チャプター5

 その夜、シャワーを浴びたハティエルは体を拭きながらカーテンをあけて外を眺めていた。

 ジオリーズ・インの3階の部屋からは、街の様子がよく見える。

 酒場で成果を語りながら酒を交わし、フラフラと路地を歩いている冒険者や、仕事終わりで帰宅する社会人、遅くまで遊んでいた学生など、まだ活気のある時間帯だとわかる。

 そんな何気ないグラムミラクト王国の日常だが、ハティエルには面白かった。

 気になるのは、顔を見上げた住民が自分を見ると、はっとなって視線をそらせていくことだった。今の彼女は人間であり、翼もなく天使としての特徴はなにもないはずで、珍しいところはなにもないはずだ。

 ハティエルはなぜだろうと少し考え、程なくして気がついた。


「あっ、これがまずいのか」


 慌ててカーテンを閉じる。

 人間であるからこそ、裸で窓のそばに立っているというのはまずかった。彼女としては見られて困るものでもないし、恥ずかしいという意識はまるでないのだが、人間として振る舞うのであればまずい。

 ジオリーズ・インは本来は宿屋なので、睡眠用のスリーパーは用意されている。パンツのない、丈の長いシャツである。

 ハティエルはそれをはおり、ボタンをとめた。小柄な彼女にとってサイズはやや大きく、丈は足元まであった。

 バッグを横に置いてソファーに腰掛けると、一日を振り返った。

 今日は怒涛の一日だった。今朝、楽園の湖の畔で見習い天使と雑談をしていたのがウソみたいである。

 ギルドで説明を受け、ミュカたちと出会い、ダンジョンを冒険していた。


 次に、明日は何をしようと考える。

 次のキーはエリアボスとの戦闘がある。地図を脳内に描くと、距離はかなりあるようで、真っ直ぐ進むと一つのキーに2日ぐらいはかかりそうだ。道中でギルドで先程教えてもらった、『魔法の込められたアイテム』というものも欲しい。

 最短で向かうと地図の四隅には一歩も踏み入れないことになるが、そこはそこで景色の良さそうな場所がある。魔王討伐というミッションがなければ、そういったところをのんびり散歩するのも悪くないだろう。

 ハティエルはそんなことを考えながら疲れたとか、足が痛いというような目立った疲労は無いが、無意識のうちに前にかがむようにして両手で両足を揉んでいた。

 バッグから懐中時計を取り出して見ると、21時だった。

 ハティエルは地上人とは何時に寝るものなのだろうと考える。

 楽園では昼夜は無いので、適当に横になる。睡眠時間は人によって違うし、短い睡眠を繰り返す者もいる。もちろん、大半の地上人が夜に寝て朝に起きるものだということは理解しているが、具体的に何時というのはわからなかった。

 遅刻するのはまずいなと思ったハティエルは、明かりを消してベッドに横になろうと思った。

 部屋の壁に備え付けられているスイッチを押すと、1号室への魔力の供給が切断され、部屋が暗くなった。ハティエルは真っ暗になったことに驚きながら、部屋のレイアウトを思い出し、もそもそとベッドに向かった。

 目を閉じると、ハティエルはすぐに眠りについた。


 -※-


 朝がやってきた。

 目を覚ましたハティエルはカーテンをあけた。朝日が飛び込んできた。

 窓をあけて空気を吸い込んでみると、ややひんやりとした空気が飛び込んできた。気持ちがいい。

 ソファーに向かい、バッグの中から懐中時計を取り出す。5時だった。


「集合は9時だっけ……あと4時間もあるのか……」


 早く起きすぎたと思ったが、せっかくなので街を歩いてみようと思った。

 服を着替えて手ぶらで部屋を出ると、しっかりと戸締まりをした。そこはもう忘れない。

 階段を降りると、ジオリーではない、人間の中年の男性がカウンターにいた。交代制らしい。

 初対面なので挨拶をし、3階の1号室のハティエルだといって鍵を預かってもらう。


 外に出て、ぶらぶらと歩いてみる。

 冒険者は昼間に冒険をすることが多いとはいえ、24時間ダンジョンに向かう。そのため、朝からやっている飲食店はそこそこあるようで、パンを齧りながら歩いている鎧を着た男性とすれ違ったり、美味しそうな湯気を出している露店を通り過ぎたりした。

