チャプター3
少し階段をあがり、扉を開けるとそこにはカウンターとロビーがあった。
フロアは木造りだ。
ロビーは4人がけのテーブルが3セットと10人がけの大きなテーブルが1つあるが誰もいない。そばには階段もある。
その奥には扉があり、その先は従業員の部屋があった。
正面にあるカウンターには太った中年の人間の女性が笑顔で出迎えた。
非常に愛嬌があるその女性は、この宿のヌシ、ジオリーだった。
ジオリーは、
「おかえり、ミュカ」
と言いながら右手を前に出すと、ただいまと言いながら彼女が持っていた鍵をミュカは受け取った。
「ジオリーさん、この人は冒険者のハティちゃん。確か3階の部屋が余っていたと思うんですが……」
「うん、一号室にあきがあるよ」
ハティエルはバッグからギルドにもらった紹介状を出して渡した。ヌシというのであれば、この人に渡せば問題ないだろうと。
正しかったようで、ジオリーは受け取ると、
「ハティエル・ニューランさんね。よろしく!」
と言い、宿舎のことを色々説明すると、ロビーの4人がけのテーブルに案内した。
ミュカも席についた。彼女からすればハティエルは子供なので、自分がある程度サポートをしなければという思いがあった。
ここ、『ジオリーズ・イン』は『イン』というだけあり、基本的には一泊いくらの宿である。
だが、グラムミラクト王国では長期滞在の冒険者が多いため、長い間貸し切って冒険者に貸す宿が多い。
ギルドと提携しておけば冒険者の身分の保証はギルドがしてくれるし、トラブルがあっても全てギルドが面倒を見てくれる。その分、冒険者から受け取る家賃の一部をギルドに収めなければならないが、ビジネスとしては冒険者に貸したほうがプラスになる。
宿を住まいとする冒険者は、基本的に低ランクであることが多かった。
地下2層を危なげなく徘徊できる程度の実力があればもう少しマシな住居をギルドを通さずに借りることもできるし、地下3層までいけるエリシアやラシッドぐらいになれば一軒家を買うこともできるだろう。
元々グラムミラクトに住んでいる住民は自宅から馬車などでダンジョンに通うだろうし、ゲイズたちのように本来の仕事をこなして資産を持っている冒険者も、こういうところを住まいにはしないというのもあった。
ジオリーは家賃の話と、部屋の鍵は外に出るときに預かるということ、洗濯と掃除は希望があれば外出時に言ってくれれば、ダンジョンにいっている間に宿のサービスでおこなうということ、食事は無いので部屋のキッチンで自分で調理するか外で食べてくれと説明をした。
家賃はギルドから受け取るため、ハティエルが直接支払う必要はなく、ギルドに預けておいてくれと伝えた。
ダンジョンで手に入れたものはギルドの地下で売却できるが、銀行のようにお金を預かっても貰える。そこから引き出すため、ある程度お金を預けておく必要があるようだ。つまり、食事などで必要なお金以外は全部ギルドに渡しておけばいいようだ。
話を聞きながら、うんうんとハティエルは頷いた。
それほど難しい話ではなかった。食事は作り方もわからないし、全部外で食べればいいと思った。
話を終えると、ジオリーは鍵をハティエルに渡した。
お礼を言うと、ミュカの案内でロビーの階段をあがり、3階に向かった。
一直線に廊下があり、等間隔で扉があった。
「ハティちゃんの部屋は一号室だから、すぐそこですよ」
「へー。この鍵ってやつであけるの?これで他の部屋の扉は開かないんだよね?」
何気なくいった一言に、ミュカは軽く驚いた。知らないのかと。
楽園に鍵というものはなく、誰の家にも自由に出入りできたため、ハティエルには珍しかったわけだが、それに気がついてハッとすると、
「じょ、冗談だよ」
と誤魔化した。
ガチャリと扉をあけ、なかに入った。
中はバス、トイレ、キッチンと、10畳ほどの広めのワンルームだった。
本来は宿であるため、家具は備え付けられており、2人がけの小さなテーブルとソファー、机とベッドが置いてあった。ソファーの前にも小さいテーブルがある。それらは窓から差し込む光で明るく照らされていた。
「へー、いいな。私の部屋よりもずっと豪華だね」
