夢の薔薇を探しに

瑞葉

第1話

「夢の薔薇」を探すんだ。 

 僕がそう言うと、恋人の君は儚く笑って、(待ってるね)とかすかな声で言った。 

僕たちは大学の四年生だった。


「夢の薔薇」は、最初はうす緑の双葉を出し、きらめく茎を伸ばす。そして、血のような深紅のルビーの花びらの薔薇を咲かせるんだ。


本物のルビーだよ、もちろん。


世界にひとつだけ、ただひとつだけの、深紅の薔薇を君にプレゼントしたいから。


そのあと、砂漠の中をめくらめっぽうに探したり、洞窟の中を探して迷子になった末に、僕は君のもとに帰ってきた。一文なしで、服もボロボロで。 


薔薇どころかそんな有様の僕だったのに、君は笑顔で僕を受け入れた。


僕はガラス細工の工場で働き始めた。みんないい人たちだった。僕の夢を「若い時は誰でもそんな時があるよ」と温かく笑いつつ、小さなキリンやゾウのガラス細工をつくる仕事を教えて、一人前にしてくれた。  


あれから十年。  


僕は、世界でひとつだけの薔薇を注意深くつくる。うす緑の葉、きらめく茎。そして薄いピンクの花びら。


この薔薇はガラスでできている。


君へのエンゲージリングがわりにこれを作りたい、と言ったら、工場長やみんなが、今日一日だけだぞ、と工場のラインを貸してくれたんだ。材料も。


世界でたったひとつだけの薔薇。 

僕は僕自身の手で、注意深い創造主になるよ。

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夢の薔薇を探しに 瑞葉 @mizuha1208mizu_iro

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