 ハティエルもなにか食べてみたかったが、手ぶらでお金を持っていないことを残念に思う。集合が9時なので、少し早めに準備をし、パンを買ってダンジョン前の広場のベンチで食べるのも悪くないなと考えた。

 15分ほど歩くと、屋台に2人の女性客がいた。

 女性客は冒険者で、剣と盾を持っていることから2人とも戦士と思われた。

 どちらも人間で25歳前後。ロングヘアの女性は手に持ったホットドッグを見て、


「これが食べたかったんだよね」


 と言った。

 それを聞いたショートヘアの女性は、ホットドッグにケチャップとマスタードを塗ると、


「うんうん」


 と笑顔で返した。

 二人でかじると、笑顔で美味しいと言っている。

 ジューシーだとか肉厚だと言いながら歩き始め、ハティエルの横を抜けていった。当然、ハティエルは振り返り、しばらく二人の女性を眺めていた。

 屋台には『ヴァーミリオンズ』と書いてある。おそらく店名だろう。

 ハティエルは今日の朝ごはんはヴァーミリオンズに決めた。8時頃にいけば余裕だろうか。


 しばらくブラブラと時間を潰し、ハティエルは一度部屋に戻った。

 バッグや武器を手に取ると再び外に出て、まずはギルドに向かった。

 カウンターにいる2人は時間帯の都合か昨日とは別の人物だったが、ノームの女性はいた。

 挨拶をしながらバッグから懐中時計を取り出し、上を向いてギルドの時計と比較する。時間はあっているようだ。

 ノームの女性は言った。


「ハティエル様でしたっけ?それは、とても重要なことですよ」

「あの時間が基準で動いているみたいだから、念のため確認したんだ」

「本日も頑張ってくださいね!」

「ありがとう!」


 そして、ヴァーミリオンズへ。

 前に3人ほど並んでいたので、ワクワクして並んだ。

 ルールがわからないし、今朝の女性が食べていたものがなんというメニューなのかもわからないため、ハティエルは前の3人の会話を注意深く聞いた。

 どうやらホットドッグというらしい。前の3人は1つか2つ、購入しているようだった。

 あとは赤いソースと黄色いソースの謎だ。これは皆、無言だったので、正体がわからない。

 ハティエルの番がきた。

 ホットドッグを一つオーダーし、お金を払うとソースはどうするのがオススメなのかと店員に尋ねてみた。太ったドワーフの男だ。

 店員は笑いながら親指を立てた。


「好きにしてくれよ。俺の好みは、ケチャップ多めだな」

「赤い方?」

「えっ?ああ、そうだけど」


 なるほどと思ったハティエルは、言う通りにした。マスタードを一直線に塗ったあとでケチャップを2回塗ってみた。

 ここから広場までは15分かかる。せっかく熱くて美味しそうなのに、歩いている間に冷めてしまう心配をしたハティエルは、店の近くに横一列に並べてあった椅子に座り、その場で食べることに決めた。

