第10話:雨宿りの温もり
夏の終わりを告げるような激しい雨が、突如として街を覆った。小梅と向日葵は、下校途中でこの予想外の雨に見舞われ、慌てて近くの古い木造家屋の軒下に駆け込んだ。狭い軒下は、二人が身を寄せ合うのがやっとの空間だった。
小梅は息を切らせながら、雨に濡れた前髪を払いのけた。彼女の白いブラウスは雨で少し透けており、肌の質感が微かに透けて見える。首元にはいつも通り、小さなシルバーのペンダントが揺れている。
「もう、いじわるだよね……こんなに突然の激しい雨なんて……!」
小梅は苛立たしげに呟いた。
彼女の声には、いつもの元気さの中に少しばかりの焦りが混じっている。
一方、向日葵はいつもの落ち着いた様子で雨を眺めていた。彼女の長い黒髪は、雨のせいで少し湿り気を帯び、いつも以上に艶やかに見える。ナチュラルメイクは雨にも負けず、むしろ潤いを帯びたように美しく輝いていた。
「こんな時は、ゆっくり待つしかないわね~」
向日葵の声は、穏やかで優しい。
その声を聞いた小梅は、少し落ち着きを取り戻したようだった。
狭い空間に二人で立っているうちに、自然と体が触れ合う。小梅は、向日葵の柔らかな体に自分の背中が当たっていることを強く意識し始めた。心臓の鼓動が少しずつ速くなっていく。
(なんだろう、この感じ……)
小梅は自分の中に芽生えた奇妙な感覚に戸惑いを覚えていた。普段は向日葵と一緒にいても、こんなにドキドキすることはない。しかし今、この狭い空間で向日葵の存在を強く感じることで、小梅の心は不思議な高揚感に包まれていた。
向日葵もまた、小梅の小さな体が自分に寄り添っていることを敏感に感じ取っていた。彼女の心臓もまた、通常よりも速い鼓動を刻んでいる。
(小梅ちゃん、いつもより近くに感じる……)
向日葵は、自分の中に湧き上がる温かな感情に少し戸惑いを覚えていた。それは友情とは少し違う、もっと特別な何かのように思えた。
雨脚が強まり、二人はさらに身を寄せ合う。小梅は無意識のうちに、向日葵の胸元に顔を埋めるようにして寄り添った。向日葵の柔らかな胸に頬が触れ、小梅は思わずドキリとする。その鼻腔が柔らかな良い香りで満たされていく。
「ご、ごめん……せ、狭いから……」
小梅は顔を真っ赤にしながら、小さな声で謝った。しかし、その体勢を変えようとはしなかった。
向日葵は、小梅の温もりを感じながら、自然と腕を回して彼女を抱きしめるような姿勢になっていた。二人の体が密着し、お互いの鼓動が伝わってくる。
「大丈夫よ。私も……こうしていた方が、寒くないし」
向日葵の声も、いつもより少し上ずっていた。彼女は小梅の髪の香りを嗅ぎながら、この状況が不思議と心地よいことに気づいていた。
二人は言葉を交わさずに、ただそうして寄り添っていた。雨音だけが、この静かな空間に響いている。小梅は向日葵の胸の鼓動を耳で感じながら、なぜか安心感に包まれていた。向日葵もまた、小梅を守るように抱きしめながら、幸せな気持ちに浸っていた。
そんな二人の前に、突然一匹の野良猫が現れた。濡れた毛並みをした三毛猫だ。猫は二人を見上げ、か細い声で鳴いた。
「あら……」
向日葵が優しく猫に話しかける。小梅も向日葵から少し身を離し、猫を覗き込んだ。
「かわいそう……一緒に雨宿りする?」
小梅の声には、いつもの元気さが戻っていた。向日葵は微笑んで頷き、猫を軒下に招き入れた。
猫は恐る恐る二人に近づき、小梅の足元に座った。小梅は猫を抱き上げ、その冷たい体を温めようと自分の胸に抱きしめた。
「ほら、向日葵ちゃんも触ってみて」
小梅は猫を向日葵に差し出す。向日葵は優しく猫の頭を撫で、三人で雨宿りをすることになった。
狭い軒下で、小梅と向日葵、そして一匹の野良猫。この予想外の出来事が、二人の心をさらに近づけていた。雨は依然として強く降り続いているが、二人の心の中には温かな光が灯っていた。
そして二人は、この瞬間が特別なものだということを、まだ言葉にはできないながらも、心のどこかで感じ始めていた。
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