旅シリーズ10 欧州の旅の果て 修正版

飛鳥竜二

第1話 1日目 成田出発 修正版

※この小説は「欧州の旅の果て」の修正版です。実は、パソコンの操作ミスで編集中に保存できなくなり、新しいページで再開した次第です。文言や表現を一部修正しております。もう一度読み直していただければと思います。


トラベル小説


 私の名はアイ。前に勤めていたデートクラブで知り合った彼にヨーロッパ旅行を誘われ、今、成田空港にいる。外国のA航空会社の自動チェックイン機で搭乗手続きをしている。私一人だったら絶対無理。なにせ海外旅行そのものが初めてなのだ。彼はこの航空会社が2度目ということでスムーズだった。スーツケースをドロップインコーナーに出し、早々に出国審査へ向かった。搭乗まで、まだ2時間もあるのにと思って、

「まだ早いんじゃないの。どこかでお茶しようよ」

 と言うと

「中に入ったら、お茶が飲めるよ。それも無料でね」

 そこで、まずは手荷物検査。靴まで脱がされた。バッグが感知器でひっかかり、中を開けられた。

「このバッグに、はさみが入っていませんか?」

 女性の係官が聞いてきた。

「はさみなんて入っていません」

「小さいはさみだと思うのですが、開けてよろしいですか?」

 そこで、バッグのポケットに裁縫道具を入れておいたのを思い出した。

「そう言えば、ポケットに裁縫セットが入っています。そこに小さなはさみが・・」

「開けてよろしいですか?」

 と言いながら、係官はポケットから裁縫セットを取り出した。

「もう一度、感知器を通しますね」

 と言って、バッグをもどした。今度はOKだった。

「やはり、この裁縫セットでしたね。はさみと針は持ち込み禁止です。どうしますか? 処分しますか?」

 仕方なくうなずくと、裁縫セットからはさみと針が外された。そのことを彼に言うと

「そういう危険物は、スーツケースに入れておくものなんだけどね。仕方ないね」

「小さいはさみだったのに・・」

 とぼやいたが、笑われるだけだった。

 次は、出国審査である。撮影禁止の場所ということで、緊張していたが鏡みたいな機械の前に立って、パスポートを置いて顔写真と照合されるだけだった。

「パスポートにスタンプはおされないの?」

 と彼に聞いたら

「今はないよ。でも、係の人に言えば、押してくれるよ」

 ということであった。。なんかあっけない感じがした。その後、彼は両替所に行って、日本円をユーロに換えていた。私にも100ユーロ(1万5000円程度)を渡してくれた。万が一の場合ということだった。個人的な買い物はカードの方がいいということなので私も一応VISAをもっている。

 その後、彼は搭乗口近くのラウンジに入った。ビジネスクラスの人が利用できるラウンジだ。中に入ると、広々としたレストランになっている。PCコーナーもあれば、ビュッフェコーナーもある。それも豪華なメニューがずらり、ビールやワインまである。

「これが全部無料なの?」

「そうだよ。食べてもいいけど、食べ過ぎないようにね」

 そう言われたが、食べたことがない高級ハムやフルーツがあったので、取り皿いっぱいになってしまった。彼はグラスワインだけ取っていた。

「アイちゃんの食欲はすごいね。うらやましい」

 飛行機が見える席で、他愛のない話をしていたが、時おりさびしい表情を見せる彼の顔が気になった。

 搭乗時刻の10分前に搭乗口へ行くと、ビジネスクラスの優先搭乗が始まるところだった。エコノミークラスの長い列を横目に見て搭乗できるのは優越感を感じる。と言っても、私の力ではないのだが・・・。

 席につくと、彼とは隣同士ではなく、前後の席になった。

「窓側がよかったのに・・・」

 と言ったら

「申込みが遅かったので、窓側の席が取れなかったんだ。ごめんね。でも、通路側の方がいいと思うよ」

「ふーん、そうかな?」

 座るとまもなく、シャンパンが出てきた。後ろではエコノミークラスの人たちが乗り込んでいるのにである。一気飲みしたら、後ろの席の彼から笑われた。すると、男性のCAさんがやってきて

「 One more ? 」

 と聞いてくる。

「 Yes . 」

 と答える。すると、グラスにシャンパンを注いでくれた。今度は、ゆっくり飲むことにした。次に、メニュー表を持ってきてくれた。左側は英語で、右側は日本語である。どれかを選ぶのかと思っていたら、全てでてくるとのこと。おったまげーである。ただ、メインの料理とデザートは選ぶということを後ろの彼が教えてくれた。もちろん肉を選択。デザートは「ice」という単語を見つけたので、そちらにした。

 11時20分に離陸。加速がすごくてシートにおしつけられる。地面から離れる時は、体がフワッとなる感じがした。遊園地の感覚である。30分ほどで水平飛行に入り、先ほどの男性CAさんが、テーブルセッティングに来てくれた。シートのテーブルをマジックみたいに取り出し、そこに白いテーブルクロスをしき、ナイフやフォークをセットしてくれた。まるでフレンチレストランである。男性CAさんは、左半分の6人を担当し、女子CAさんが右半分を担当している。