 一口かじると、ソーセージの肉汁が口の中に溢れた。ケチャップとマスタードも合わさり、シンプルながらも複雑な味わいだった。

 モグモグとかじりながら、ハティエルは目を見開いて右手を口元に当てた。今朝の女性の言う、ジューシーというのはこういうことかと理解した。

 あっという間に残りひとくちになった。ハティエルは名残惜しそうに見つめ、それを口のなかに入れた。

 そして、もう一度列に並び、おかわりをオーダーした。

 次はマスタードを多めにしてみた。

 問題なのは、ハティエルの体では1個で十分であり、2個目は終盤苦しかったということだった。


 -※-


 ハティエルがダンジョンの前の広場に向かうと、ベンチに座っているサグとミルファスの姿を確認した。時刻は8時40分だ。

 声をかけて近寄っていくと、反応があった。


「早いじゃん」


 サグは笑った。


「まぁな。いきなり遅刻ってわけにもいかないし。ハティエルも早いじゃないか」

「私は5時に起きちゃったから……」

「お前、寝るの早すぎるんじゃないか?」


 ハティエルはよく言ってくれたと心の中で喜びながら、質問を投げた。


「サグたちは何時に寝てるの?」

「俺は23時ぐらいだったな、結構疲れてたし」

「俺もそれぐらいだな。起きて適当に朝ごはん食べてからきた」

「私、今日ホットドッグっての食べたけど、凄い美味しかったよ」


 サグは笑った。


「ホットドッグなんてどこでも食べられるだろう」

「ヴァーミリオンズって店、知ってる?散歩してて見つけたんだけど、ジューシーで美味しいよ」


 早速、覚えた用語を使ってみた。ハティエルの反応に、ミルファスも気になったようだ。


「へー、場所教えてくれよ」

「それより、ミルファス。ミュカはこないのか?お前と一緒に来るものだと思ってたんだが」


 ミルファスは両手を返してため息をついた。


「あいつ、朝が弱いからなぁ……正確には夜寝るのが遅くて、本を読んでて眠れないって感じなんだけど」


 ダンジョンに入っていく他のパーティーを見ながら待っていると、走る音が聞こえてきた。

 音源を向くと息を切らせながらやってくるミュカの姿があった。時間ギリギリである。


「ご、ごめんなさい」


 頭を下げるミュカだったが、時間には間に合っているので特に問題はなかった。ハティエルが行こうと声をかけると、4人はダンジョンへと歩いていった。

 ゲートを抜けて最初の地点にたどり着くと、正面にある標識へと向かった。

 残りのキーは東西の2箇所で、どちらもエリアボスとの戦闘があった。ギルドからはどちらから行けというアドバイスは受けていないので、どちらからでもいいと思われる。

 地図を見ていると、転送の音が聞こえた。

 4人が振り返ると、別の4人組の男女がいた。初心者なのか、始まりの草原の穏やかさに驚いている。

 戦士と思われる人間の男がハティエルたちに気がつくと、挨拶をしながら寄ってきた。彼らは今日が初めての冒険でアドバイスが欲しいと言うと、ギルドで聞いた通り北の山のキーを取りに行くといいと説明した。

 続いて、レストシンボルの位置や距離を説明する。

 ありがとうと言いながら去っていくと思われたが、彼らはそうではなく、まずはレストシンボルまでいって、キーとは関係ないところを探索しに行こうと言い始めた。

 ハティエルはなぜだと言った。


「宝探しもしたいじゃない?そういうのってきっと、進路上にないと思うんだよ。例えばほら、北の山の東側に花畑があるだろ?キーを取りにいくなら行く必要のないところだから、普通の冒険者は行かない。そういうところに美味しいものがあると思う」

「なるほど……」


 ハティエルはミルファスの顔を見た。何が言いたいか察した彼は、


「俺たちはキーを取りにいくんだぞ」


 と返し、4人組に別れの挨拶をして東に向かって歩き始めた。サグとミュカも無言であとに続く。


「あ、ちょっと待ってよ!」


 ハティエルもお辞儀をして慌ててあとを追いかけた。

 暫く歩くと、ハティエルは言った。


「あの人達の言うことも一理あると思わない?」

「思うけど、お前は地下1層の宝探しをしにきたのか?俺たちは違うぞ。早く深層に行きたい」

「そりゃ、まぁ」


 ハティエルの目的は魔王討伐である。彼らもきっとそうなのだろう。

 ミュカは言った。


「さっさと地下2層におりちゃったほうが、珍しいものが手に入ると思いますよ。ギルドでも言っていたじゃないですか。私達にはここの戦闘はヌルいですから面白くありませんし、さっさと先に行きましょうよ」


 ハティエルが素直に頷いたのを見て、ミュカは所詮は子供だなと微笑んだ。

 実際はそうではなく、ハティエルは試験のことを思い出しただけだった。


 -※-


 ミュカの言う通りにここの戦闘はヌルく、何の危なげもなく攻略は進んだ。

 とはいえ、始まりの草原は広く、エリアボスにたどり着くまでに2つのレストシンボルを経由し、3日かかった。

 そこには草原のなかに不自然な人工物があった。石のようにも思えるが、そうではない。一周したわけではないが、ゲートフロアと同じように正八角形の作りになっていると思われた。

 正面には扉があり、横に台座がある。

 説明があり、代表が手をかざした1分以内に同行するメンバーも手をかざせと書いてあった。

 ハティエルが地図を見ると、『リザードキング』というボスがいると書いてあった。特徴として、剣と盾を持つもので、攻撃を防いでくるから隙を見つけて攻撃をするように書いてある。


