第2章 惨劇の幕開け

チャプター1

 ハティエルたちはフロアボスの部屋の前にいた。

 地面は土で周囲は崖であり、海に囲まれている。

 波の音が聞こえる。

 地図によると、フロアボスは『グリフォン』と呼ばれる鷲の上半身とライオンの下半身を持つ、翼の生えた生き物らしい。グリフォンは伝説上の生き物で、地上にはいない。

 地図の説明を見ながらミルファスは言った。


「爪やくちばし、広範囲の風の攻撃に注意……か。爪やくちばしはハティがなんとかできるけど、広範囲の風の攻撃……ってのは、やっかいだな」

「みんな私の後ろで構えて、そこから攻撃かな?私に当たらないようにしてね」

「私は魔法でシールドが張れます。これで風の攻撃が防げるかもしれません」

「じゃあ、ミュカは私の後ろでサポートをお願い。動くかもしれないけど、頑張って食らいついて」


 ミュカは力強く頷いた。


「わかりました」


 4人は台座に手をかざし、部屋へと入っていった。

 黄色い魔法陣とともにグリフォンが現れると、グリフォンは空に向かって吠えた。

 4人は大声に耳がやられそうになりながらも、今までのボスと違うと瞬時に判断した。

 勢いよく突進してきたグリフォンは右手を振り上げた。そこへ、ハティエルが飛び込み、盾で支えた。片手ではややつらかったが、ミュカの支援魔法が飛んできて多少、楽になった。

 サグとミルファスはその後方から攻撃を繰り出した。

 前方に集中していたハティエルだったが、グリフォンが羽を羽ばたかせて飛び上がったのに驚いた。


「まずい!」


 空中からサグに向かって突撃をしてくるグリフォンに、ハティエルは間に合わなかった。瞬時に攻撃を避けようとしたサグだったが、左肩に傷を負いながら、地面に倒れてしまった。

 ハティエルは後方から剣で切りつけながらグリフォンの注意を引こうと必死だった。その後ろから、ミルファスは矢を構え、力を貯めていた。

 その後ろからミュカがサグに向かって回復魔法を飛ばす。

 そこでようやくグリフォンの体が振り返った。傷のいえたサグは、腕を抑えながらよろよろと立ち上がることができた。

 ミルファスは声をあげた。


「パワーショット!」


 力を貯め、オーラの纏った矢がグリフォンの右目に突き刺さった。

 大声が部屋に響き渡る。

 そのおかげでサグは瞬時にハティエルの後ろに移動できた。

 グリフォンは翼を上げると、思い切り振りおろした。横に伸びた鋭い風の塊が飛び出すと、ミュカはハティエルの前にシールドを張ってそれを塞いだ。

 目をやられて怒り狂っているグリフォンは、声を上げながら突進してきた。ターゲットはシールドを張ったミュカだったが、前にいるハティエルが重い一撃をなんとか受け止めた。重さにやや、手が痺れた。

