チャプター3

 再び砂漠へ。

 ボルトラ・ピッド、20歳。

 ジュナ・ミラガノ、13歳。

 この2人とのキーの入手は上手くいった。

 それなりにアイテムの入手もでき、資産も増えた。

 ミルファスの死体の埋まっている場所はサグが嫌がったため、キャンプ地はもう少し手前にし、旅を終えた時は夕方だった。

 地下2層の武器を手に入れたボルトラは強く、先端に斧の付いた槍をブンブン振り回しながら敵をなぎ倒していった。ジュナもクレリックだが、フレイルを持って敵に向かっていく。

 ハティエルは考えていた。

 年齢的なものもあるだろうが、ジュナに関しては支援魔法の能力がミュカのほうが素晴らしいと思うところがあったが、ボルトラはミルファスよりもずっと役に立つと考えていた。ただ、自分がミルファスに提案されたように、ボルトラファミリーの誰かが武器を買おうと言っていれば、ファミリーは全滅していなかったのかなとも思う。


 その日、レストランでハンバーグを食べながら今後の予定を話し始めた。

 ワインを飲みながらボルトラは2日間の旅を振り返り、次はいよいよ北西のエリアボスとの戦闘だと語っている。

 一方、美味しそうにハンバーグを頬張るハティエルは、食事に集中していたのでうんうんと頷いていた。

 ジュナは言った。


「攻略、エリシアに聞いておけばよかったね」

「あの時はそんな雰囲気じゃなかったし、しょうがないさ。地図によると、『デザートブリンガー』って巨大な黄色い蛇みたいなやつらしい。動きが素早くて、攻撃自体はシンプルな体当たり。部屋のなかで相当暴れるらしい。あとは毒液を出すって特徴だな。毒自体はジュナがなんとかできるから問題ないが、動きが素早いっていうのが問題か」


 ハティエルはハンバーグを飲み込んでフォークを振った。


「毒は私も治せるよ」

「ああ、お前も魔法が使えるんだったな」

「ボクがみんなの動きを早くするから、それでなんとかしのいでよ。ボスは流石にボクは殴りにはいかないからさ」

「そのほうがいいよ。ジュナとサグは離れて魔法って感じで」

「あとはだな……」


 改まって、ボルトラはフォークとナイフを置いた。


「デザートブリンガーの攻撃をハティが押さえられるかどうかだな。できなきゃ終わりだ」

「やるよ!ちゃんとやれる」


 ボルトラは頷いた。


「ああ、頼むぞ。この2日の戦いでハティとサグの実力は十分にわかっているつもりだ。ていうか……いや……」


 彼は、タンクとしての実力はピスティスよりもハティエルのほうが上だと言いかけてやめた。その発言は、長い付き合いの死んでいった仲間に対してあまりにも申し訳なかった。


 -※-


 広い砂漠のなかに人工的な石造りの道が見えてきた。

 その先には正八角形の部屋があり、台座が置いてあった。ここが地下2層のもう一つのキーがあるエリアボス、『デザートブリンガー』の部屋である。

 4人は互いに頷きあうと、まず、ボルトラが台座に触れ、他の3人も触れた。

 扉が開くと無言で緊張しながら踏み入れた。この戦闘は逃げることができないため、出るためには勝利しかないからだ。


 黄色い魔法陣とともに、巨大な黄色い蛇が姿を現した。

 体長は30メートルほどあり、体もボルトラよりも倍ぐらいは太い。巨大という意味がよくわかる。

 デザートブリンガーは体を持ち上げると、弱そうなジュナに向けて突進した。

 狙われるのはジュナかサグと予想をしていたハティエルは反応し、盾で攻撃を受け止めた。

 地下2層のデザートバイソンなどとは比べ物にならないほど、重い。だが、ハティエル自身も2層で戦闘を繰り返した結果、能力も上がっており、体ごと持っていかれそうになりながらも耐えることはできた。

 ジュナの支援を受けながら、剣を振ってみると、デザートブリンガーは避けることもなく、また、硬いということもなく、攻撃はすんなりととおった。とおってはいるのだが、効いているのかどうかがさっぱりとわからなかった。