「これは、今までどうりにハティちゃんが前線に出て、私達が背後に回って攻撃をするような流れでしょうか」

「まぁ、そうだな。俺とサグは左右から挟んで攻撃すると良さそうだ」

「ふーん。じゃあ、それでやってみようか」


 すると、男の大きな声が聞こえてきた。


「まて!まて!まて!」


 声の方に目を向けると、ボサボサの赤い髪を雑に後ろに流している人間の男が走ってきた。背中には槍の先端に斧がついているような、ハルバードと呼ばれる武器を斜めに担いでいた。

 背が高くてガタイが良く、ひとめで重戦士とわかる。


「俺たちが先だぞ」


 その後ろから剣と盾を持った人間の女性、ミルファスと同じエルフの男性のアーチャー、小柄なホビットのクレリックの女性がついてきた。

 赤髪の男たちと、ハティエルたちは向き合った。


「俺たちのほうが先にきてたんだ。一周してどういう建物か調べてただけなんだよ。だから、エリアボスとの戦闘は俺たちのほうが先なんだ」


 すると、剣と盾を持った人間の女性が横から割り込んだ。


「まぁまぁ、落ち着いてよボルトラ。同じ冒険者同士、いきなり喧嘩腰というのはどうかと思うよ?」

「あ、ああ」


 ボルトラと呼ばれた赤髪の男は頭をかいた。


「ボルトラ・ピッド、20歳。この『ボルトラファミリー』のリーダーだ」

「私はピスティス・オーヴェリム、聖戦士よ」


 ピスティスと名乗った女性は、同じ戦士と思われるハティエルに手を差し出したので、ハティエルは握手をした。彼女は23歳である。


「私はアコアロ・クレーディ、あなたと同じアーチャーのようですね」


 彼は22歳だった。

 ミルファスは頷いた。


「ボクはジュナ・ミラガノ、クレリックだよ」


 ジュナと名乗った女性はミュカと同じクレリックだが、ミュカのように杖を背負っているわけではなく、腰からフレイルを下げていた。クレリックといっても彼女のように前線に出て戦うタイプのものもいた。アタッカーのように強いわけではないが、地下1層のように強敵のいない場合、フレイルを持つ彼女も戦力としては役に立つのだろう。

