第3章 邁進
チャプター1
再び、しじまの海へ。
音のない世界でエリシアの元気な声が響く。
「では、頑張ってくださいねー。夜9時に広場に集合して、引き継ぎをしましょう」
ハティエルたちは頷くと、海岸に沿って北に向かって歩き始めた。前回と違い、今回は修行をしているので自信がある。くだらない会話をしながら歩く余裕すらあった。
殺気を感じると、砂の中からサソリが出てきた。『シースコーピオン』である。
しっかりと反応ができたハティエルたちは武器を構え、戦闘に参加しないラシッドが一歩飛び退いた。
だが、ハティエルが剣で斬りつけると硬さに手が軽く痺れた。と同時に、シースコーピオンが体をくるっと回転し、尻尾をぶつけてくる。
今のフェアリーシールドでは物理攻撃に弱く、パリィを決めようとタイミングを伺うが、攻撃が素早く間に合わずに逆にはじき飛ばされた。
そこへ、ボルトラの槍の先端の斧がシースコーピオンの尻尾を切断する。連続攻撃を決めるべく、飛び上がって背中に向けて槍を突き刺すと、シースコーピオンはハサミを振り上げて上空のボルトラを落とした。
そんなボルトラに追撃をしようとするシースコーピオンの足の一本をめがけ、ジュナが渾身の力でフレイルをぶつけた。鈍い音がし、足が潰れるとシースコーピオンはターゲットをジュナに決めた。
防御力の弱いジュナが狙われるのはまずいと判断したラシッドは、魔法を唱えた。
「スパークボルト!」
雷はシースコーピオンの背中に直撃すると、シースコーピオンは蒸発した。
ハティエルは尻についた砂を払うと、
「全然だめだったなー」
と呟いた。
「まぁ、徐々に慣れていけばいいさ。戦いを繰り返せば動きも見えるようになるだろう」
「せめて、もっと強い盾が欲しいよ。これはアンブリア用みたいなものだし」
「だな。でも、今回は前回と違って殺気に対応できただけでよしとしようぜ?」
「うん」
4人は再び歩き始めた。
日が暮れる頃、海岸を離れて林の方に向かってみたが、その日は何も収穫がなく終わった。林は深く、迷ってしまいそうだった。
いくつかのアイテムを拾えたが、ハティエルたちが使えるような武器がなかったので、それらはギルドに流すことにした。地下3層のものなので、高い値段で買い取ってもらえるだろう。
帰り際、林のなかでハティエルが少し待ってと言った。
ラシッドに頼み、周辺の木を焼いてくれと頼む。ここまで歩いた目印を付けたいというと、彼は発想に驚きながらも言う通りにした。
広場でエリシアと合流すると、収穫はなかったという話をした。明日はラシッドとエリシアが交代だ。
5人で適当なレストランで食事をし、ハティエルはジオリーズ・インへと戻った。
すると、ロビーに盾屋のオベリオがいた。大きなつつみをテーブルに置いている。
彼はハティエルの姿を確認すると、声を上げた。
「ハティエルさん!」
お辞儀をして、向かいの席についたハティエルは、どうしたのかと訪ねた。なんとなく彼の目的がわかり、ドキドキした。
「実は、新しい盾を持ってきたんです。使って欲しくて……」
オベリオはテーブルの包みを剥がすと、ピンク色の盾が出てきた。珊瑚のような模様がある。
「おー!これは?」
「文字通り、『珊瑚の盾』です。あなたが地下2層を突破してうちを宣伝をしてくれたおかげで、店は大盛況なんですよ。同じ盾でも、ゲン担ぎのような形でうちの店で買ってくれるんです」
「よかったじゃん」
「これもギルドに残っていたものを流してもらったんですよ。物理攻撃用の盾で、水属性の攻撃にも強いようです。きっと、役に立つと思いますよ」
「ありがとう!今、ものすごく困ってたんだ。ほんと、ありがとう!」
珊瑚の盾を抱きかかえるようにし、喜んでいるハティエルを見て、オベリオは持ってきてよかったと思った。
約束通りにフェアリーシールドをオベリオに返すと、彼は笑顔で宿をあとにした。この盾は中古になるが、ハティエルが地下2層の攻略に使ったということで、珊瑚の盾の何倍もの値段で売れるだろう。
次の日の攻略では、珊瑚の盾は早速役に立った。
わざわざはじかなくてもがっしりと受け止めることができるのは、攻撃につなげる余裕もできるし、ボルトラたちが叩く隙を作ることができた。しじまの海というフロアで、水属性に強いというのも大きなアドバンテージだった。
