていれば有用だったのだが、残念ながらそれは無く、ギルドにまわすことにした。
それでも、ギルドにとって初の地下4層の装備であり、相当の値段で取引されたし、ギルドは更に高値で武器屋に流すことになった。地下4層のブランドは凄く、すぐに売れたため武器屋も当然、儲かった。
一方、ハティエルの盾も大型の『カイザーシールド』と呼ばれるもので、重くて使えないため回すことにした。こちらはギルドではなく、お世話になったオベリオに直接流した。
オベリオが喜んだのは言うまでもなかった。
買い取るお金がないというオベリオだったが、ハティエルたちはもうお金は十分にあった。それを理由に無料であげたことで、彼は歓喜の声をあげた。
次の日、ミュカを除く3人が筋肉痛になった。敵が強く、限界以上に力を入れていたようだ。
残念ながら、現状のままではレストシンボルにすらたどり着けないだろうという判断になってしまう。
幸運なことに、誰一人折れておらず、しばらくは入り口で修行をしようと気合を入れていた。ハティエルには不思議だった。軽い興奮状態で敵と戦うボルトラたちを見て、そんなに面白いものなのかと感じてしまう。
戦っているうちに、アイテムも増えていった。
攻撃を受けると雷のカウンターを出してくれる『ショックシールド』、堅牢だが軽量な『ディバインシールド』。この2つの盾は、ハティエルの好みでディバインシールドを使うことにしたが、ショックシールドも部屋に置いておく事にした。
エリシアも『グリードナックル』という、超硬度の武器を入手し、攻撃力がアップした。やや重いが、本人は根性で使うと元気に言っていた。
そして、ミュカの杖がドロップした時、赤く輝くオーラが溢れ出した。先端に赤い鳥が羽ばたくようなモチーフがつけられているそれは、柄の重厚な木と豪華な金の装飾があり、見るからに凄そうなものだった。
4人はその杖に圧倒された。
その杖は『鳳凰の杖』と呼ばれた。ミュカが手にした瞬間、杖から流れてくる膨大な魔力に押しつぶされそうになり、目を閉じて両手で力強く握りしめるのがやっとだった。体はプルプルと震えた。
エリシアは、
「大丈夫ですかー?」
と不安そうに聞いた。
ボルトラも続く。
「捨てたほうが良くないか?それ」
「いえ、おそらくこれは『アンジェリックウェポン』です」
「なんだそりゃ」
「簡単に手に入らない強力な武器ってことです。ただですね……」
ミュカは歯を食いしばっていた。
「扱うのがこんなに難しいとは思いませんでした。持っているだけでつらいです。歩けません。そんなこと、ひとことも書いてなかったんですよ」
「ふーん」
ハティエルは興味を持ち、鳳凰の杖の柄の部分を握ってみた。
すると、杖から流れてくる膨大な魔力はパッと拡散し、普通の杖のように扱えるようになった。
ボルトラとエリシアはなにが起きたのかと疑問に思っているが、ハティエルとミュカには意味がわかった。
アンジェリックウェポンは天使……つまりハティエルやデュナンタの力によって扱えるようになる武器のようだった。ワンダラーナ王国の本にそういう特徴があるという記録がなかったのは、前回は最初にデュナンタが触れたからなのだろう。
ミュカとハティエルの想像では、アンジェリックウェポンが落ちた時、珍しいなと思って真っ先に拾ったのが好奇心旺盛なデュナンタだったため、こういう特性には気づかず、本に書かれていなかったというものだった。
実際にその通りだった。
ミュカは杖を右手であげると、見とれた。そして、どんなものかと魔法を詠唱してみようとすると、杖から膨大な知識がミュカの脳内に流れ込んできた。鳳凰というだけあり、それはすべて火属性の魔法だった。
覚えてもいない魔法の詠唱が次々と流れ込んでくると、彼女は適当な1つを選んだ。
詠唱するかと思ったミュカだったが、杖はそれだけで反応し、上空に向けて炎の光線を飛ばした。真っ赤な光が頭上に飛び出すと、
「わっ、わっ……」
と慌てた。鳥が一斉に羽ばたいていく。
「詠唱しなくても、思っただけで発動しちゃうみたいです」
「命令じゃなくて対話ってこと?」
「ああ、それです。ハティちゃん、それ、いい表現ですね。その表現が一番しっくりきます。対話なんですよ、この杖は。今のは『イフリート・キャノン』というらしいです」