 ハティエルは自分でヒールを唱え、注意を自分に向けた。

 グリフォンのくちばしが何度もハティエルの盾をノックする。

 後方でサグが言った。


「ミルファス、一斉にいくぞ。お前は右の翼をやれ。俺は左をやる」

「ああ」


 ミルファスは矢を構え、サグは魔法の詠唱を始めた。


「パワーショット!」

「ファイヤーストーム!」


 オーラを纏った矢と、激しい炎がグリフォンの翼に直撃した。ダメージは大きく、もう飛ぶことはできないだろう。

 バランスを崩したのか、ハティエルへの攻撃がやむと、ハティエルは自分の剣を魔法の光のオーラで包むんで飛び上がった。

 グリフォンのひたいにハティエルの剣が突き刺さると、グリフォンは倒れ、蒸発した。

 蒸発しながらドンと盾を落とした。グリフォンの紋章の入った盾である。

 拾ったハティエルは少し悩んだ。今の盾よりも頑丈で、自分で使ったほうが良さそうだ。


「ねぇ、これ、私が使っていい?」

「いいんじゃないか?」

「そのほうがいいですよ」


 ハティエルは笑顔で頷くと、台座に手を触れた。

 ゲートトラッカーに三つ葉のエンブレムが刻まれると同時に、4人は地下2層へと転送された。


 -※-


 地下2層、月下の砂漠。

 扉をあけて外に出ると、ミュカは地面に片膝をつき、慌てて立ち上がった。

 見渡す限りの砂漠は照りつける太陽の激しい日差しでゆらゆらとしている。立っているだけでも足元が熱を帯びてくる。

 ミュカが慌てて立ち上がったのは、砂の熱さに飛びあがったからだった。

 体中から汗がダラダラと流れてきて、体の水分が失われていくのがわかった。


「一旦、帰りましょう」


 ミュカはそう言うと、他のメンバーの同意を得ずに地上にテレポートしていった。ハティエルたちも続いた。

 広場では汗だくのミュカが、


「一度シャワーを浴びてから1時間後にここに集合しましょう。それからみんなでギルドにいって、今後の相談っていうのはいかがですか?」


 と言った。

 3人は同意し、一旦解散した。

 サグ以外はジオリーズ・インまで一緒である。

 会話はなく、それぞれが脳内でどうするかと考えながら歩いた。


 部屋に戻り、シャワーを浴びながら、ハティエルは初日にギルドで野宿も必要だと言っているのを思い出した。天使である自分にも、あの場所は辛い。

 だが、突破率5%未満ということは過去に突破できた冒険者はちらほらいるようだし、現在2人生きているということだ。

 突破できた人が特殊な体質ということも考えられるが、地上人があの場所を平均な顔で歩けるとはとても思えない。なにか対策はあるはずだ。


 体を拭いて服を着替え、ハティエルは広場に向かった。バッグだけ持ち、装備は置いていく。

 他のメンバーはまだおらず、ベンチで座って待っていると、ボルトラファミリーが転送されてきた。


「なんだよあの熱さ!無理だろ」

「思っていた以上に厳しいですね」


 ジュナと呼ばれていたホビットの少女がハティエルに気がついた。ボルトラが声を上げる。


「おう、ハティエルだったか?俺たちはなんとグリフォンを倒して、地下2層に……」


 アコアロと呼ばれていたエルフのアーチャーがボルトラの腕をツンツンとつついた。


「なんだよ」


 アコアロの視線の先には、三つ葉のエンブレムが記録されているハティエルのゲートトラッカーがあった。


「なんだ、お前たちも砂漠いったのか」

「たった今ね。でも、いった瞬間、戻ってきた」

「俺たちはちょっとは歩いたんだぞ!」

「でも、無理だったんでしょ?」


 ボルトラはため息を付いた。


「……ああ」

「私達はこれからギルドにいって、対策を練ろうと思ってたんだ。ボルトラたちも一緒に行かない?」

「ほう?」


 ジュナは言った。


「ボルトラ、ボクたちも一緒に行こうよ。ハティたちは別に、敵ってわけでもないんだし」


 ボルトラはすぐに頷くと、自分たちもシャワーを浴びたいから、少し時間をくれないかといい、その場をあとにした。

 やがて、ミュカとミルファスと合流すると、ボルトラたちも一緒に行くという話をして同意を得た。8人で討論すればいいアイデアが出てくるかもしれないからだ。

 最後にサグが合流した。彼はレモネードの入った紙コップを4つ持っており、買ってきたといってハティエルたちに渡した。さっぱりとして冷えたレモンの味が口に広がり、生き返った気分で感謝した。


 ボルトラファミリーと合流したハティエルたちは、8人でギルドに向かった。

 ドワーフの老人がぞろぞろとやってきたハティエルたちになにごとかと思って眺めていると、ボルトラは大声で右腕のゲートトラッカーをカウンターに向けて言った。


「月下の砂漠にいったんだけど、辛すぎるんだ。対策はないか?」


 ドワーフの老人は親指で右の壁を指した。講習を受けた部屋に行けと言うことらしく、ハティエルたちは扉をあけて中に入った。

 椅子を黒板の前に集め、少し待つと講習をしたノームの老人がやってきた。手には紙の束を持っている。

 軽くポンポンと手をたたきながら、地下1層の突破、おめでとうございますと笑顔で言った。そして、紙を8人に配った。それは地下2層の地図だった。

 地図をざっと眺めたボルトラは、身を乗り出すようにして言った。


「待ってくれ。俺たちはここをまともに移動することができないんだ」

「まぁまぁ、落ち着いてください。これからギルドの知っている知識は全て伝えますから」

「お、おう」


 ノームの老人は砂漠は砂漠用の格好で移動しないときついということを説明した。

 まず、薄着のほうが適切に思えるがそうではなく、日差しを抑えるための格好が必要だと伝えた。例えば熱を抑えるための帽子は必須だし、肌を隠すように通気性の良いゆったりとした服を着たほうがいいと言った。