この日も何も成果は無かったが、『スターフレイル』というジュナ用の武器が手に入った。
ただ、先端に星がついているフレイルは攻撃力が大幅にアップするのだが、地下3層でクレリックの攻撃力があがっても僅かな差であり、地下2層なら前線に出て戦えるかもしれないが、ここでは通用しない。
できればボルトラかハティエルの武器が欲しかった。
ジュナは少し悩んでいた。
この攻略にあまり役に立っている気がしなかったからだ。
確かに回復魔法が使えることでメンバーの死亡率を下げる効果はあるし、毒や麻痺といった異常状態の回復もできる。本人が天才というように、13歳だが、回復魔法の威力は冒険者のなかではトップクラスである。
ただ、攻撃魔法は他のクレリックよりもニガテで、支援魔法も移動速度をあげることしかできなかった。攻撃力をあげることができれば、前衛が楽になるのにと思っていたが、ミュカとは違い習得はできていなかった。
ジュナが杖ではなくフレイルを使うのも、火力に貢献したいという理由があった。
だが、敵の攻撃をしっかりと防ぐことができるハティエルは雑魚戦では回復はそこまで必要ではなく、自分でできてしまうし、まずくなったらエリシアやラシッドがさっと倒してくれる。
それが悩みの理由だった。
-※-
次の日、ラシッドを連れて冒険を始めた。
今日は東の林に向かって進んでみることにした。
3時間ほど歩くと林を抜け、足元も土になった。まばらに草が生えており、その先には海が見える。
南の海岸線がここまで通っているようだ。
それを見てハティエルが言った。
「南にはなにもないね」
「なんでだよ」
ハティエルは剣を抜くと、土に図を描いた。
転送位置から南に向かい、海岸沿いに歩くと正面に場所にたどり着くはずなので、わざわざ行く必要はないと説明した。
レストシンボルやキーがあるとすると近すぎであり、今までのフロアの構成からすると無い可能性が高いと付け加えた。
「橋があって、そこをわたらないといけないかもしれないけど、後回しでいいんじゃないかな?」
「なるほどなー」
ラシッドは頷いた。
「相変わらず、いい考察だ。まずは北に向かおう。海岸が東に流れていくのなら、もう少し東に寄ってもいいかもな」
「そうだね」
ハティエルたちは林から少し離れた位置を北に向かって進み始めた。
30分ほど歩くと、殺気を感じた。
体長2メートルほどの巨大な亀が迫っていた。『グリードトータス』と呼ばれたそれは、海から飛び出してきたのだろう。黒い甲羅には大きな棘がついており、見るからに硬そうだ。
ハティエルたちが武器を構えると、ラシッドは言った。
「見たことのないやつだな……気をつけろよ」
3人は頷くと、まず、ボルトラが飛び出した。その後ろをサポートするべく、ハティエルが続いた。
ボルトラの一撃は硬い甲羅によってはじかれた。それを見たハティエルは素早く魔法の光のオーラで剣を包むと、首にターゲットを変えて攻撃をした、
だが、上手くダメージが入らなかった。ハティエルの火力の問題というよりも、純粋に敵が硬かった。
まずいと思ったラシッドは、魔法を詠唱した。
「スパークボルト!」
雷がグリードトータスの黒い甲羅を直撃するが、全く効いていないようだった。
「なんだと?なら、これだ!ギガ・ボルト!」
更に巨大な雷がグリードトータスに向かう。しかし、これも効果が無いように思える。
ラシッドはターゲットを亀の首や足に向けるが、ダメージはあるものの目立った効果はないようだ。
一通りの攻撃が終わると、グリードトータスはラシッドに向けて突撃した。遅い亀というイメージとはかけ離れた、素早いものだった。
瞬時にカバーに入ったハティエルは、珊瑚の盾を両手で持って受け止めた。攻撃は通らないが、ジュナの支援もあり、相手のスピードについていけるのは小さな幸運だった。
ハティエルは叫んだ。
「ダメージさえ入ればなんとかなる!」
「どうやるんだよ!」
ボルトラの返答に回答は無かった。
ハティエルもボルトラもラシッドも、高速で頭を回転させるが、アイデアは湧いてこなかった。
ジュナは完全に戦意を喪失していた。
グリードトータスの攻撃を押さえながら、あまり効果のない攻撃を繰り返す。
