第8話 中学校

二本足で椅子をブラブラさせていただけで楽しかったのになぁと高校生の俺はそう言って中学時代を邂逅する。

「毎日楽しかったなぁ、昨晩観たラブライブの話で盛り上がってスクフェスして、友達数人でさ。やれ俺はサンシャインは認めんとか、いや虹ヶ咲の方が難儀だとか言い合ってさ。休日はカラオケ行ったりとかさ。楽しかったのになぁ」

どうして高校はこうも楽しくないのかねぇ。

ガタンっと音を立てて椅子を戻す。視線は天井から正面に座る部長に向けられる。

「そうね。私も中学は比較的今より楽しかったと思うわ」

ふっと垂れ下がった横髪を吹き飛ばして視線が交わる。

「くだらない、過去がどうだとか今がどうだとか、未来への希望。夢。吐き気がするわね」

「…いいじゃないっすか夢、俺は好きですよ夢を追いかける毎週日曜朝に変身する女子中学生の話とか」

「そんな話はしていないわ」

「じゃあなんですか、事務作業も飽きてきたんで付き合いますよ」

「事務作業というか、そもそもを遡れば文化祭の出し物のリーダーに立候補をしたのはあなた自身なのだからそのくらい責任を持ってさっさとやりなさいよ」

「いーや俺は立候補なんかしてない、これは仕立て上げられた罠だ。あいつらが仕組んだんだ、俺は無実だし立候補もしてないし元はと言えばこの部活に入った覚えもない」

「そう、じゃあやめるといいわ」

「いやそういう話もしてない。そもそもね部長、話し合いだとか議論をするときに「じゃあやめれば」とか「あっそじゃあ私が全部悪いんだ」とかそういう事を言い出す奴が俺は一番嫌いなんですよ。そんな極の話しかしたくない奴と会話をしたくないというのが根底なんですけど。これの何が嫌かって相手は議論や話し合いなんか臨んじゃいないってところで、こっちは選ばれた手前やり抜きはするけれどそれはそれとして嫌だよねっていう話がしたいのに、そんなに嫌ならやめろって言われると、こっちはこのグレーが白と黒どのくらいの割合で入ってるかなみたいな話に、いやその色は黒だ。って断定してくるみたいな気持ち悪さがあるんですよ、わかりますか?」

「わからないわね、そこまで考えて会話なんかしていないから」

「いやだからー。そういうとこなんだって、いいですか部長、俺は別にこんなに考えて会話している俺はやっぱり頭がいいでございますねって話をしてるんじゃないんですよ。むしろ逆で生きにくいって話をしてるんです、やめればとか簡単に言うなって話をしたいんです。俺は確かに立候補していない文化祭実行委員に入れられて辟易しているけれど、それはそれとして「これも経験だ」と思ってやろうと思っているんです、この両方の思いは決して相入れぬものというわけではなくて、でも文句は言いたい、できればそれを聞いた人からは極の反応じゃなくて笑い飛ばしてくれるような反応が欲しいっていう話がしたいんです」

「そう、じゃあそういう反応を返してくれない私とは議論しなければいいわ」

「だーーーーかーーーらーーーー」

「ふふっ、一条くんって面白いわね」

「部長は面白くないですね」

「心外ね、別にあなたの自論にどう返そうと私の勝手でしょう?それにそういう考えも含めてくだらないと言っているのよ私は」

まぁ別に面白さなんて期待していないのだけれど

部長はシャーペンを筆箱に戻した。目の前の企画書には気づくと俺の嫌いな綺麗な文字でびっしりと書き込みが施されていた。

「さぁ生徒会室に行くわよ、そのプリントは持っていてあげるから私のバックはあなたが持ちなさい」

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