 低身長のホビットで、ピンクの短い髪から、少年のようにも見える。

 ボルトラは言った。


「ジュナみたいなやつ、他にもいたんだな」


 そう言いながらハティエルを見ると、


「ところで、ボルトラファミリーというのは、なに?」


 と返した。見た目の問題はどうでもいい。


「あー、知らないのか。もしかしたら新米かな?なら、ギルドの精鋭軍団を知らないのはしょうがないな」

「えー、有名なんだ」


 ピスティスは、はいはいと流した。


「私達も新米でしょ。こんなところにいるなら、えーと……」


 ハティエルたちも簡単に自己紹介をした。


「ハティエルさんたちと同じボスと戦っているんだし、進行度は同じじゃないの?」

「うん、同じ」


 ハティエルとピスティスは笑いあった。


「いや、俺たちのほうが一歩、先だ。俺たちが先にリザードキングとやるんだからな」

「いいよ。先どうぞ」


 ボルトラは右手をあげると、台座に手をかざした。扉が開いたのでなかに入っていく。

 他の3人も1分以内という制限があるので慌てて手をかざしてなかに入った。

 ハティエルたちは扉を見るように草原に座った。

 ミルファスは言った。


「いいのか?先に行かせて」

「別にいいでしょ。どうなるのか様子を見たいし」

「まあな」

「あの扉を通る時、風が吹くと思うよ。ダンジョンに入るときと同じで」


 突然話題を変えたハティエルに、ミルファスは首を傾げた。


「1分立ってから入った人は別の場所に飛ばされるはず」


 そう言って、ひとこと加えた。


「だからなんだって話だけどね。というか、多分、私達ももう入れると思うよ。同時に1パーティーしか入れないなんて、台座に書いてないからね」

「はぁ……」


 サグはやや困惑しながら言った。


「なら、俺たちもいくか?」

「せっかくだから、待とうよ。どうなるのか見てみたいし」


 サグは頷いた。

 サラサラと草原に生暖かい風が静かに流れた。

 戦いの音は一切聞こえず、なかでエリアボスとの戦闘が行われているとはとても思えなかった。

 10分ほど待っていると扉が開き、ボルトラたちが出てきた。


「おう!タフだったけど楽勝だったぞ」


 ピスティスも続いた。


「ハティエルさん、攻撃、結構重かったよ。頑張ってね!」


 そう言うと、ボルトラたちは地上にテレポートしていった。

 ミルファスは立ち上がった。


「じゃあ、俺たちも行こうぜ」


 4人はふわっとした風を受けながら、フロアボスの部屋に入った。

 部屋の奥に黄色い魔法陣が現れると、体調2メートルの赤いリザードが姿を表した。情報通り、剣と盾を持っている。

 ハティエルは言った。


「外で見た部屋の大きさと違くない?天井も高いし」

「そんなこと、どうでもいいじゃないですか!」


 ミュカは短く詠唱をし、ハティエルの防御を強化した。

 ハティエルは飛び出した。剣とリザードキングの盾が交わると、サグとミルファスが両端に飛び出し、魔法と矢で攻撃をしていく。リザードキングはサグをターゲットと決め、ハティエルの剣を盾ではじくと突撃した。

 とっさに反応して走っていたハティエルが盾を構えた。ピスティスの言う通り攻撃は重いが、ミュカの支援もあって耐えられないほどではなかった。

 盾を振ってリザードキングの体制を崩すと、攻守を逆転して剣を何度か振った。角度を変えながら繰り出したハティエルの剣さばきは速く、リザードキングが盾で防ぐ間もなくダメージを与えていった。

 サグとミルファスの攻撃、そしてミュカのライトアローが横や後方から飛ぶと、苦しくなってそちらに意識を向けたいが、ハティエルの攻撃に動きが取れず、結果として4人から集中攻撃を食らうことになった。


 程なくして、リザードキングは蒸発して消えた。

 カランカランという音とともに、何かが落ちた。

 それなりに動いたため疲労はあったが、ノーダメージでの勝利だった。

 すぐに地面から台座が出てくる。説明にはいつものように手をかざせと書いてある。ハティエルを除く3人はそこに集まっていたが、ハティエルはリザードキングの落とした先端に青い宝石の付いている棒を拾って眺めていた。


「おい、ハティ。こっちこいよ」

「え?うん。そんなことより、これ拾ったんだけど」

「この台座にそれの説明が書いてるぞ。それよりもまずは、キーを取ろうぜ」


 4人が手をかざしてキーを取ると、部屋を出た。

 ハティエルが拾った棒は説明によると、これは武器ではなく『ヒールロッド』と呼ばれるアイテムらしい。振ると魔法のヒールの効果が現れるもので、20回ぐらいは使えるらしい。


「いいじゃん!高く売れそう!」

「待て、売らないで使おうぜ。その魔法の使えない俺かサグが持っていると、なにかと安全だろう?」


 それを聞いたハティエルは、呆れながら両手を返した。


「サグとミルファスが回復魔法がなくて困るシチュエーションてどんなの?私やミュカが回復魔法を使えるんだし、基本的にいらないよね?逆に、私やミュカが倒れちゃうほどの強力な敵だったら、アタッカーの二人はそんなのがあっても無駄じゃない?私達にはそんなのはいらないんだよ」


 あっけに取られているミルファスを見て、ミュカも同意した。


「確かにハティちゃんの言うとおりですね。タンクのいないパーティーでは必要……というか必須かもしれませんが、私達には不要です」

「あ、ああ……。俺はてっきりハティがお金が欲しくて適当に言ってると思って……すまん」

「なわけ、ないでしょ!」


 ハティエルをなだめながら、4人は地上に戻った。

 ヒールロッドは珍しいが相当の需要があるらしく、高額で4人の家賃1ヶ月分になり、その日はレストランで豪華にお祝いした。

 もう一つの植物のようなエリアボス『オーガフラワー』も、やはりたどり着くまでに3日かかったが、撃破は問題なく、こちらも高額のアイテムが拾えて当面の暮らしは問題なくなった。

 あとはフロアボスを倒せば地下1層、始まりの草原は突破である。ハティエルたちはどうやら30%には、入れそうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る