チャプター2

 ハティエルたちは地下3層に転送すると、コンパスリングを確認した。

 数字が書いているところから、ダンジョンでも機能するようだ。

 指輪に『2・38』と書かれているそれは、エリシアたちが推測する通り、フロアの南西にあると確定した。

 西側はもう、海だろう。

 あとは1マスの大きさを把握し、地図を埋めていけばいい。

 ディグラットは、俺は北に向かって進むと海岸沿いに歩き始めた。

 去り際に、


「もし俺が9時に来なかったら、無視してくれ。夜通し歩くことがあるかもしれない」


 と言い残す。

 エリシアたちは南に向かうことにした。南は何もないという想定でいるが、縦の座標がいくつまであるのかは把握しておきたかったからだ。そして、南の果についたら海岸沿いに向かうといった。

 エリシアは若干迷いのあるジュナの背中をポンと叩くと、右手を上げて元気に行こうと告げた。

 自動的に、ハティエルたちは東に向かうこととなる。真っ直ぐ進むと海岸があり、そこでエリシアたちと合流することになるかもしれない。

 ハティエルたちも歩き出した。

 ラシッドがいなくなったが、ボルトラの武器が珊瑚の鉾に変わり、ミュカが入った。ジュナがダメージに貢献していなかったこととミュカは攻撃力と防御力を強化できることを考えると、一人減ったがそれほどの弱体化はしていないと思われた。


 コンパスリングを確認しながら、地図を埋めていく。

 林に進んで横2縦38から横3縦38に移動し、そのマスを確認する。その次は横4縦38だ。

 闇雲に進んでいた今までよりもずっと効率が良かった。

 林を抜けると、グリードトータスが出てきた。

 だが、もう敵ではなかった。

 ミュカが氷の魔法を飛ばし、支援魔法で強化されたボルトラが苦もなく首を切断して終了である。

 ボルトラは右手を見て言った。


「凄いな。昨日ボロボロだったのがウソのようだ」


 ハティエルは棒立ちのまま、何もしなくてよかった。ジュナと違うのは、自分は役に立たないとは思っていなかったところである。集団戦やボスとの戦いであれば、出番がくるということを知っていたからだ。


「うんうん。この調子で頼むよ。私も楽ができるし」

「余裕が出てきたな。最初に地下3層に来た時は地獄を見たけど、やっていけそうだ。ハティが何もしなくていいのは順調な証拠だよ」

「ディグラットさんはどんどん先にいけちゃうんでしょうね」


 ボルトラはミュカを見て言った。


「ところで、あの人はなんでソロでやっているんだ?なにか目的でもあるのか?」

「わかりませんよ、私には」

「ソロでやってる理由はわからないけど、強力な剣を手に入れるのが目的って言ってた」


 ボルトラは頷いた。


「いつも思うけど、お前、なんでそういうの聞けるんだよ」

「なんでって、質問したら教えてくれただけだけど。それって、特別なこと?」


 ミュカは両手を返した。


「昨日一緒にいましたけど、そんな雰囲気じゃなかったですよ。怖い顔でほとんどしゃべりませんし」

「そう言われてもなぁ……」


 会話をしていると敵が現れ、ボルトラとミュカでさっと倒す。

 慣れれば月下の砂漠より楽に感じてくる。

 ボルトラは少し調子に乗ってきた。


「俺もソロで行けそうだ」

「私も剣があれば行けるのかな?」

「ハティちゃんの剣、早く欲しいですね」


 地下2層と異なり、思ったように欲しい武器が手に入らないのが辛かった。冒険者が多ければギルドに流れる量も増えるのだが、7人しかいないというのが厳しい。

 そんな理由により、エリシアとラシッドは冒険者のサポートを優先したかったが、ハティエルは一時中断してマッピングを優先しようと提案していた。彼女の目的は大天使の試験であり、魔王討伐だったからである。人数は多いほど助かる。

