第5話 キャベツ

篠賀原ゆめ。は才女であった。半グレの才女であった。肩まで伸ばした髪の毛を後ろでポニーテールにまとめていて、その目は孤高に生きるサバンナのライオンぐらい鋭い。成績はいつもトップ3に入っていてそれより下の人間とは会話をしないと彼女は語る。彼女の武勇伝は我々の通う高校ではもはや常識の域に達している。

「篠賀原さん隣の高校の不良と喧嘩して拳銃使って勝ったらしいぜ」

「俺が聞いた話によると何故かもうNISAを始めているらしい」

「家の庭で柿の種を植えて毎日水をやってるって聞いたことあるぞ」

どれもやはり噂の域を超えないが、そのどれもが生徒を震え上がらせるには十分だった。

大半は俺が流したものだけれど。

だが安心して欲しい。彼女は噂ほど凶悪な人間ではないことを俺が保証したい。この篠賀原ゆめと生まれてこの方16年ずっと一緒に過ごしてきたこの一条院空が保証したい。

彼女はこう見えてもかなり天然なのだ、今もまさにバーベキューだと言うのにキャベツを千切りにしてしまっている。何やってんだよ、やめろよ。

とまぁ彼女の天然エピソードにこと欠くことは無い。彼女は本当に可愛い。今も千切りにしたキャベツに小麦粉を振り始めている。なんでそんなことをするんだ、やめなさい。

「え、なんで小麦粉振ってんのしのちゃん。なんで一条くんもそれを止めずにニヤニヤしているの」

後ろから唐突に声が掛かる

「部長、どうしてここに」

「皿を取りに来たのよ、ほら、しのちゃん小麦粉置いて、私たちが作るのは焼いた野菜であって決してお好み焼きではないわ。一条くんもヘラヘラしてないで手が空いているのなら紙コップの準備でもしなさい」

そう言い残し、コップを俺に手渡し。部長は部屋を出て行った

「私はなんで小麦粉を振っていたのかしら。反省ね」

「キャベツひと玉丸々千切りにしたことの方が罪深いし反省をした方が良いと俺は思うね」

かくして大盛りの千切りキャベツを持って二人は部屋を後にした。

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