黒い甲羅を割るのは無理だということは察しており、首や足を集中して狙おうとするが、グリードトータスはそれを避けるように、甲羅で攻撃を受け止めていった。
10分ほど、攻防が続いた。
硬い甲羅への攻撃は腕から体力を奪っていくが、これはジュナがいやした。
ボルトラは言った。
「ジュナだけでも逃げろ!」
「できないよ!これでもボクはヒーラーだよ!」
すると、林のなかから女性の声が聞こえた。
「ディープブリザード!」
氷の嵐が飛び出すと、グリードトータスを包んだ。それは、グリードトータスの体に傷をつけていった。
と同時に、巨大な剣を両手で抱えたディグラットが飛び出した。
力任せにグリードトータスの首に向けて振り下ろすと、首は切断され、血が勢いよく吹き出した。
グリードトータスはその場でもがくと、ジュッという音とともに蒸発した。
ガランガランとピンク色の鉾が落ちた。先端に斧がついている『珊瑚の鉾』は、ボルトラ用の武器だった。
「大丈夫ですか?ハティちゃん」
林から淡い黄緑色の長い髪を後ろに束ねた女性が現れた。ミュカだった。
「えっ、ミュカ?なんでミュカがここに。それに今のやつは……」
「へへ……。きちゃいました」
ディグラットは白い髪をかき上げた。
「ここはなんとかなるな」
落ち着くと、ディグラットを除く5人は円を描くように座り、彼は腕を組んで立っていた。
ミュカは言った。
「ラシッドさん、亀は雷じゃダメですよ。氷です」
「使えないんだよな、それ」
「なるほど、それは仕方がないですね。では、地面から持ち上げるような魔法でも良かったと思います。お腹には多分、ダメージ通りますよ」
ラシッドは禿げ上がった頭を撫でて深い息を吐いた。
「冷静になってみればそのとおりだな、まだまだ修業が必要だ」
ハティエルが続いた。
「ミュカはギブアップしてワンダラーナ王国に帰ったんじゃないの?」
「ええ、ギブアップしたんですけど……」
ミュカはそう言うとうつむき、笑顔でハティエルを見た。
「戻ってきちゃいました。完全に病気ですね。あのあと、私もなにか役に立たないかって思って、ラシッドさんのことを思い出したんです。攻撃魔法を覚えて賢者になれないかって修行したら、できるようになりました」
ミルファスを失ったことで家族は必死に止めたが、家出する形で出てきたという。前とは違い、今回は完全に家出だった。自宅に戻るつもりはもう無いと笑顔で言うミュカを見て、ハティエルはそこまでかと思う。
住まいはジオリーズ・インではなく別の場所にしたらしく、ハティエルが地下3層にいることは他の冒険者に聞いて知っていたため、追いつくべく旅を急いだとのことだった。
ミュカの話にジュナは声を上げた。
「できるようになりましたって……そんな簡単なものじゃないでしょ?戦士が聖戦士になるのとはわけが違うんだよ?回復魔法と攻撃魔法じゃ同じ魔法でもベクトルが間逆なんだよ?天使と悪魔が混じってるようなものなんだ」
天使と聞いて、ハティエルはピクっと動いた。
「もちろん、本職のウィザードみたいな凄いことはできませんよ」
「でも……羨ましすぎる……」
ジュナは声のトーンを落とした。
自分にはそれはできない……というよりも、ほぼすべてのクレリックにはできないし、ほぼすべてのウィザードにもできない話だった。
「色々突っ込みたいところがあるんだけど、デザートブリンガーはどうしたの?誰と一緒に戦ったの?」
「あの蛇ですか?ソロですよ」
ハティエルたちは目を丸くした。
「ソ、ソロ?ミュカが?」
「はい。バインドの魔法で動きを止めて、離れて魔法のラッシュです。魔法を外したらどうしようっていう緊張感がヤバかったですね」
「そんな攻略があるんだ。じゃあ、アンブリアは?」
ミュカはディグラットの顔を見ると、
「ディグラットさんと一緒に倒しました。今日倒したばっかりです」
と返した。
「部屋の前で攻略を考えていたら、こいつがきたんだ。必死に連れていけと頼むから、一緒に倒した。お前、目が異常だったぞ」
「一緒と言っても、アンブリアは実質、ディグラットさんが一人で倒したようなものじゃないですか。アンブリアは私一人では無理でしたし、いてくれて本当によかったです」
「お前の支援魔法で強化してくれたからな」
ミュカは微笑んだ。両手を広げて少し興奮しながら言う。