 私は、通路側の一番前に座っていたので、サービスが一番先で気持ちよかった。前菜は練り物だった。とろける感触だ。初めて食べる味だった。次にサラダがでてきた。これだけでお腹いっぱいになる量だった。その次がスープ。ポタージュスープだと思うのだが、冷たいスープで飲みやすかった。そしてメインのステーキ。いつも食べる(というほどではないが)平べったいステーキではなく、塊のステーキだった。レアで焼かれており、周りには焦げ目がついている。ナイフを入れると赤身がきれいだった。一口食べたところで、げっぷがでそうになった。後ろの彼に

「おなかいっぱいで食べられない」

 と伝えると

「残す時は、ナイフとフォークを並べると持っていってくれるよ。ラウンジで食べ過ぎたんだね」

 と言われた。まさにそのとおり。でも、デザートは完食。別腹だった。その後、シートをベッドにして、横になろうとした時に、窓側に座っていた白人男性が

「 Excuse me . 」(失礼)

 と言ってきた。どうやらトイレに行きたいらしい。私は

「 OK 」

 と答えて、シートを元にもどした。窓側に座る人は、通路側の人が寝てしまうと出入りができない。景色が見えるのは離陸と着陸の数分ずつだけ。後の10時間以上の景色は雲海だけ。彼が通路側の方がいいといった意味がわかった。

 ベッドにしたシートは寝返りはできないけれど、足が伸ばせるので楽だった。日本の映画プログラムをヘッドフォンで聞いているうちに寝てしまった。

 およそ9時間後、モスクワ空港が近くなり、機内の照明が点いて目を覚ました。本当はモスクワ空港とは言わないで、なんかわけのわからない長い名前の空港(シュレメーチエヴォ国際空港)だった。日本時刻では午後10時半、モスクワ空港では午後4時半である。降りるのはビジネスクラス優先で、すぐにロビーに行けたが、そこには大勢の人。それも大柄な男性ばかりの世界だった。彼が言うには、6月はまだバカンス前なので、ビジネスの人たちが多いということだった。

 人混みは、入国審査らしきコーナーに向かっていた。整然と並んでいるわけではない。狭い入り口にあらゆる方向から、人が集まってきた。人をおしのけて進まないと前にいかない。譲り合いという言葉は、ここでは通じなかった。パスポートと搭乗券を見せて通過。何も聞かれなかった。もっともロシア語で聞かれても何も分からないが・・通り抜けると、彼が

「トランジット(乗り換え)だけで、この人の多さだからたまらないね」

「エッ! 今の入国審査じゃないの?」

「違うよ。あくまでも乗り換えのための審査。次は荷物検査だよ。大丈夫?」

「大丈夫だと思う。もうはさみはないから・・」

 と言ったが、何かを聞かれたら答えられないので不安だった。彼から少しも離れまいと必死だった。荷物検査はスムーズに通ることができた。日本人の女の子ではテロリストには見られないのだろう。あたりにはテロリストらしく見える人たちがたくさんいる。

 乗り換えのパリ行きは午後6時半離陸。まだ1時間以上あるので、ラウンジに行った。座るところがないくらい混んでいる。彼が一人の紳士に相席を頼むと了解してくれたので、やっと座ることができた。その紳士が

「 Your wife ?」(あなたの奥さん?)

 と聞いてきたそうだ。それに彼は

「 No, she is my daughter . 」(いいえ娘です)

 と答えたとのこと。私はビュッフェのメニューが気になり、そのやりとりがよくわからなかった。ビュッフェのところへ行ってみたが、いかにもロシア風の料理がならんでいた。揚げ物が多く、どんな味がするのかもわからない。食欲は全くわかなかった。もっとも2時間前に寝起きの機内食を食べたばかりである。それでジュースを手にとったが、まずかった。口の中が酸っぱさでいっぱいになった。健康にはいいのだろうが・・・? そんな私の顔を見て、彼と隣の紳士は笑っていた。

 離陸30分前にパリ行きの搭乗が始まった。ビジネスクラスは別レーンなのでスムーズに搭乗できた。先ほどよりは小さ目の飛行機である。彼と二人で座ることができた。大き目のシートだが、ベッドにはならない。彼は座ると同時に寝てしまった。日本時間では夜中の0時半。無理もない。私は元気いっぱい。

 水平飛行に入ると、また機内食がでてきた。今回はフルコースではなく、ワンプレートである。パンやスープの味はまずまずだったが、メインのステーキもどきがひどかった。味がない。もさもさしている。一口だけ食べて残してしまった。彼はその間、窓際の壁に枕を押し付けてずっと寝ていた。

 パリの近くになり、彼が起きたので機内食のことを話したら

「外国で作った機内食はそんなもんだよ。味がないのは、自分で好みの調味料をつけるんだよ。袋に入ったマヨネーズとかなかった?」

 確かに、調味料らしきものが3袋ぐらい入っていた。

「だったら早く言ってよ」

「ごめん、ごめん。眠くて仕方なかったんだ」

 彼の熟睡した顔を見てたから、しょうがないと思った。

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