「そうなんですね」
ハティエルは剣と盾をソファーに置いた。バッグをベッドにおろし、部屋を見渡しているとミュカが言った。
「私の部屋は隣の二号室です。三号室に兄のミルファスがいるので、会ってもらえませんか?ダンジョンには当面、この3人で行こうと思います」
「うん、わかった」
「あと一人、アタッカーがいると安心なんですけどね。できれば重戦士か魔法使いタイプの」
部屋を出ると、ミュカに先導されて廊下を歩きだした。
が、すぐにミュカが振り返った。
「ハティちゃん、鍵!鍵するの、忘れていますよ!」
「あ、そうか」
ハティエルが慌てて鍵をかけるのを見て、ミュカは大丈夫かなと思った。一方、ハティエルも無能と見られたらどうしようと、少しドキドキした。
冷静を装って振り返ってハティエルは、三号室の前まで歩いた。
ミュカが扉を2度ノックすると、ガチャリという音とともにスラッとした長身のエルフの男性が姿を表した。ミュカと同じ、淡い黄緑色の長い髪を後ろに束ねている。
彼がミュカの兄、ミルファス・ポーシアである。年齢は20歳。
「おう、ミュカか」
笑顔でそう言うミルファスはハティエルと目があった。
「その子は?」
「ハティちゃん。私達とダンジョンに行くことになったんです。ハティちゃん、この人が兄のミルファスです」
ハティエルは軽く頭を下げた。
「ウソだろ?」
ハティエルはその反応に、ミルファスが何を言いたいのか察した。子供に見えるが大丈夫なのかと言いたいのだろう。彼女からすれば、お前こそ大丈夫かと問いたいぐらいだった。
そう言いたいのを抑え、ミュカの反応を待つことにする。
「こう見えてもハティちゃんのクラスは聖戦士なんですよ。凄いじゃないですか。私達はタンクが必要ですし、ギルドに問い合わせるにも時間がかかります。だから、いいじゃないですか」
「へー、聖戦士なんだ。俺はミルファス。よろしくな!」
どうやら受け入れられたらしい。
「とりあえず、メシいこうぜ。今後のことも話したいし」
「なにか美味しいもの、あるの?」
「俺も1週間ぐらい前にきたばっかりだからなぁ……ハティはなにか食べたいモノ、あるか?」
「うーん、私はなんでもいいけど……」
地上の食事は知らないというのが正直なところだった。
そこで、朝に肉を出していた屋台を思い出した。あれが食べてみたいと思ったハティエルは、身振り手振りでざっと説明をした。
「くるくるまわる肉をこうやって切り取って渡してる店を見たんだけど、あれ食べてみたいな」
「ケバブですね。いってみますか?」
「よし、行こう」
一旦解散し、ハティエルも自分の部屋に戻った。
ベッドに腰掛けて天井を見上げて深く息を吐くと、ケバブと呼ばれた食事にワクワクしながら横にあったバッグを手に取り、部屋を出た。
しっかりと鍵をかけ、1階におりてジオリーに鍵を渡す。
そうしているとミュカとミルファスも階段をおりてきたので、合流して外に出た。
店はハティエルが記憶していた。
ギルドに向かい、そこから一本道を歩く。昼食時なので歩いている住民は多いようだ。
全員が装備を身につけているわけではないが、休暇中かもしれないし、自分よりも先にダンジョンに挑んでいる冒険者もいるだろう。
「ちょっと遠いかもしれない」
「いいよ。俺たちもグラムミラクトに慣れないといけないし」
「ワクワクしますね」
「うん、どんな味なのかな?」
それを聞いたミュカは慌てて否定した。
「そうじゃないですよ、ハティちゃん。これから始まるダンジョンのことです」
「あっ……」
ハティエルは頭をかいた。食事を堪能するために地上におりているわけではなく、大天使の試験をこなさないといけないのである。
「ハティはどこからきたんだ?」
この世界はグラムミラクト王国、ゾークブルグ王国、ワンダラーナ王国の3つの大きな国と、多数の小さな国で構成されていた。
いつか聞かれると思っていた質問だったため、ハティエルは予め答えを用意していた。地理自体は楽園で学習済みだったため、なにも問題はない。
「あのさ、『ルーブヘイム』て知ってる?」
「どこだそれ」
「ルーブヘイムって辺境の島国ですよね?あそこって、ヒトが住んでいたんですか?」