 少し離れた位置からボルトラも攻撃を加え、サグも魔法を加えていくが、手応えのあるダメージが確認できなかった。

 デザートブリンガーが首を振り、毒液を吐き出すと緑色の液体がハティエルに向かった。とっさに避けるが、右腕にダメージを食らった。

 それは強力で、ハティエルは剣をだらりと落とすと、デザートブリンガーの体当たりに吹き飛ばされて壁に激突した。

 ジュナは一瞬の判断で毒をいやすことにした。察したボルトラがヒールロッドを取り出し、ハティエルに向けて振った。

 体力の戻ったハティエルは、目の前に迫っていたデザートブリンガーの体当たりをなんとか防げた。自分たちが売ろうと判断したヒールロッドに助けられたことを理解すると、なるほどと思いながら攻撃に出た。


 やがて、サグの風の魔法が蛇の尻尾の先端を切断する。有効な攻撃だった証明ではあるが、それをトリガーにデザートブリンガーは暴れ始めた。

 今までと比べ物にならないほどのスピードで、バタンバタンと暴れながらハティエルに体当たりしたり、顔をぶつけてくる。

 ガキンガキンと盾にぶつかる音が聞こえる。

 ハティエルは素早く重い一撃を受け止めながら、自分で回復魔法を唱えつつ前方に集中した。なかなか倒れない彼女に対し、デザートブリンガーもムキになって攻撃を加えているようだ。

 たまに、ジュナも回復を入れてくれるのが助かった。彼女は毒の攻撃にも備えているようだが、怒ったデザートブリンガーは攻撃しかしてこないようだ。

 ボルトラとサグはハティエルに攻撃を集中しているのをチャンスとばかりに、全力で攻撃を加えていった。胴体に向け、同じ場所を集中的に攻撃する。

 攻撃が全くできないハティエルは声を上げた。


「こいつ強い!」


 ボルトラが続く。


「全くだ!」


 そう叫びながら彼は槍の先端を持ち、遠心力を活かして体ごと蛇にぶつけた。

 すると、デザートブリンガーの攻撃が一瞬収まった。サグはさっと移動をすると、ボルトラの攻撃した位置に風の魔法を飛ばしていった。

 同じ箇所を集中的に狙うと、蛇の胴体から血が激しく溢れ出した。

 やがて、デザートブリンガーは大人しくなり、地面にバタリと倒れて蒸発した。カランカランという音とともに、短い杖が落ちた。棒に蛇が絡みついたような、そんな杖だった。

 ボルトラはドンと槍を地面に突き刺すと、荒い息をしながら言った。


「終わった……」


 ハティエルも剣をさやに収め、頷いた。彼女も息があがっている。


「魔力がスッカラカンだよ……」


 ジュナはお疲れ様とハティエルの肩を叩き、杖を拾いにいった。

 4人は台座に向かってキーを取った。

 説明があり、アイテムは『スネークウォンド』というもので、毒の攻撃を飛ばせるものらしい。武器として使え、ヒーラーの魔法の威力をあげてくれる効果があるようだった。

 持つとするとハティエルかジュナ、または売るという選択肢がある。当然、今の冒険者にデザートブリンガーを倒せる人がどれだけいるのだろうと考えると、売れば破格の値段で買い取られると思われた。

 ハティエルは言った。


「ジュナが持ってたほうがいいよ」

「うん、そうする」


 ジュナは腰のフレイルの横にスネークウォンドを下げた。小柄なホビットは腕力はないが、杖の重量は軽いので2つの武器を使い分けていくつもりだった。

 ボルトラは全員がキーを受け取ったことを確認すると、


「今日は美味いものでも食べて寝よう。2日ぐらいはオフだな」


 と言った。

 3人は頷き、パーティーは地上に戻っていった。


 -※-


 次の日、昼間にブラブラと街を歩いていたハティエルは少し空腹を覚えた。

 右手でお腹を撫でながら、すっかり人間だなと苦笑する。

 この近くにグラムエース・ケバブがあることを思い出すと、ハティエルはそこに向かった。アリムと面会した次の日に野菜のケバブを食べたので、今日は肉が多めのやつだな……などと思っていると、店が見えてきた。