 やがて、ハティエルたちは海岸線にたどり着いた。

 日が落ちようとしており、空も海もオレンジ色に染まっている。

 今までの流れであれば、この辺でレストシンボルがあってもおかしくないはずだったが、まだ一つも見つけていない。進む角度が悪いのかもしれないなと残念に思う。

 また、この周辺は海岸に沿って歩いているエリシアたちが北上するとたどり着く可能性がある。

 少し考え、ハティエルは南に向かうように提案した。エリシアたちと合流するのがベストだと。

 ボルトラたちが同意し、コンパスリングを確認しながら砂浜を南に向かって歩いた。


 日が沈んだ頃、エリシアたちと合流できた。

 エリシアは拾った剣があると、ハティエルに渡した。

 その細身の剣は羽のように軽い。


「『ファルコンソード』っていうんですけど、軽いでしょう?攻撃力は弱いんですけど、攻撃速度はあがるんですよー」


 ハティエルは首を横に振り、剣を返した。


「攻撃力が欲しいから、これはダメだよ。地下2層なら物凄く役に立ちそうだけど」


 エリシアは頷くと、後ろを向いた。斜めに槍が刺さっている。


「片手でも持てる槍ですけど、ハティちゃんは槍って使えますかー?」

「使ったこと無いから厳しいかな」

「わかりましたー。では、両方ギルドに売っちゃいますー」


 6人は一度地上に戻ることにした。ディグラットと合流し、今日の成果を共有する。座標がわかるようになっただけで、地図の進行は順調に進むはずだ。

 合流し、ギルドの講習室で話し合うなか、ラシッドは一日やることがなかったと言っていた。ジュナの支援で動きが良くなったエリシアが一瞬で敵を討伐してしまうのだと。

 ハティエルも同じだと返すと、3つに分かれているパーティーを4つにできるのではないかと考え始めた。ハティエルとラシッドが組む形だ。

 なんにせよ、ハティエルの剣が手に入らなければ始まらない話だった。


 -※-


 ハティエルたちがレストシンボルを発見したのは、次の日だった。

 しかも2箇所であり、北に向かったディグラットのところと、東の林を抜けてから北に進んだところにあったものをハティエルが見つけたものだった。

 この日、ディグラットは1本の剣をハティエルに渡した。

 鞘から抜いてみると、神々しく光る剣があった。今のグラディウスとは見るからに格が違った。

 この剣は『ディバインソード』と呼ばれるもので、刃の長いロングソードである。念願の地下3層の剣だった。

 ディバインソードのおかげでハティエルも前線で戦えるようになった。よって、彼女はパーティーを4つに分けることを提案した。


 効率が一気に上がったことにより、地下3層のマッピングは思った以上のスピードで完了した。

 海があることで地下1層や2層よりも歩けるエリアは狭い。

 フロアは楕円形のドーナツのような形式になっており、中央に島があった。中央の島に向かって長い橋があり、島にフロアボスの部屋があるようだ。

 キーの数は3つ。北と南と東の果てだ。


 東の果てのキーは地下2層のように、野宿をしなければならない長い距離にあった。ここを見つけたのは夜通し歩いたディグラットで、砂漠のような環境的脅威はないため、体力があるか、眠れる体制を作れれば楽勝だった。

 ディグラットはすでに手に入れていたため、ハティエルたちは6人で向かい、余裕を持って手に入れた。


 南のキーはエリアボスで、まだ誰も挑んでいない。挑めばいいだけなのだが、ディグラットを除いた6人でどう挑むかを悩んでいた。

 何が出てくるかはわからないので4人で挑むのがベストだが、一度倒すと再戦できないため残った2人がキーを手に入れられない可能性がある。また、3人ずつにわかれた場合、倒しきれなかった時に困ってしまう。


 それよりも問題なのは北のキーだった。

 砂浜に人工的な石造りの道路があった。

 その道は海に向かって続いていた。つまり、キーは海のなかにあるということだった。海中にエリアボスの部屋があるのか、台座が置いてあって手をかざせばいいだけなのかは陸からは不明だ。