ハティエルは誰ともかぶらないであろう場所を選んでみたが、まずかったかなと思った。実際にその国を見たわけではなかったため、まさかヒトがいるかいないかという場所だとは想像していなかった。
ここは押し切るしか無いと思い、山だらけだけど少しはヒトが住んでると返し、ミュカたちはどこからきたのかと話題を変えた。
「私達はワンダラーナ王国ですよ。ポーシアの家は代々学者の一族なんですが、私もミルファスも勉強よりも戦闘のほうが楽しかったので、二人で魔物を狩っていたんです」
「そのうちにダンジョンいってみないかって話になってな、ここにきたんだ。言っておくけど、俺たちはバカってわけじゃないからな?勉強は人並み以上にできるんだぞ」
「家出みたいな感じで出てきちゃいました。半分、病気ですよね」
ミュカたちは笑った。
「ミルファスはまだダンジョンにいってないの?」
ミルファスは頷いた。
「ミュカを待ってたんだ。最初は一人でいってみようと思ったけど、地下1層の突破率は30%って話をギルドで聞かされて、しっかりと準備しようって思ったんだ」
「そういえば、さっきそんな話を聞いたなぁ」
そんな話をしていると、ケバブの屋台が見えてきた。
改めて見ると、この店は『グラムエース・ケバブ』という名前の店らしい。
ハティエルが指をさした方向を見ると、数人の列ができていた。
テーブルもあいているようで、少し並べば問題なさそうだ。
ハティエルたちの順番が来ると、店員のエルフの若い男性は、
「いらっしゃいませ」
と笑顔でいった。爽やかなイメージだ。
どれにするかとメニューを見た。だが、ハティエルにはなにを頼むとどういうものが出てくるのかはわからなかった。
直前の客が包みを持って出ていったのは理解したが、テーブルに座って食べるのとなにが違うのかはわからない。
すると、ミルファスが言った。
「俺はケバブライスの大盛りで」
ミュカが続いた。
「私はそれの普通盛りでお願いします。ハティちゃんもそれにする?」
「うん、それでお願い」
エルフの店員は頷くと、席に座って待っていてくれと伝えた。
「お金は俺が払っておくよ」
それを聞いたミュカとハティエルは、テーブルについた。
ほどなくしてミルファスも席につくと、ハティエルは、
「お金いいの?」
と聞いた。
「問題ないよ。これからダンジョンでガンガン稼げるんだし、こんなものは誤差の範囲だ」
「なるほど」
ハティエルも宿舎の家賃も含め、お金を稼がなければならなかった。
そこへ、店員が3つの皿をトレイに乗せて持ってきた。
皿にはライスの上にトマト、キャベツ、ケバブが乗せられている。大盛りのミルファスのものは多少、量が多い。それからコップに入った白い飲み物だ。
どうやって食べていいかわからないハティエルは、飲み物に手を伸ばして様子を伺った。
どうやら銀色のフォークとスプーンを使って食べるらしい。一方、白い飲み物……つまり、ヨーグルトドリンクは甘みがあって美味しかった。
フォークを持ってケバブを口に入れてみると、しっかりとした牛肉の味とタレが混ざり合って美味しかった。
「へー、ここのは牛の肉なんだ。これはこれで美味いな」
「そうですね」
「ほかのものもあるの?」
「私達の国では羊の肉が主流なんです。ワンダラーナはどちらかというと野菜や山菜のほうが多いので、肉はほとんど食べないんですけどね」
牛や羊と言われても、形や食べる餌、寿命などはわかるが味の違いはわからなかった。
ただ一つ言えるのは、このケバブは非常に美味しいというものだった。野菜もさっぱりとしていて口のなかをリセットしてくれるので嬉しい。
天使であるハティエルにとって、お腹を満たすという行為は始めてのことだったが、料理を口に入れるにつれ、体から満足感が溢れてくることはわかった。
また、無限に食べられるわけではなさそうということも理解できた。仮に自分がミルファスのように大盛りにした場合、残してしまうかもしれない。
「で、これからどうします?」
「これ食べたら早速、ダンジョンにいってみないか?ハティの実力を見たいし、ハティも俺たちの実力を見たいだろうし」