 行列はなく、屈強な中年のドワーフの男がオーダーをしているようだがすぐに順番が回ってくるだろう。

 並んだハティエルは、その男に気がついた。


「あっ、ゲイズ!」


 将軍とつけるべきかと思ったが、地上人だし別にいいかとそのままにした。

 男はちらりと横を見ると、ハティエルを見て思い出した。


「ああ、一緒に講習を受けていた少女か」


 興味はなさそうにエルフの店員の男性に視線を戻そうとした瞬間、彼女のゲートトラッカーが目に入った。三つ葉のエンブレムがあった。


「ほう、お主も始まりの草原を抜けたのか」

「うん、次は砂漠のフロアボス」


 それを聞いたゲイズの目が見開いた。聞き耳を立てていたエルフの店員も驚いた。

 店員はちょくちょく店に来るハティエルを認識していたし、三つ葉のエンブレムから地下1層は突破していることは知っていたが、まさかそこまで進んでいる冒険者だとは思っていなかった。

 ゲイズは、


「少し、話ができないか?」


 と言いながら、親指でテーブルをさした。暇だったハティエルは情報も欲しかったので、同意した。食事はゲイズが奢るといい、ハティエルはビーフケバブサンドをオーダーした。

 向かい合わせに座ると、ゲイズは低い声で言った。


「我々も次はフロアボスなんだ。直前のレストシンボルまではたどり着いている」

「さすがだね。私達はこれから南のレストシンボルに行くところだよ。デザートブリンガー、強かったよね?」


 ゲイズが頷くと、エルフの店員がトレイを持ってやってきた。ゲイズの前に大盛りのケバブライス、ハティエルにケバブサンドを渡すと、お辞儀をして去っていった。


「ああ、強かった。ええと……」

「ハティエル」

「ハティエルたちはどんなメンバーなんだ?」

「ボルトラファミリーって知ってる?」

「すまん。他の冒険者のことは疎くてな」


 即答だった。彼らはそれほど有名では無いらしい。

 ハティエルは自分たちの構成をざっと話した。ミュカやミルファスのことももちろん、話した。

 彼女が話をしている間、ゲイズは頷きながら大きく口をあけ、ケバブライスを頬張っており、大盛りの皿がすぐに消えていった。


「なるほど。我々はコーデルト……講習のときに隣にいた女性を覚えているか?その2人で攻略をしている」


 ハティエルは驚いた。


「じゃあ、2人でデザートブリンガーを倒したの?」

「お互い聖戦士だが、重戦士並みにパワーはあるからな。元々は優秀な軍の兵士も連れていたが、途中で耐えられずにギブアップした結果、こうなった。ダンジョンは国の仕事できているわけでもないし、強く命令はできないから、国に返したよ」

「重戦士並みっていうのは凄いね。ギルドに問い合わせてメンバーを増やさないの?」

「私が将軍と呼ばれていることは知っているかね?」


 ハティエルは頷いた。


「『軍』というのは、付け焼き刃なものではないんだ。訓練を繰り返し、リーダーのもとで統率がとれて始めて成り立つものだ。ギルドでメンバーを増やしたとしても、即戦力にはならないんだ」

「そんなことは無いと思うんだけどなー」

「少なくとも長い間『軍』にいた我々は、そういう柔軟な発想はできない。残念ながら……と付け加えるべきなんだろうが、そうなんだ。現在の最先端は地下3層というから、我々もフロアボスを倒したら、しばらくは仲間を集めるために準備をしたいと思っている」

「エリシアたちと一緒に行くと良さそうだね」


 ゲイズは少し考えた。講習を思い出すと格闘家と賢者と言っていた気がする。


「ああ、いいかもな。ただ、どうだろう」


 ハティエルには言わなかったが、自分がいきなり現れ、リーダーになると言い出したらエリシアたちがどういう反応をするかと、ゲイズは考えた。

 そんなハティエルは名残惜しそうに最後のひとくちを終えたところだった。


「フロアボスについて、なにか情報持ってる?」

「いや、ギルドの地図に書いてある以外には持っていない」


 ギルドの地図には『アンブリア』という人型の魔法使いで、多彩な属性の魔法を主体とした攻撃をすると書かれていた。


「魔法って、盾で防ぐのは厳しいよね?」

「どんな盾を使っている?」

「地下1層のフロアボスが落としたやつ。グリフォンの」

「ああ、あれなら魔法にもそこそこ強いぞ。でも、もう少しいいものを店で探したほうが安心だな。デザートブリンガーが辛かったのはそのせいもある。武器を強化したい気持ちはわかるが、ボス戦ではお主が攻撃するチャンスは多くないはずだ」