 ハティエルもピスティスも鎧は着ていないが、鎧はもってのほかである。体を締め付けるベルトも無い方が良かった。

 それでも水分は失われていくので、大量の水は持っていったほうがいいと伝えた。冷たい水でなくても、水分の補給が重要だと。

 水は地上で買ってボトルに入れて持ち歩いてもいいし、魔法で出してもいい。ボルトラファミリーにはウィザードがいないが、サグのいるハティエルたちは少し有利だといえた。水を持ち運ぶより、高額だがサグの魔力を回復させる薬を持ち歩いたほうが負担が少ないからだ。

 夜は逆に冷える。野宿が必要になるので早めに冒険を切り上げ、焚き火を作ってしっかりとした寝袋を用意する必要があると教えた。

 これらのことから、地下1層とは比べ物にならないほど荷物の量が多くなる。

 8人は真面目に説明を聞いていた。ミュカとピスティス、アコアロは必死にノートを取った。


 次に、地図の説明だ。

 地下2層のキーは2つだ。北西と北東にあり、北西は近いがエリアボスとの戦闘が必要で、北東は長距離の移動が必要だが、サボテンの生えている地域にある台座に手をかざすだけで良かった。

 ゲートは南にある。行く必要のない南西と南東にはオアシスがあり、水を確保できるが冒険のルートとはならないようだ。

 ハティエルは言った。


「どっちから行くのがいいの?」

「北東ですね」


 即答だった。


「地下2層は環境的なキツさもありますが、戦闘もキツいです。地下1層とは比べ物になりません。私も地下2層を経験していますが、戦闘のキツさにギブアップしています。そのため、過酷な旅とはなりますが、北東のキーに向かいながら経験を積んで、エリアボスに挑むのが良いかと思います」


 それを聞いたミュカは言った。


「地下3層にいっている、えーと……エリシアさんたちもそうだったんですか?」

「はい、そうです。今、私が語っているのはギルドの記録をもとにしたものもありますが、エリシアさんたちの経験によるものが多いです。地下2層に挑む冒険者は貴重ですから、ギルドの冒険者のレベルを引き上げるためにも、皆さんの体験もあとで教えてもらえると助かります」

「わかりました、ありがとうございます」


 次に、アコアロが右手を上げた。


「砂漠の服装というのは、ギルドで手配してもらえるものなのでしょうか。もちろん、費用がかかるのは構いません」

「手配はできませんが、店は紹介できます。先日、ゲイズ将軍にもお伝えしましたが、彼は他の店も回ったようですね。エリシアさんたちの手配した店を紹介したのですが、もっといい店があるかもしれないと言っておりました。慎重ですね」