 問題なのは、泳いでいったとして、海中で敵に襲われたときに対応できないということだった。敵が音もなく襲ってくるのは海中でも同じだろう。

 経験を積んだり宝探しをしながら、ハティエルたちはキーの入手について考えていた。


 -※-


 その日はオフの日だった。

 ハティエルはグラムエース・ケバブで朝食を取り、疲れもそこそこ溜まっているので、もう一度寝るかとジオリーズ・インに戻った。

 カウンターで見たのはジオリーとなにかをしゃべっているミュカの姿だった。


「ミュカ、どうしたの?」

「あっ、ハティちゃん。なにかと便利かなって思って、こっちに戻ろうかと思って。お金はかなり溜まったから、もっと広いところを借りたりできるんですが、サービスのいいここがいいかなって」

「また、隣の部屋になるの?」


 ジオリーは言った。


「隣?3階の二号室でいいのかい?」

「もちろんです。よろしくお願いします」


 ミュカは頭を下げると、鍵を受け取った。

 ハティエルも鍵を受け取り、嬉しそうにトントンと階段をあがっていくミュカの後ろに続いた。

 部屋に入ると、服を脱いでそのままベッドに入った。

 目を覚まし、バッグから懐中時計を取り出してみると、まだ朝の11時だった。2時間程しか眠れなかったようだ。

 特に読みたい本もなく、グラムミラクト王国のこの周辺はもう、さんざん歩いて知っていた。

 ようするにヒマだった。

 そこで、前から気になっていたソロでの冒険をしてみようと思いついた。今ならディバインソードもある。

 ワクワクしながらバッグをかけ、剣と盾を持って宿を飛び出した。

 広場へ向かい、階段を降りて最初のゲートから適当なレストシンボルへテレポートをする。


 見渡す限りの草原だった。

 南北に進めば地面が土に変わり、海が見えてくるということは理解している。

 適当に歩いていると、空から殺気を感じた。

 剣を抜き、構えると後方から2匹の大鷲が突撃してきた。『キラーイーグル』と呼ばれるそれは、戦闘経験はあった。

 魔法でラシッドに落としてもらい、剣を突き刺してとどめを刺した、なんてことのない敵だった。

 一羽が爪構えて突撃してくるのに合わせて冷静に盾を構え、攻撃をはじいた。そのまま右手の剣を突き刺し、足を切り落とそうとする。

 が、キラーイーグルは宙に浮いて回避し、盾をずらしたところをもう1匹のキラーイーグルがぶつかってきた。

 一瞬の判断に迷ってしまったハティエルは、その爪を顔で受けた。

 肉を剥ぎ取られ、猛烈な痛みが襲いかかってくると、盾を持ち上げて上空からの攻撃を探りつつ、回復魔法を唱えた。

 そこへ、背中からの一撃が飛んできた。

 地面に倒れたハティエルめがけ、2匹のキラーイーグルが突撃すると、あっという間にハティエルの意識は失っていった。


 くちばしで体をついばまれながら、ハティエルは死んだ。


 -※-


「……あれ……?」


 ハティエルはキョロキョロを周囲を見回すと、そこは楽園のアリムの神殿だった。

 微笑む女神像の下にはケラケラと笑う女神アリムの姿があった。


「やられちゃったんだ。どこ?」


 ハティエルは死んだことにも困惑したが、そんなアリムを見るのも初めてだったので困惑した。

 言葉がうまく出てこない。


「し、しじまの海です。地下3層の……あっ、あの……アリム様。私は死んだのでしょうか?」


 アリムはいつものドライな顔になると、頷いた。


「地上人と違い、あなたは死ぬわけではありません。死体が消え、ここに戻されるだけです。傷も残りません」


 ハティエルはうつむいた。

 くだらないことでミスをしてしまった。

 自分は強くなったという驕りによる死は、言い訳のできないものだった。

 ロザリンドと同じ『無能』か。


「私は……その……大天使の試験は失格になるのでしょうか?」


 アリムは首を横にふった。


「まだやる気があるのであれば、地上に戻してあげます。どうですか?」