「そうだったね」


 ハティエルはゲイズから盾に関する情報を得た。彼は軍にいただけあり、詳しかった。

 盾とひとことで言っても色々と種類があった。大きく分けると物理攻撃に強いものと魔法攻撃に強いもの。また、炎に特に強いなど、特徴もあった。

 サイズも色々あり、守りに徹するための重くて大きなものや、攻撃を主体とするための小型のものに分けられていたが、大型の盾はハティエルの体格には合わないだろうと言われた。

 グリフォンの盾は中間のサイズで物理攻撃に強い盾に属するらしい。

 ハティエルはお礼を言って立ち上がった。


 ギルドに向かったハティエルは、盾を購入したいことを伝え、いくつか店を紹介してもらうと、その足で向かった。

 何店か店を回ったが、めぼしい盾は無かった。

 盾自体は多く、地下2層で見つけたと思われる盾も何個か見ることができた。

 だが、それらはゲイズの言う物理攻撃に強い盾に属するもので、ハティエルが欲しいものではなかった。もしゲイズから話を聞いていなければ、強そうだと購入していたかもしれない。

 次に入った店は古ぼけた小さな店だった。

 木造りの壁にいくつか盾が並べられており、中央の長いテーブルにも置いてあった。

 正面のカウンターにはホビットの若い男性が座っていた。彼はジュナのように小柄だが、立派な大人であり、口元にはひげをはやしていた。

 彼はいらっしゃいといい、ハティエルを見ていた。一方、ハティエルは彼に気にせずに見学した。

 店のラインナップは他の店とさほど変わらなかった。というのは、どこも仕入れ元がギルドだからである。自然と似たようなものになるし、掘り出し物はすぐに売れてしまう。


 そんななか、ハティエルは壁にかけている白い盾に目がいった。

 4枚の羽の描かれている小型の盾だった。物理攻撃に強いイメージはまるでなかった。


「あのさー!」


 ハティエルはホビットの店員に顔を向けると、盾を指さした。


「あれ、見せてほしいんだけど」


 店員は頷くと、踏み台を持って向かった。彼の身長では届かず、ハティエルも届かないので勝手に取ってくれと言えなかったためである。

 盾を壁からはずし、ハティエルに渡す。

 ハティエルはまず、両手で持ってみた。グリフォンの盾より軽い。

 描かれている4枚の羽を見ながら、隣に立っている店員に向けて言った。


「これ、何ていうの?」

「『フェアリーシールド』ですよ。地下2層クラスの盾です。魔法攻撃に強いものですが、地下2層ではあまり強い魔法を使う敵はおりませんから、売れ残っているんです」

「フロアボスの『アンブリア』がいるじゃん?」


 店員は両手を返して笑った。


「そこまでたどり着ける冒険者なんて、そうそういませんよ」

「なるほど。この盾の場合、物理攻撃はどうするの?」

「相手の攻撃に合わせてはじくような感じで守るらしいですね。私は戦闘ができるわけではないので、詳しくはわかりませんが」

「あー、『パリィ』か。なるほど」


 店員は子供の姿のハティエルを見て、冷やかしだとは思っていなかった。ゲートトラッカーにある三つ葉のエンブレムを見ているからだ。地下1層が突破できるだけでも、十分な冒険者である。

 そこで、彼は質問を投げてみた。


「それで何と戦うんです?」

「アンブリアだよ」


 店員は口をぽかんとあけた。目の前の少女がまさか地下2層のフロアボスと戦う存在だとは思わなかったからだ。


「で、これいくら?」

「……カウンターにいきましょうか」


 2人はカウンターに向かい合わせになった。


「こちらの条件をのんでくれれば、タダでいいです」

「ほんと?私は何をすればいいの?」

「簡単です。アンブリアを撃破して『しじまの海』にたどり着いてください。そうしたら、この店の盾のおかげでアンブリアを倒したと、派手に宣伝してください。フェアリーシールドは今後強いものが手に入ったら、店に戻してくれると嬉しいです」