エリシアとボルトラは顔を見合わせて両手を返した。この2人が馬鹿というわけではなく、魔法使いではないため詠唱して発動イメージが湧いてこなかった。
ただわかることは、ミュカが相当強化されたということだ。
エリシアは言った。
「そろそろ、南東のキーを取りにいきませんかー?攻略を進めたいですー」
ハティエルたちは頷いた。経験も装備もそれなりになってきたはずだし、そろそろいいだろうと。
「では、今日はみんなで飲みに行きましょう!最近、お肉が美味しい酒場を見つけたんですー」
「へー、いいね。行こうよ」
「私とハティちゃんは飲みませんからね?」
-※-
次の日、地下4層に降りたミュカはノートを開き、レストシンボルへの道を確認した。基本的には南に向かえばいいらしいが、周囲は森であり、迷って別の方向に行ってしまうのは避けたかった。コンパスリングの座標を確認し、縦軸が動かないように意識する。
エリシアは右手で頭を押さえた。
「少しガンガンしますー。そんなに飲んだつもりはないんですけど……」
「おいおい、大丈夫かよ」
そこで、ハティエルが聞き耳を立てた。
「いや……違う、本当にガンガンする」
「お前は酒、飲んでないだろ?」
「じゃなくて、これ、戦いの音じゃない?」
ボルトラが耳をすませてみると、たしかにその通りだった。自分たち4人しかこられない地下4層で、戦っている音がするのである。
ハティエルはジュナやラシッドが降りてきたのだろうかと考えた。ハーモニック・サークルはジュナに教えているし、ここを歩くことはできるはずだ。
無言のまま、4人は音源へと走り出した。
すると、すぐに必死に悪魔の攻撃を剣で押さえているディグラットの姿を見つけた。当然、彼はソロであり、ハーモニック・サークルの恩恵は受けていない。この圧力のなか、ゲートから移動したということになる。
「信じられませんねー」
そういうエリシアを無視し、ハティエルはハーモニック・サークルの範囲を限界まで広げ、ディグラットのほうに走った。
ふっと圧力が消えたディグラットは、目の前の悪魔の対処をした。
「よかった、間に合った」
「お前ら……」
ディグラットは武器を背中に戻し、言った。
「ここは、どういうところなんだ?」
「ああ、知らないのか……。ギルドにも行ってないんだね」
ディグラットは頭をかいた。
「お前らが地下4層にいるという話は、耳に挟んだ。さっきここにきて、ちょっと歩いたらこのざまだ」
「あのですね、ディグラットさん。ここを歩けること自体が凄いんですよ。ということは、あのグレーターデーモンをソロで倒したんですか?」
ディグラットは無言で頷いた。
「まぁいいや、歩きながら話そう」
「ついてこいというのか?」
ハティエルは両手を返した。
「ここは、ディグラットじゃソロは無理なんだよ」
「残念ですが、そうんなんです」
ハティエルたちが歩き出すと、ディグラットも渋々続いた。
レストシンボルまでの距離はかなりあるため、ミュカはワンダラーナ王国で見つけた攻略の話をしてやった。
話を聞くと、ディグラットは不機嫌そうだった。
「欠陥じゃないか?」
「どういうことですか?」
「砂漠と違って、ハーモニック・サークルが使える一部の魔法使いがいないと攻略できないってことだろう?」
ミュカは首を傾げた。
「そうですけど、それのなにが欠陥なんですか?一人で攻略できないだけじゃないですか」
そこへ、ボルトラが続いた。
「なぁ、前から聞いてみたかったんだけど、なんであんたは一人で攻略したがるんだ?」
ディグラットが鋭い視線を彼に向けると、ボルトラはつい、顔をそむけた。だが、別に悪いことをしているわけではないと思い、視線を戻す。
「いや、別に言いたくなければいいんだけど」
「『トレジャーハンター』って知っているか?」
「えっ?まぁ、そりゃあ……」
ボルトラももちろん知っている。
トレジャーハンターとは世界中で宝探しをしている人たちのことだ。珍しいものを見つけ、売る。やっていることはダンジョンの一部の冒険家と同じだが、戦闘はできれば避けたいと思っている人が多く、基本的には地上での活動となる。
宝といってもアイテムとは限らず、古代の遺跡を見つけるようなことで名声を得られるし、こういうことに喜びを感じる者も多い。