 ハティエルは身を乗り出して必死に答えた。


「やれます!もちろん、やれます!」


 アリムは無言のまま、両手を合わせてハティエルを転送をしようとした。

 それをハティエルが止めた。


「すいません、待ってください。一つだけ質問、良いでしょうか」

「どうぞ」

「地上の仲間は死ぬともう生き返らないのでしょうか?その……『死』は悲しいです」

「当然です、生き返りません。地上の物語には復活について書かれているものがいくつもあるのでしょうが、絶対に生き返りません」


 ハティエルがお礼を言うと、アリムは両手を合わせて転送した。

 アリムはハティエルがいなくなると、女神像に寄りかかった。


「悲しいです、かぁ……。あーあ、その感情を持っちゃうと、ダメかもね」


 そして、天井を見上げた。


「ロザリンドの前の……デュナンタもそんな感じだったかな?あの子はどこまでいったっけ……」


 アリムはしばらく考え、ぼそっとこう言った。


「……昔すぎて忘れちゃった」


 -※-


 そこは建物に囲まれた路地裏だった。

 周囲を見回すと、初めて地上にやってきた場所だと思い出した。

 ジオリーズ・インに戻りながら、今日の出来事は誰にも見られていないし、内緒にしておこうと考えていると、グラムエース・ケバブが見えてきた。

 昼も過ぎており、なにかお腹に入れておこうと思ったハティエルは、列にならんだ。前には2人いる。

 この頃になるとハティエルの姿はグラムミラクト王国では有名になっており、前に並ぶ人間の男もやや緊張を見せている。彼の腕のゲートトラッカーから冒険者だとわかるが、エンブレムはなにも無かった。

 ハティエルの順番がやってくると、店員のエルフの若い男性は、


「あれ?ハティエルさんじゃないですか。今朝も来ましたよね?」


 と言った。そうだったなと思い出し、適当な言い訳をする。


「うん、ここは気に入っているんだ。ケバブライスをお願い。ライスは若干少なめで、肉を多めにしようかな」


 店員は笑顔で頷いた。有名な冒険者が常連になってくれるというのは、宣伝にもなるし光栄なことだった。

 ハティエルがテーブルについて戦いを振り返りながら食事をしていると、


「あの、ハティエルさん、少しご一緒してもよろしいですか?」


 と声をかけられた。

 ノームの20代の男は右腕にゲートトラッカーがあった。クラスは不明だが、エンブレムは無い。

 口にケバブを入れていたハティエルは黙って頷いた。

 男が対面に座ると、店員がトレイを彼の前に置いた。


「地下1層の攻略について、いくつか聞いてもよろしいですか?」

「いいよ。どんな構成なの?」


 男は笑いながら、ソロだと言った。


「こだわって、ソロ?」

「いえ、まだグラムミラクト王国に来たばかりで、仲間がいないだけです」

「じゃあ、まずはギルドで募集をかけないと。タンク、アタッカーが2人、ヒーラーっていう王道の構成で組めれば、よっぽど変なやつがいない限り突破できると思うよ」

「なるほど。でも、タンクは貴重っていいますよね?」

「そうなんだ。なら、シールドの魔法を張れるヒーラーが欲しいかな。地下1層って、ちゃんと攻略すればそんなに難しくはないんだよ。実力を過信しすぎないようにしっかり戦いの経験を積んでいくこと。お金があるなら地下2層クラスの武器を買ってもいいと思う。ぜんぜん違うからね」


 ハティエルの話は実力を過信しすぎないようにと、まるで自分に言い聞かせるようだった。

 ノームの男はハティエルの言葉を真剣に聞き、頷いている。


「一番重要なのは柔軟な思考だと思う。予想外のことが起きても、冷静に対応できること」

「はい」

「でも、まずはギルドで仲間の募集だね。仲間がいないと始まらないし。同じ仲間で最後まで行かなきゃいけないってことは無いから、気軽に組んでいいと思う。途中でギブアップする人も出てくるし、その……ほら、死んじゃう人もいるし」