「そうですね。ゲートトラッカーというものを受け取って、テレポートを試してみないといけませんし、いってみましょう」
ハティエルも同意した。
確かにそのとおりであり、自分が一人でもそうした。案外、この二人は無能ではないかもしれないと思う。
「そういえば、ミルファス。私達の講習にゲイズ将軍がいましたよ」
「ゲイズ将軍って、あれか?ゾークブルグ王国のエリート軍ってやつ」
「はい、そのゲイズ将軍です。初めて見ましたけど、堂々としていました」
「今の最先端は地下3層って聞いたけど、その先にいけるかもしれないなぁ。2人いるって聞いたっけ」
ミュカは講習でメモをしたノートを取ろうと思い、バッグに手を伸ばした。
そこへ、ハティエルが割り込んだ。
「エリシア・キャヴァリン、人間の格闘家、26歳。ラシッド・マーグレイ、ノームの賢者、30歳。それからいけたけど死んだのがモーラ・オフィール、ドワーフの重戦士、28歳」
目を丸くして、自分を見つめているミュカたちの姿があった。
「ええ?それ、覚えてたんですか?」
ハティエルは笑顔で言った。
「言ったじゃん、覚えられるって。あの人の話は全部頭に入ってるよ」
「言っていましたけど……凄いですね」
「さっきミュカは私達にはもうひとりアタッカーが欲しいって言ってたけど、エリシアってメスが仲間になってくれると……」
それを聞いたミュカは慌てて止めた。
「ハ、ハティちゃん、メスってのは……。せめて女性って言わないと……」
ハティエルは頭をかいた。地上人はそう呼ばないのかと思い、
「私達の島だとそう言ってたから、ごめん」
と誤魔化し、
「その女性が仲間になってくれると嬉しいよね。もちろん今すぐじゃなくて、地下3層までいけたらの話だけど」
と言い直した。
「そうですね。エリシアさんはエリアボスやフロアボスとはもう戦えないらしいですから」
それはミルファスが否定した。エリシアが自分たちの仲間になるはずはないという意味ではなかった。
新しくアタッカーを仲間にして4人で地下3層までいけたとすると、そのあとでそのアタッカーを外してエリシアを仲間にするというのは酷いのではないかと。
地下3層まで一緒にいけたのであれば自分たちはエリシアと格は同じで、みんな優秀な仲間ではないかと説明した。
ハティエルは確かにそのとおりだと思った。
どうも、自分には『仲間』という概念が無いようだ。
見習い天使も天使も簡単に消滅するし、天使であるハティエルも、昨日まで仲良く話をしていた見習い天使を昇格は無理だと判断し、消滅させることもある。
ほかの見習い天使は特に悲しむこともないし、消滅させたハティエルも何も思わない。他の天使、アクレスやホークも同じだし、天使を消滅させているのは大天使なのかアリムなのかはわからないが、そこも同じだろう。
楽園ではそれが普通だったが、地上ではそうではないらしい。しかし、仮にミュカやミルファスがダンジョン内で命を落としたら悲しむかというと、自信がなかった。
今日出会ったばかりだからという理由ではなく、楽園には悲しいという概念がそもそもなかった。
ハティエルは話題を変えた。
「講習のあとで地下1層の地図を受け取って軽く説明を受けたけど、地下1層のキーは3つあるみたいだね」
「おう、1つは山の頂上にあって、他の2つはエリアボスとの戦闘って言ってたな。ギルドは最初は戦闘の無い山に行くのをおすすめしてた」
地下1層は中央に転送位置があり、北に向かうと山、東西に向かうとエリアボス、南に向かうとフロアボスという構成だった。
まるで、誰かが最初のフロアとして、都合よく配置したかのような作りにも思える。
「それでいいんじゃないですか?途中のレストシンボルを回りながら、まずは北の山に行きましょう」
ミルファスは頷くと、トレイを持って立ち上がった。ミュカもそうしているので、ハティエルも真似した。
彼が店にトレイを渡すのを見ると、どうやら自分たちで下げるらしい。朝に寄ったカフェでは店員が片付けるといったが、この違いがわからなかった。
そして、もう一つの疑問があった。
ハティエルは暇そうにしていたエルフの店員に向かい、