 それを聞いたボルトラが割り込んだ。


「ゲイズ将軍って、ゾークブルグのあのゲイズ将軍?ここにいるのか?」

「ええ、そのゲイズ将軍です」

「あの人、早いんだなー。私達と一緒に講習受けたのに、ねぇ」


 話を振られたミュカは、そうですねと同意した。

 ノームの老人は、


「皆様も十分優秀ですよ」


 と言った。だが、ハティエルは反論した。


「そうかな?油断しないで普通にみんなの長所を活かせば、地下1層はそんなに辛いものじゃない気がするんだけど。あれで突破率30%なの?」


 ノームの老人は笑顔で首を横に振った。


「いえいえ、皆さんは十分に鍛えられていますけど、他も皆そうとは限りません、。地下1層で修行をしながら力をつけていくというケースも多いんです」

「私はミルファスと子供の頃から狩りをしていましたからね、戦闘経験は豊富なんです」

「俺も魔法の講師として、そこそこの実力はあったつもりだ」

「俺たちボルトラファミリーも同じだ。このメンバーで昔から色々やってきたんだ」


 そして、全員の視線は自然とハティエルに集まった。


「え?いや、その……私は……。剣術はまぁ、それなりに」


 ミルファスは頷いた。


「確かにお前、剣はなかなかいけてるよな。その歳で凄い修行したんだろうなって思ってるよ」

「ボクと同じ天才タイプかな?」


 ボルトラは無言でジュナの頭を小突いた。

 ノームの老人は言った。


「あとは、みんなの長所をいかせればっていう部分ですね。付け焼き刃のパーティーでは連携がうまく行かなくて苦労したりします。メンバーの役割がタンク、ヒーラー、アタッカーが二人という、理想でない場合もありますし、そもそも4人いるとは限りません」


 その言葉に、ミュカが驚きの声をあげた。


「……えっ?」

「どうしました?」

「あ、いえ……その……」


 ミュカはハティエルの顔を見た。


「ボス戦の前って、だいたいハティちゃんが作戦を立てていましたよね?改めて言われると、ハティちゃんって凄いんですね」

「大したことはしてないよ。誰だってそうするでしょって話をしているだけだし」


 ミルファスは言った。


「でもお前、他のやつとちょっと違うって思ってたぞ」


 ハティエルは苦笑いしながら、そんなミルファスの顔を見た。


「初めて会った時、こいつで大丈夫か?て感じだった気がしたけど」


 ミルファスも苦笑いすると、8人はノームの老人にお礼を言って、ギルドを出た。

 外に出ると、お互い頑張ろうぜとボルトラファミリーと別れ、ハティエルたちは数日かけて砂漠の準備を始めた。


 -※-


 再び地下2層、月下の砂漠。

 ハティエルたちは『トーブ』と呼ばれる、ゆったりとしたワンピースのような白い服を着ていた。白は日光を反射するので適切らしい。

 フードもかぶっており、水の入れたボトルをいくつかバッグに入れ、腰からも下げている。

 靴も砂漠の熱を抑えてくれる歩きやすいブーツを履いている。

 寝袋はまだ持っていない。北東に向かう予定だが、最初のレストシンボルまでは野宿は不要な距離らしいからだ。

 前回来たときとは見違えるようだった。辛いには辛いのだが、なんとか耐えられそうだった。

 始まりの草原とは異なり、標識はなかった。

 ゲートの向きと地図を見比べ、北東の方角に向かって歩き出す。角度が間違っていたらまずく、途中にある大きな岩や骨などの目印を頼りに進んでいくしかない。


 20分程歩くと、前方から獣が走ってきた。『デザートバイソン』と呼ばれる大きな獣は一直線にハティエルたちに向かってくるようだった。

 4人は武器を構えた。いつものようにハティエルが盾で抑えようと前に出るが、勢いに簡単にはじき飛ばされた。地面が砂で踏み込めなかったという理由もあった。

 デザートバイソンは通り過ぎると向きを変え、ミルファスに向かって突撃をした。矢を打ち込むがびくともせず、体当たりを食らって宙に浮いた。

 ミルファスは衝撃で視界が真っ白になった。

 ドスンという音とともに落下すると、ミュカが慌てて近寄ってヒールを詠唱し、ハティエルがカバーに入った。


「ミュカ!こっち!」


 ミュカは何をするべきか察し、ミルファスの回復を止めてハティエルの防御を強化した。かわりに、ハティエルが背後のミルファスに向けてヒールを唱える。

 デザートバイソンは再度ハティエルに突撃をすると、次はなんとか押さえられた。

 ハティエルは唸り声をあげながら、全力で盾に力を入れた。

 両手で盾を持って押し返そうとするハティエルと、頭を押して潰そうとするデザートバイソンの力比べが始まった。

 そこへ、サグの風の刃が横から飛び出し、デザートバイソンの首に亀裂を入れた。ハティエルの手から力がふっと抜けた。チャンスと思ったハティエルは、盾を捨て、両手で剣を持って力いっぱいに首の傷に切りかかった。

