第13話:湯煙の向こうの真実

 バスルームのドアが開くと、小梅の心臓が大きく跳ねた。向日葵の家で初めての入浴。それも、一緒に。小梅の小さな体は、緊張と期待が入り混じった複雑な感情で微かに震えていた。


 一方、向日葵はいつも通りのマイペースな様子で、何事もなかったかのように振る舞っていた。彼女の長い黒髪は、湿気を含んでわずかにウェーブがかかり始めていた。


「今日のアロマはラベンダにするね~」


 向日葵はそう言って、優雅な仕草で小さなボトルを手に取った。淡い紫色の液体が、湯船に注がれる。瞬く間に、バスルーム全体がラベンダーの優しい香りに包まれた。


「じゃ、入ろっか~」


 向日葵は何の躊躇いもなく、服を脱ぎ始めた。その仕草は自然で優美で、まるでバレリーナのようだった。


「……!」


 小梅は思わず息を呑んだ。向日葵の裸体が、目の前に現れたのだ。滑らかな肌、豊満な胸、くびれたウエスト。それは小梅が今まで見たこともないような美しさだった。


 小梅の目は、向日葵の体を追うように動く。首筋から鎖骨、そして胸元へ。ほんのりとピンク色の乳首が、小梅の視線を捉えて離さない。腰のくびれ、そして丸みを帯びたお尻。全てが完璧な調和を保っていた。


「小梅ちゃん、どうしたの?」


 向日葵の声に、小梅は我に返った。


「え、えっと……」


 小梅は言葉に詰まる。一緒にお風呂に入るとは言ったものの、やはり実際に向日葵の裸を直に見てしまうと、気後れしてしまったのだ。同時に、自分のつるぺたな幼児体形があらためて恥ずかしくなる。


 向日葵は小梅の様子を見て、その気持ちを察したようだった。優しく微笑みながら、小梅に近づく。


「いいんだよ~、小梅ちゃんはそのままでいいんだよ~、そのままで充分可愛いんだよ~」


 向日葵の言葉に、小梅の頬が真っ赤に染まる。しかし同時に、不思議と安心感も覚えた。向日葵の優しさが、小梅の心に染み渡っていく。


「小梅ちゃんはもっとお姉ちゃんに甘えていいんだよ~」


「だ、だから同い歳だって……」


 小梅は言いかけて、再び向日葵の美しい裸体に目を奪われ、言葉を失ってしまう。向日葵の体は、まるでルネサンス期の彫刻のように完璧だった。


「じゃあ、お姉ちゃんが脱がしてあげよっか~」


 向日葵の声は甘く、誘惑的だった。小梅は慌てて首を振る。


「じ、自分で脱げるし!」


 小梅はわざとぞんざいに服を脱ぎ、そのまま湯船にざぶんと飛び込んだ。湯しぶきが上がり、小梅の赤くなった顔を隠すのに一役買った。


 向日葵はくすっと笑い、ゆっくりと湯船に入ってきた。小梅は湯の中で体を丸め、向日葵を見ないようにしている。しかし、向日葵の大きな、温かく柔らかい体が、小梅の背後からそっと近づいてくるのを感じた。


 向日葵の腕が、優しく小梅を包み込む。小梅の背中が向日葵の胸に触れ、その柔らかさと温もりに、小梅は思わずビクッと体を震わせた。


「大丈夫? お湯、熱すぎない?」


 向日葵の声が、小梅の耳元で優しく響く。小梅は首を小さく振る。


「う、うん……大丈夫」


 小梅の声は震えていた。それは湯の熱さのせいではなく、向日葵との密着した状況に対する緊張からだった。


 湯煙が立ち込めるバスルームの中で、向日葵の大きな手が小梅の肩に優しく置かれた。その温もりは、小梅の緊張した体にすっと染み込んでいくようだった。


 向日葵は、ゆっくりと丁寧に、小梅の肩をマッサージし始めた。その手つきは、まるで大切な花を扱うかのように繊細で優しかった。指先が小梅の肌の上を滑るたびに、小さな波紋が湯面に広がっていく。


「小梅ちゃん、いつも頑張ってるもんね。だからたまにはこうやってリラックスするのも大切だよ」


 向日葵の声は、ラベンダーの香りと共に小梅の耳に優しく届いた。その言葉には、小梅への深い愛情と気遣いが込められていた。


 小梅はゆっくりと頷いた。その仕草は、まるで子猫が撫でられて気持ち良くなっているかのようだった。彼女の表情から、少しずつ緊張の色が薄れていく。


 向日葵の指が、小梅の首筋から背中へとゆっくりと移動する。その動きに合わせるように、小梅の体から力が抜けていった。硬かった肩が徐々に柔らかくなり、背中の筋肉もほぐれていく。


 小梅は、自分の体が向日葵の手によって変化していくのを感じていた。それは単に身体的な変化だけでなく、心の中にも温かな波が広がっていくようだった。


 向日葵の優しさに包まれて、小梅は少しずつ自分の殻を開いていく。普段は見せない弱い部分も、この瞬間だけは向日葵に委ねても良いのかもしれない。そんな思いが、小梅の心の中でゆっくりと芽生え始めていた。


 二人を包む湯の温もりと、ラベンダーの香り。そして何より、向日葵の優しい手の感触。それらが織りなす心地よさの中で、小梅は深い安らぎを覚えていった。


 この瞬間、小梅と向日葵の絆は、目には見えない形でさらに深まっていた。それは言葉では表現できない、特別な繋がり。二人の心が、静かに、しかし確実に寄り添っていく瞬間だった。


 湯煙の中で、二人の輪郭がゆっくりとぼやけていった……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る