「ディグラットさんは凄いんですよ。衝撃波をバンバン飛ばして、アンブリアの魔法をかき消しながら押し切っちゃったんです」
「すげぇな」
「なら、しじまの対策は?あー、ディグラットは殺気を知ってたんだっけ」
「酒場でハティに聞いておいてよかった。あの時のお前は対応を知らないと言っていたが、殺気だろうなと仮定できた」
「私も狩りをしていましたから、消すことは知っていたんです。それの応用で、感じることができました」
「なんで私達がここにいるってわかったの?」
ミュカは両手を返した。
「偶然ですよ。ちょっと歩いてみようって話になりまして、東に向かっただけです。北も南も海岸でつまらないかもしれないっていう理由ですよ」
「それでも、助かったよ」
「それよりも、ハティ。ここの情報はなにもないのか?」
ハティエルは頷いた。
キーの数はおろか、場所もレストシンボルも全くわかっていないと。
「まずはマッピングっていうことか……」
「そう。でも、地下3層を歩ける人が7人になった。できればもっと増やしたいけど、2人が7人になったのはかなり大きい」
「俺はソロで行きたいんだがな」
ハティエルは同意した。
「それでいいよ。ただ、効率が悪いから、勝手にはうろつかないで欲しい。エリアボスの部屋があっても行く前に教えてほしい。その代わり、こっちも情報は全部共有する。どう?」
ボルトラたちは、なぜハティエルが仕切り、勝手に決めるのかとは言わなかった。ディグラットについてこいとは強く言えないし、彼女のいうことは妥協点のなかで一番まともだったからだ。
ディグラットは少し考え、頷いた。
-※-
地上に戻った6人は、まずディグラットとミュカの報告をするべく、ギルドに向かった。一通り祝福されるとエリシアと合流して酒場に向かい、8人がけのテーブルに座った。
他の客の注目をあびるのは言うまでもない。エリシアは人気があるし、ラシッド、ハティエル、ボルトラ、ジュナも有名だった。ミュカのことは誰も知らないが、ディグラットは別の意味で有名で、彼がカウンターではなくこのメンバーとつるんでいることにも驚かされた。
店員がオーダーを取りにやってきた。
エリシアは言った。
「では、みなさんビールでいいですかー?」
「ダメですよ、エリシアさん。私とハティちゃんとジュナちゃんは別のものです」
「そうですかー?私は10歳の頃から飲んでいましたよー?」
「えっ?10歳?いやいや、ダメです!」
「早いうちから飲んでおいたほうがいいですよー」
「そんなこと絶対にありません!」
ミュカとエリシアが討論をしていると、ハティエルは炭酸入りのレモネードを3つとビールと言った。
「それからバッファローウィングと、あとは……えーと……任せる。私はあれがあればいいよ」
ボルトラとラシッドの顔を見ると、彼らは適当にオーダーを加えた。
飲み物が用意されると、エリシアは言った。
「まずは、ディグラットさんとミュカちゃんの地下2層突破に乾杯しましょう!」
7人はグラスを重ねた。と同時に、他の客は目を見開いた。
ディグラットはわからなくもないが、エルフの女性もそうなのかと。フロアボスとの戦いは経験者は再戦できないため、一人で挑んだかディグラットと一緒に挑んだかのどちらかということになるが、どちらもありえないと思っている。ディグラットは基本、ソロだからだ。
ハティエルは手羽元をかじりながら、エリシアに情報共有をしているミュカやラシッド、ボルトラの話を聞いていた。そんなことよりも、この料理は美味いので集中したい。
情報共有が一通り終わると、今後の流れへと話題が移った。
おしぼりで手を拭くと、今まで黙っていたハティエルが話を始めた。
「普通に考えれば、3つにパーティーをわけて進むのがいいよね。エリアを分担する形で。ディグラットはソロを希望しているから、残りの6人を2つに割ろう」
「そうですねー。タンクはハティエルちゃんしかいませんし、そこがポイントですねー」
すると、ずっと黙っていたジュナが声を上げた。
「ボクはもう無理だ。ギブアップする。やってみたけど、やっぱり無理だよ。殺気はわかるようになったけど、実力不足だしあそこじゃボクは役に立たない」
ボルトラは言った。
「そんなことないだろう?」
「あるでしょ?なら、ボクが何の役に立っているっていうの?」