ディグラットは傭兵であり、トレジャーハンターに雇われてともに行動をする。傭兵はいわゆるボディーガードのようなもので、地上で魔物に襲われると彼らが前に出る。
「ある時、大きなプロジェクトが立ち上がった。『ガーブルキャニオン』はわかるよな?」
「世界の北西にある巨大な峡谷ですよね?寒いし険しい場所だから、周囲には大きな国もなくて、地上でも未開の地って呼ばれているところですね」
ミュカの説明に、ハティエルも続いた。
「上空の気流が特殊だから、飛行船も飛べないんだっけ」
ガーブルキャニオンは無言だったエリシアも当然知っているし、ハティエルも地上の知識はあるので知っていた。
「トレジャーハンターは10人、俺たち傭兵が3人という集団だった。傭兵の2人は兄弟で、そこに俺が加わった形だ。周辺の村にそこにある洞窟の一つに財宝が眠っているという本を見つかった」
「いいですねー。ロマンがありますー」
ガーブルキャニオンには天然の洞窟が無数にあった。
本は暗号のような形で記録されており、まずはトレジャーハンター10人がそのなかのどこかという特定を始めた。
地図を見ながら洞窟に印をつけ、例えば『太陽の目覚めとともに』という場所から関係のなさそうな方角のものを除去するような形で、時間をかけて絞っていった。
そして、探索へ。
3人の傭兵に守られながら、ガーブルキャニオンを進んだ。ダンジョンの地下1層、始まりの草原などとは比べ物にならないほど過酷で、苦しい旅だったが、目的の洞窟の入口にたどり着いた。
洞窟を進んでいった結果、財宝はあった。
奥にあった木箱をあけると、宝石や金貨、指輪などが散りばめられていた。
そこで、惨劇が起きた。
傭兵の兄弟が裏切り、殺戮が始まった。武器をふるってトレジャーハンターの10人を殺し始めると、ディグラットはとめに入ったが、傭兵の兄と交戦しているうちにトレジャーハンターは全滅していた。
1対2の戦いは苦労したが、なんとか倒したディグラットは、財宝には手を付けず、洞窟の入り口を崩して封印し、サバイバル技術を駆使して帰還した。
この出来事はどこにも記録されていない。行方不明になるトレジャーハンターは多いし、ガーブルキャニオンという地域には基本的に誰も足を踏み入れないからだ。
そして、ディグラットは傭兵をやめた。
「人は裏切るんだ。特に、宝を目にするとな」
どう返していいか迷うミュカたちだったが、ハティエルは笑顔でディグラットの背中をバンバンと叩いた。
「あのさー、私達、お金はもう十分にあるんだよ?地下3層の装備でも十分なお金になったし、この森の装備も売ったからね。豪邸ぐらいならみんな、ポンと買えるんだよ。冒険者をやめても、遊んで暮らせるんだよ?」
ミュカは半分バカにするように、ふっと笑った。
「まぁ、それは無いですけどね」
「金とは限らない。俺は強力な剣を求めていて……」
「このメンバーでディグラットの大きな剣、誰が欲しがるのさ。ディグラットだって私が使う盾は欲しくないでしょ?装備は取り合いにならないよ」
ディグラットはきょとんとした。
低層の冒険者とは異なり、ハティエルたちは別のようだ。純粋に最大限の効率化をはかりながら、ダンジョンを攻略するのが目的らしいと理解できた。
「私達はこれからレストシンボルを通りながら、南東のキーを取りにいく。迷路になっている場所だけど、ミュカが地図を持ってる。エリアボスもいないし、一緒にくればいいじゃん。ハーモニック・サークルがないと、ここは動けないよ?」
ディグラットは静かに頷いた。
「……いいのか?」
エリシアは言った。
「だから、いいって言っているんですー!ディグラットさん、今夜は酒場でお説教ですよー!」
「俺は説教されるようなことをしたのか?」
「細かいことはいいんですー!」
そこから30分ほど歩くと、ボルトラが思い詰めたような表情で言った。
「なぁ、ハティ。5人いるっていうことは、エリアボスには1人、いけないんだよな……」
ハティエルはこう返した。
「それはあとで考えようよ。まずは南東のキーに集中しよう」
「いや、誰が抜けるかって話じゃないんだ。俺が抜けるけど、いいか?」
「えっ?なんでさ、ボルトラ。せっかく順調なのにギブアップ?」
ボルトラは首を横にふった。そして、笑いながら、