 鈍い一撃とともにデザートバイソンの首が切断されると、ジュッという音とともに獣は蒸発した。

 ハティエルは両肩を落とし、荒い息を吐いた。

 そこにはデザートバイソンのツノが1本落ちていた。

 ハティエルは呼吸を整えるとツノを拾い、バッグに入れた。何に使うかわからないが、地下2層のものだし高く売れるかもしれないと思うと、少しワクワクした。

 よろよろと立ち上がったミルファスを、ミュカが完全にいやした。


「い、いきなりこれかよ。地下2層の敵、ヤバすぎだろ。死んだと思ったぞ」


 サグは言った。


「ああ。草原のやつなら、あの魔法でスパッと倒してたのにな」


 ミュカとミルファスは黙って頷いた。そして、ワクワクしていたハティエルも真顔になった。


「あのさ、今の魔物、集団できたらヤバいよ。速いから逃げてテレポートっていうのもできない」

「まずいですね。どうしましょう」


 ミルファスは頷いた。


「少なくとも、ここのエリアボスは当分先だな。戦闘を繰り返して経験を積んで、強い武器を手に入れよう」

「集団で来ないことを祈るしか無いですね……」

「ああ……」


 -※-


 環境と戦闘に疲労しながらも、5時間ほど進むと視界にアリムの像が見えてきた。レストシンボルである。

 4人は安堵した。

 ここにたどり着く間にサグの杖を入手し、これのお陰で戦闘がかなり楽になっていた。『フェザースタッフ』と呼ばれるそれは、全体的に魔法の威力が上がるが、風の魔法の威力が特に強化される特徴だった。


 今日はここで冒険を切り上げ、地上に戻った4人はギルドの地下にアイテムを売りにいった。

 デザートバイソンのツノは薬の材料になるらしく、高額だった。

 精算の間、ミルファスはエルフの女性に質問を投げた。


「装備って、買えないのかな?」

「もちろん買えますよ。地下2層のものであればそこそこ値が張りますけど、店を回れば買えます。でも、エリシアさんとラシッドさんが稀に拾う、地下3層の装備はもっと高額ですが、すぐに売れてしまいますね」


 ミルファスは武器屋の場所をいくつか聞くと、ギルドをあとにした。

 レストランで夕食のパスタを4人で食べながら、ミルファスは言った。


「俺の弓とハティの剣を買いたいと思うんだが、どうだろう?」

「高いんでしょ?サグの杖みたいに戦っていれば拾えそうじゃない?ギルドの人もそこそこの値段するって言ってたし」

「それでも、先に手に入れておいたほうが安心だろう?サグの魔法の威力はかなりアップしたし、俺たちも強化しておいたほうが、集団戦になったときに有利だと思わないか?」


 ハティエルは口に入れようとしていたフォークをおろすと、


「確かにそうだね。明日は買い物に行こう」


 と言った。


「でも、地下3層のやつは高いんだろうなー」

「2層のやつで十分だろ。3層に行く頃にはお金も溜まっているだろうし、3層のやつはその頃に買えばいいんだよ。すぐに売り切れるって言ってたし、買えるかどうかはわからないけどな。ゲイズ将軍クラスになればお金もあるだろうし、いきなり強い装備が手にはいるんだろうけど、俺たちは俺たちでできることをするしかない」

「地下4層の時はどうすればいいんだろうね。誰も拾ったことがないから手に入らないと思うけど」


 ミルファスはフォークを振った。


「その時はその時になってから考えればいいだろ。4層なんて相当先の話だぞ?」

「まぁ、そうか」


 ハティエルはおいたフォークを持ち上げると、パスタを口に入れて水を飲んだ。砂漠に長くいたせいか、水が美味しい。

 サラダのトマトをつつきながら、ミュカが言った。


「ボルトラさんたちはどうしているんですかね」

「あいつらの住まいとか、聞いておけばよかったな」


 -※-


 次の日、武器屋をまわったハティエルたちは、『グラディウス』と呼ばれる刀身は短いが鋭い切れ味の両刃の剣と、『グレートボウ』と呼ばれる大きな弓を購入した。

 今使っている武器と性能が違うのは手に持って見るとわかる。

 高い買い物だったが、これを使って地下2層で戦闘を繰り返せば比較的早くお金は回収できるだろうという見込みがあった。

 次のレストシンボルまでの旅は野宿が必要になる長い道のりだったため、ハティエルたちは念のため、もう1日休暇を取って冒険に備えた。

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