「それは……」
ボルトラは言葉に詰まってしまった。
彼も素人ではないので地下3層におりてからジュナがそれほど役に立っていないことはわかる。ジュナが無能というわけではなく、ハティエルとの相性が悪すぎると感じていた。ハティエルが聖戦士ではなく、ただの戦士であれば話は変わってくるのだが、そうではなかった。
ハティエルを強化できるわけでも、傷をいやす役に立つわけでもなかった。ハティエルが攻撃をがっちりと受け止めてくれるため、ボルトラの傷をいやす必要もない。
瞬時にどういうことか理解できたエリシアは言った。
「では、ジュナちゃんは私と行きましょう。私の火力は足りていますし、ラシッドができないスピードをあげてくれる支援は助かりますー」
「いや、ボクは……」
「残念ですが、ジュナちゃんが地下4層に行くことは無理ですー。ジュナちゃんがいうように、実力不足ですー」
ハティエルを除く5人は驚いてエリシアの顔を見た。そこまで言うかと。
ハティエルはジュナが有能か無能かには興味がなく、食事に集中していた。
ジュナが抜けるというのなら、抜ければいいと思っていた。サグやミルファスのように死ぬよりはよほどいいだろうし、そのほうが自分も悲しくないと。
そこで、バッファローウィングを食べる手を止めた。なぜそんなことを感じるのだろうかと。
エリシアは話を続けた。
「遊びじゃありませんから、事実は認めましょう。地下3層を突破できるかもしれませんが、好奇心で4層を歩いたら、間違いなく死にますー。でも、やれることはたくさんあるんですよー」
「冒険者の支援ってやつ?」
「そうですー。それに今言ったように、私の役には立つんですよー。だから、しばらくは私と一緒にマッピングを手伝ってください。私にはジュナちゃんが必要ですー」
ジュナは息を吐くと、頷いた。
「じゃあ、エリシア、ラシッド、ジュナと、私達3人で分かれるのがいいかな?」
「拾ったもので、私達が使えそうなものはすぐにギルドに流さないほうがいいですよね?」
エリシアは頷いた。特に、ディグラットの剣とハティエルの剣は地下2層クラスなので優先的に手に入れたかった。
ラシッドは言った。
「もう少し効率をあげたいな」
「私達もソロで行くってこと?」
「いや、そうじゃない。重複して同じエリアをうろついたりするのは無駄だろう?見落としも怖い」
すると、ミュカがいいものがありますよと、バッグをあさり始めた。
ジャラリとテーブルの上に置かれたものは10個の指輪だった。
「これは『コンパスリング』というもので、ワンダラーナのアイテムです。ダンジョンではなく、地上のマッピングをするためのもので、今いる場所がわかるんです」
ハティエルはおしぼりで手を拭いて、そのうちの一つを取ってみた。指輪は太く、飾りっ気の無いものだが、『124・96』と書いてある。
ミュカは長方形の世界地図を想像するように言った。縦横に等間隔に線を入れて区切った時、この酒場は横124、縦96の位置にあるのだと。
「ダンジョンでも使えるの?」
「わかりませんけど、使えるなら変わってきませんか?具体的にこのエリアを探索しましょうという作戦が使えます」
「ソロで歩いていた時は、使わなかったの?」
ミュカは照れくさそうに頭をかいた。
「冒険に夢中で忘れていました」
ボルトラは興奮したように頷き、真顔になった。
「なら、なんでそんな便利なものが今まで使われていなかったんだろう。地上用のものじゃないのか?」
「必要ないからじゃない?地下2層までは詳細な地図があるし、私達もなにも困ることは無かったでしょ?地下3層にきて初めて困ったけど、そもそも地下3層にはほとんどの人がこれないんだし」
「言われてみると、そうだな。でも、10個もいらないぞ」
「私達は3個……予備を考えて5個あれば十分ですので、残りは効果を見てギルドにまわしましょう。コンパスリング自体は珍しいものではないので、ワンダラーナ王国でいくらでも手に入るんですが」
「では、明日は転送位置の座標の確認をしましょう。ディグラットさんもそれでいいですねー?」
ディグラットは静かに頷いた。
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