「ハティ、半分お前のせいだぞ」
と言った。
「はぁ?なんで」
「いや、お前のおかげと言ったほうが正しいか。俺たちは豪邸をポンと買えて遊んで暮らせるんだろ?さっきのお前の話でハッとしたんだ。そりゃ、もちろん先の冒険もしたい。でもな、思い出したんだ。子供の頃、俺とジュナと死んだアコアロは孤児で……」
ボルトラの話はハティエルは前にジュナに聞いたことがあった。
孤児で、小さい頃は地方の農場でこき使われていたと。その後、3人で農場から逃げて放浪生活をし、苦労の末、冒険者になった。
そんな過去のあるボルトラは、先程のハティエルの話を聞いて住む家があるのはいいなと思い始めた。
そして、
「俺はこの国で孤児院をやるよ」
と言った。
「俺たちみたいな被害者を一人でも減らしたい。お金は十分にあるし、足りないなら地下3層で稼げばいい。そういう未来を考えたら、死ぬわけにはいかなくなった。ジュナも誘ってみるけど、きっと同意してくれると思う」
「立派ですー。文字通り、ボルトラファミリーですねー」
「おう、そうだな!」
「ボルトラさん、凄くいいですよ。私にはできません。というか、思いつきません」
ハティエルは頷いた。死んでリタイアするのとは違うし、いいことだ。児院を救うための仕組みを作るというのもいいことであり、冒険とは別の意味で有能だなと思った。
正直な所、問題が一つ減ってよかったと思うところもあった。
「でも、次のキーまでは一緒にいくでしょ?ボスはいないし」
「ああ、もちろんだ」
孤児院の話はジュナも喜び、自分の資産も出すと乗り気だった。
-※-
5人は数日かけてレストシンボルをいくつか通り、迷路のような森にたどり着いた。
この間に『バルムンク』というディグラット用の装備を拾え、メンバーの火力に大きく貢献した。
凄かったはミュカの鳳凰の杖の威力だ。飛び出す魔法が強すぎて、敵を森ごと焼き尽くしていった。
問題なのは魔力の消費量が大きすぎることだ。それを回復させるアイテムを大量に持ち運ぶこともできないため、普段は普通の杖で戦うことになったが。
迷路ではしっかりと方角と地図をを確認し、進んでいく。
少し進んでは立ち止まる。少し進んでは立ち止まるということを繰り返す。気の遠くなりそうなほど手間がかかったが、やり直しになるよりはマシだと、慎重に進んだ。
数時間の冒険の末、5人は台座にたどり着いた。それでも、デュナンタたちのことを考えると大幅な時間短縮といえた。
キーを入手すると地上に戻り、ギルドに報告をする。
酒場へ向かうと乾杯した。
迷路はつらかったと言いながら、飲み物や料理を堪能した。エリシアの言う通り、肉が美味いことと、みんな肉食のため、テーブルにはあまり手を付けられていないサラダと、あとは肉料理ばかりが置かれていた。
ミュカは言った。
「前から聞きたかったんですけど、私、ワンダラーナ王国の城に何日かいたじゃないですか?城の料理って物凄く豪華なものだったんですけど、みなさんはああいうものは興味ないんでしょうか。行くのは酒場やそれほど高級ではないレストランが多い気がするんですが……」
顔を赤くしたエリシアが言った。
「どんな料理なんですかー?」
「ワンダラーナは自然が豊かなんですよ。だから野菜や山菜がメインなんですが……」
「却下ですー!」
エリシアはミュカの発言を遮ると、ディグラットも頷いた。彼も顔が赤い。
「そんなのばっかり食べてるから学者とか魔法使いが多いんじゃないか?肉、食えよ」
「そんなー。でも、ハティちゃんはわかってくれますよね?」
ハティエルはローストビーフを食べていたフォークを止めた。
「ヴァーミリオンズはあるの?」
「ありません」
「違うホットドッグの店でもいいんだけど」
「ありませんよ」
「じゃあ、ケバブは?」
「店はありますが、田舎の国だから露店自体が無いですよ」
「じゃあ、ごめん。グラムミラクト最高」
5人は笑った。
酒場を出ると、メンバーは解散した。明日からはエリアボスに向けたレストシンボルの旅が始まる。
そんななか、ボルトラ・ピッド、20歳、彼の冒険はここで終わることになった。
だが、彼は笑顔だった。
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