「あっ」

「地下2層までならギルドの地図は凄く役に立つよ。どんなボスが出てくるかも、しっかり書いてるし、良く読んだほうがいいよ」

「地下3層はどうなんですか?」


 ハティエルは笑った。


「全くわからない。ようやく地図ができたところなんだ。毎日歩いてばっかりだったけど、充実感はあったし、楽しかったよ」

「へぇー。では、我々も近いうちにギルドからその地図を貰えるんですね」

「そうだね」


 ハティエルはそう言うと、トレイを持って立ち上がった。


「じゃあ、頑張ってね!」

「お話、ためになりました。ありがとうございます!」


 -※-


 宿に戻るとロビーにミュカが座っていた。

 ハティエルの姿を確認し、右手を上げて呼ぶ。

 対面に座ったハティエルは、テーブルに置いてあった地下3層の地図を見た。ミュカが書いたものだ。


「そろそろキーを取りに行かないといけないって思うんです」

「まあね」

「北の海中のキーについて考えてみたんですが、ディグラットさんの衝撃波で水を吹き飛ばすっていうのは難しいでしょうか?」


 ハティエルは腕を組んで考えてみた。そして、はっとした。


「ミュカは衝撃波が凄いっていうけど、私……いや、私達、誰も見たこと無いよ?ディグラットが戦ってる所、見たことあるのはミュカだけじゃない?」

「ああ、そうなんですね。あの衝撃波は結構広範囲なんです。海の水ぐらいは吹き飛ばせるような気がするんで、一度やってみるのはありだと思います」


 そうであればディグラットが提案しそうな気もする。

 ディグラットももちろん、地下3層の武器を入手済みだ。

 彼が提案しないところから不安要素を感じるが、いいんじゃないかと言いかけた時にハティエルは閃いた。


「ディグラットが衝撃波で水を飛ばしたあとに、ミュカが凍らせるっていうのはどうかな?移動の時間、稼げそうな気がしない?」


 それを聞いたミュカは、笑顔で両手を合わせた。


「いいじゃないですか!早速、明日、やってみましょうよ」

「でもなぁ……」

「なんです?」


 ハティエルにはずっと考えていたことがあった。

 例えば地下2層のデザートブリンガーは、自分の攻略法とディグラットの攻略法とミュカの攻略法はまるで違った。他にもあるかもしれない。

 言い方を変えると、突破する方法はいくつもあるということだ。

 ということは、あの海中のキーも他にもやり方がありそうということだ。

 ハティエルにはミュカたちの攻略は予想外のものだが、自分たちよりも簡単に攻略したという認識がある。つまり、強力な衝撃波を飛ばして海を凍らせるというような大掛かりなものではなく、もっと単純なものもあるかもしれない。

 例えば、地下3層で入手できる、なにかのアイテムを使うと水が退くというようなものだ。

 衝撃波の攻略が王道では、できない冒険者のほうが圧倒的に多く、ダンジョンはそう作られていないはずだと思う。

 ただ、これはミュカには伝えず、彼女の攻略を試してみることにした。


「いや、なんでもない。それで、あとは南とフロアボスなんだよね」

「どういうメンバーで挑むか……ですね?」

「そう。そもそも、地下4層ってみんな行きたいものなのかな?」


 ミュカは何を言っているんだという表情を作った。


「私は行きたいですよ」

「ジュナはどうだと思う?」

「あっ。そ、それは……」


 ハティエルは身を乗り出し、カウンターをちらりと見て小声で言った。


「ジュナは多分こない。先に進むことを本人が嫌がってる。死ぬかもしれない戦いに無理強いはできないし、そうなると5人なんだ。誰かが2人で行くか、誰か一人が残ることになる」


 ミュカは地図を見たまま何も言えなかった。

 ハティエルは立ち上がると、


「そうなるかもしれないから、頭の片隅に入れておいて。そうなっても乗り越えられるように、備えておこうよ」


 といい、階段をあがっていった。

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