第7話:初めての膝まくら

 青空が広がる初夏の昼下がり、学校の中庭にある庭園は、日差しを浴びた草木が鮮やかに輝いていた。静かな木陰に、小梅と向日葵が寄り添うように並んで座っている。


 お弁当箱を開けた小梅は、にこやかに一口食べたおにぎりを頬張る。その笑顔に、向日葵もほっとしたような表情を浮かべた。


「向日葵が作ってくれたおにぎり、やっぱり美味しい……!」


 小梅はそう言いながら、向日葵に感謝の気持ちを込めて微笑みかける。向日葵は照れくさそうに、ほんの少しだけ目を伏せた。


「そんなに言ってもらえると、作った甲斐があるよ~」


 小梅のために、早朝から丁寧におにぎりを作ったことを思い出し、向日葵の胸には温かな気持ちが広がった。彼女は昔から、誰かを喜ばせることが好きで、小梅の満足そうな顔を見ると、自分も幸せを感じるのだ。


 食事が進むにつれ、次第に小梅の動きがゆっくりになっていった。お腹がいっぱいになったのか、彼女のまぶたが重くなり始めているのが見て取れる。向日葵はそれを察して、優しく声をかけた。


「小梅ちゃん、ちょっと眠そうだね~。ここで寝てもいいんだよ?」


 向日葵はお姉さん座りをしている自分の膝を、軽くぽんぽんと叩いて示した。その仕草に、小梅の頬がほんのり赤く染まる。


「いや……さすがにそれは恥ずかしいからいいよ……!」


 小梅は一瞬、顔を背けるが、その言葉に本気の抵抗は感じられなかった。彼女自身も、向日葵の膝の上で休むことに少なからず興味があったのだ。しかし、プライドがそれを素直に受け入れさせてくれない。


(でも、向日葵の太ももは本当にふかふかで気持ちよさそうだし……)


 小梅は心の中で葛藤していた。向日葵の膝枕は、確かに心地よさそうで魅力的だったが、誰かに見られるのが恥ずかしい。いつも強気でありたい彼女にとって、その行動は少しだけ勇気が必要だった。


「ほら、無理しないで~」


 向日葵の優しい声が、小梅の耳に心地よく響く。その声に、彼女はゆっくりと顔を上げ、向日葵の瞳を見つめた。そこには、ただ小梅を思いやる純粋な気持ちが込められていた。


 ふと、向日葵の優しさに包まれた瞬間、小梅の心の中の抵抗が薄れていくのを感じた。そして、彼女はついに向日葵の膝……というか太ももに頭をそっと乗せる決心をした。


「……じゃあ、ちょっとだけ」


 小梅はそう呟き、恐る恐る向日葵の太ももに頭を預けた。その瞬間、心地よい柔らかさと温かさが全身に広がり、まるで夢の中にいるような感覚が彼女を包み込んだ。


(はぁ~、やっぱり、気持ちいい……)


 小梅は思わず口にしたが、その言葉はもう夢と現実の境界が曖昧になりつつある中でのものだった。瞼が自然と閉じられ、彼女はすぐに穏やか寝息を立て始める。


 その様子を見て、向日葵の胸は幸福感でいっぱいになった。小梅の小さな顔が、自分の膝の上で穏やかに休んでいる光景は、何にも代えがたい喜びを感じさせた。


「小梅ちゃん……なんて可愛いの……」


 向日葵は思わずそう呟き、小梅の髪を優しく撫でた。その繊細な手つきで、彼女の髪の毛を整えたり、頬を軽く撫でたりする。小梅が安らかに眠る姿を見つめながら、向日葵の心はさらに温かくなっていく。


 昼休みが過ぎる間、向日葵は小梅の寝顔をじっと見守り続けた。その間、彼女は何度も小梅の頭を撫で、そのほっぺたを軽く撫でて、時にはその可愛い唇をちょんと突いて、愛おしそうにその存在を感じていた。


 やがて昼休みが終わる時間が近づき、向日葵はそっと小梅を揺り起こした。


「小梅ちゃん、そろそろ起きる時間だよ~」


 小梅はゆっくりと目を覚まし、まだ眠気の残る瞳で向日葵を見上げた。彼女は、向日葵の優しさに包まれたまま、しばらくの間ぼんやりとしていたが、やがて現実に戻ってきた。


「ありがとう、向日葵……」


 小梅は照れながらも、向日葵に感謝の言葉を伝えた。その瞬間、向日葵も微笑みながら小梅の頭を軽く撫でて答えた。


「どういたしまして、いつでもお手伝いするよ~」


 二人は笑顔で顔を見合わせ、静かに立ち上がった。昼休みの終わりと共に、再びクラスに戻る準備をしながらも、二人の間には温かな余韻が残っていた。


 この幸せな瞬間は、昼休みの終わりまでずっと二人の心に刻まれた。


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