「あのさ、持って帰れるやつもあるの?」
と訪ねた。
店員は笑顔で、ケバブサンドを頼んでくれれば紙に包んで渡すと言った。肉が多いやつや野菜が多いやつなど、種類がいくつかあるがどれもおすすめらしいと付け加える。
ハティエルはお礼をすると、今はお腹が膨れていて食べられないが、次はそれを食べてみようと思った。
嬉しいことに機会はいくらでもありそうだ。
-※-
ダンジョンはギルドの裏手にあった。
円形の広場の中央に人が10人ぐらい並んで入れるような、高さ3メートルほどの大きな洞窟の入口があった。
街にはふさわしくない異物だった。
広場は円を描くように等間隔でベンチが置かれ、公園のようだとも言えるが、一般人はここで休憩をしたりしない。基本的には待ち合わせに使われる。
一度部屋に戻って準備をし、ハティエルたちが向かったときには、ちょうどここで合流を済ませたと思われる4人がダンジョンへ向かうところだった。
少し後ろに続いて、ハティエルたちも入り口へと入った。
ハティエルは剣と盾、ミュカは杖、ミルファスは矢筒を背負って木でできた弓を持っている。
壁の両端にランプがともり、一直線に地下に向かう階段があった。
階段の途中で一瞬、ふわっとした風に触れたような気がした。
暫く歩くと小さな空間があり、地面に描かれている魔法陣からゆらゆらと青白い光が飛び出していた。
「これに入ればいいのかな?」
そう言いながら魔法陣を踏んだハティエルの姿がふっと消えた。
続いて、ミュカたちも踏み込んだ。
-※-
そこは、正八角形の部屋だった。
石造りにも思えるが、少し材質が違うようだ。
どういう原理かはわからないが、明かりも空もないのに明るい部屋だった。
中央には台座があり、奥には今と同じ青白い光の魔法陣があった。
3人が台座に向かうと、そこには手をかざせという文字が描かれていた。
ハティエルが触れてみると、右腕に違和感を感じた。
左手で触れてみると何かがあり、顔を傾けると腕輪があった。これが『ゲートトラッカー』だろう。
ギルドのノームの老人の腕には三つ葉のエンブレムがあったが、自分のものにはなにもなかった。まだなにもしていないためだ。
ミルファス、ミュカも同様に手をかざし、ゲートトラッカーを受け取った。
ミュカは左手で撫でながら、これがゲートトラッカーなんですねとミルファスと話をしていた。
一方、ハティエルは別のことを考えていた。それに気づいたミルファスは、質問を投げた。
「どうしたんだよ、ハティ」
「いや、なんというか……」
ハティエルは真面目な顔でミルファスを見た。
「私達のすぐ前に4人がきたでしょ?なんでいないの?」
「はぁ?そこの魔法陣を踏んで先に進んだとか、テレポートで移動したとかじゃないか?この部屋はゲートフロアだから、テレポートが使えるんだろう?」
「だとしても、早い気がする。なんていうか、私達のいる部屋と、前の集団がいる部屋が違うって考えるほうが自然というか……。だとすると、どうして私達は一緒の部屋にいられるの?」
ミルファスは頭をかいた。ハティエルが何を言っているのか、よくわからない。正確には、言っていることは理解できるのだが、だからどうしたというほうが正しい。
口には出さないが、ミュカも同じだった。
「ああ、なるほど。そういうことか、わかった」
「どういうことです?」
「階段をおりるときにふわっとした風があったじゃない?あれを一緒に浴びた人が同じパーティーって認識されているんだよ」
「お前の言っている意味がよくわからんぞ」
「だからさ、ダンジョンのなかでパーティーは組めないってことじゃない?」
「それはおかしいだろ。フロアのなかで助け合うなんて、普通にやることらしいし」
ハティエルは腕を組んだ。
「うーん、そうなんだ」
「難しいこと考えてないで、先に進もうぜ。興味あるだろ?」
そうだなと思ったハティエルは考えるのをやめ、魔法陣へと向かった。
だが、こんな複雑な仕組みを誰が作ったのかという思いは、頭の片隅に残ったままだった。
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