 ハティエルは笑顔で頷いた。


「そのあとで高く売るわけね!いいよ、やろう!」


 ハティエルが右手を差し出すと、店員はがっしりと握手をした。

 彼の名は『オベリオ』と言った。

 フェアリーシールドのお陰でハティエルが地下2層を突破できれば、ギルドからの店の評価もあがるだろう。


 -※-


 次の日、ゲイズたちはフロアボスへと向かった。

 その次の日、ハティエルたちもレストシンボルへと向かった。

 広場で集合し、白い盾を持っているハティエルを見てボルトラは言った。


「ほう、新しい盾を買ったのか。弱そうだけど大丈夫なのか?」

「うん、盾には物理攻撃用と魔法攻撃用があって、これは魔法攻撃用なんだ。アンブリアの対策だよ」

「しばらく戦わないだろう?」

「パリィの練習するんだ」


 サグが割って入った。


「パリィって、なんだ?」

「サグ、ちょっと杖を持って私に攻撃してみて。ゆっくりね」


 ハティエルが盾を構えると、サグは頷き、杖を取り出した。言われた通りに両手で持って、彼女に向けてゆっくりと振り下ろす。

 ハティエルは盾を杖に合わせるように振ると、軌道をそらせた。そして、何も持っていない右手を突き刺す真似をした。


「はじいてグサって感じ。これがパリィ。パリィングってのが正式名称だったかな」

「へー」


 今度はジュナが言った。


「そんなのどこで覚えたの?」

「そりゃ、剣術はある程度学んでるし」

「じゃなくて、盾の話。物理攻撃用とかそういうの。それも元々知ってたの?」

「いやいや」


 ハティエルは盾を外した。


「おととい聞いたんだよ」

「へー、ギルドで?」

「ゲイズに」

「ゲ、ゲイズって、あのゲイズ将軍?」


 ハティエルは頷くと、グラムエース・ケバブで出会ったと説明した。


「一緒にケバブを食べながら聞いたんだ。ゲイズは昨日、フロアボスと戦ってるはずだよ。私達より進行度が速いみたい。今頃、地下3層じゃないかな」


 ボルトラは少し興奮した口調で、


「なんであの将軍がお前なんかと食事するんだよ」


 というと、ハティエルはレストシンボルに向かいながら話すと返した。

 4人はテレポートをすると、南に向かって砂漠を進み始めた。雑魚戦はこの段階ではもう楽勝だった。

 ハティエルは初日の講習でゲイズ将軍と同じだったと伝えた。

 他の3人からすれば、ゲイズ将軍に話しかけるなど、だいそれたことはできないと言ったが、ハティエルからすれば所詮は地上人という感覚だった。口には出さなかったが。


「ゲイズからしても、私達は進行度が同じぐらいで無視はできないんだよ。それに、あの人は1000人を引き連れて戦うのは得意かもしれないけど、4人で戦うのはニガテかもしれないんだ」


 一緒にケバブを食べた時の感触としては、それは間違いないだろう。ハティエルの印象としては、ゲイズには柔軟性がない。

 地上ではどうかわからないが、ダンジョンではゴールの直前で予想外のトラブルが起きればあっさりと引き返して出直すタイプだ。予定自体は人一倍考えて行動を始めるだろうし、備えの選択肢も膨大なのだろうが、そのどれにも当てはまらなかった場合、予定を変更して進めないかと検討はしないはずだ。


「軍隊のボスとして有能だったかもしれないけど、冒険者としては互角なんだよ?」


 ボルトラは右手を強く握りしめた。


「互角か。そう言われると、自信がつくな」

「ボルトラファミリーなんて知らないって言ってたけどね」


 ハティエルとサグが笑うと、ボルトラとジュナは少しムキになり、まだまだ知名度が足りないという話をし始めた。

 サグは言った。


「将軍はどんなパーティーなんだ?」

「コーデルトと2人。えーと、聖戦士が2人って言ってたかな。2人とも重戦士並に強いから問題ないんだってさ」

「それは凄い。流石は将軍だな」

「……と思うじゃん?」


 サグはどいうことかと訪ねたが、ハティエルはその先は語らなかった。

 旅は順調だった。

 フェアリーシールドも軽くて使い勝手が良く、デザートブリンガーの攻撃は厳しいだろうが地下2層程度の敵なら簡単にはじけた。

 ハティエルはアンブリアが魔法主体ということであれば、これで問題ないだろうという自信がついた。

 2日かけて2つのレストシンボルにたどり着くと、明日はいよいよフロアボスだと話し合い、地上に戻っていった。

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