第39話 つむぎの三者面談。


 つむぎの学校から呼び出された。

 まだ転校して数ヶ月しか経っていないのだが……。


 どうやら面談はウチだけらしい。

 つむぎは、あっけらかんとしている。

 

 「何で呼ばれるのか皆目見当もつかんわ」とのことらしい。


 理由なく呼ばれることはないと思うがな。


 実はイジメられているとか?

 いや、加害者側ということもある。


 どうしよう。

 心配すぎて、面談のために有給をとってしまった。


 どうも落ち着かなくて、時間前につむぎの中学についた。玄関前で、つむぎと待ち合わせをしている。


 しばらく待つと、タタタとつむぎが走ってきた。


 学校指定の黒に赤のラインが入ったセーラー服をきている。普段から見ているが、校内で見ると一味違う。わが娘ながら、よく似合っている。


 つむぎはスカートを広げて、くるくると回った。


 「我のセーラー服も似合っているじゃろ? 惚れたか?」


 「ってか、おまえ、学校でもその話し方なの?」


 「もちろんじゃ。これは我が王国の公用語じゃからな」


 我が国って。

 おまえ、女王っていう設定だったの?


 廊下に出ると、下校する生徒とすれ違った。

 つむぎの友達かな。こっちに手を振っている。


 「つむぎさま。ごきげんよう!!」


 俺はなんとなく、お腹を引っ込めた。

 ん。つむぎ「さま」?


 すると、つむぎは小さく手を振って会釈をした。


 「ごきげんよう。また明日……」


 って、何が公用語だよ。使ってないじゃん。

 ここでは、そういうお嬢さま設定なのか?


 (ちっ)


 つむきは舌打ちした。


 「これは、世を欺くための仮の姿じゃ」


 ……ご学友を欺いてどうすんの?


 「そいえば、つむぎの担任って、女性の先生だったっけ?」


 「そうじゃよ。やや行き遅れだがの。なかなかの別嬪じゃ。椿 さくら先生じゃ。可愛い名前だろう。顔も乳も名前に負けておらんぞ? おはな先生と命名してやったわ」


 あー。なんでお前が呼ばれたか、なんとなく分かってきたわ。


 可愛い先生なのか。

 俺は、教室の前につくと、髪型と襟を直した。


 「どうぞ」


 ノックをして教室に入る。

 ……確かにべっぴんさんだ。


 まず、真っ黒な瞳に視線がいった。切れ長で知性を感じさせる目元は、凛とした印象だ。黒い髪は、艶やかで、かぐや姫っぽい。メイクはおとなしめだが、眼鏡のせいかな。なんとも言えない妖艶な雰囲気がある。最近、生足女子ばかり見てるからな。ストッキングの色気も、それはそれで良いものだ。


 つい、先生が裸で足を開いている光景を想像してしまった。さすが、おじさん。こんな所ばっかり頭が冴えて困る。


 どんっ。


 つむぎに背中を叩かれた。


 「パパさま。なに見惚れてるんじゃ。すまんな、先生。うちの父は美人に弱くての」


 こいつ、先生に対してもこの話し方なのか。


 先生は一瞬、恥ずかしそうな顔をしたが、すぐに調子を戻し、手を椅子に向けた。

 

 「……こほん。席にどうぞ」


 さて。

 気になることを、先に終わらすか。


 「それで、今日はどんなお話ですか?」


 ほんと、こいつがどんな問題を起こしたんですか? 先生は改まった表情になると、重々しく口を開いた。俺はドキドキだ。


 「先日、進路指導の一環として、知能テストがあったのですが……。その結果のことで」


 「何か問題でもあったんですか? まさか途中で寝たとか……」


 「あ、いや。違うんです。結果が著しく高すぎたので、保護者の方にも、お話をお伺いしたいなと」


 「ちなみに、どれくらいでした?」


 先生は、机の上の書類に視線を落とす。


 「141です」


 まぁ。そんなものだろう。

 以前、つむぎの奇行(厨二病)がひどく、クリニックでIQを測定してもらったことがあった。すると、145〜149のレンジだった。その後、随分と振る舞いが落ち着いたので、気に留めても居なかったが。


 「なんか前より下がってない? アホになった?」


 すると、つむぎは口を尖らせた。


 「ううむ。普段はアカシックレコードの解析に能力を割いておるからな。次のテストをまっておれ。日本記録にチャレンジじゃ」


 模試じゃないんだし。

 次とかないと思うが……。


 その時の医師の話では、高IQの場合、能力のアンバランスから支障がでる事例もあるが、つむぎの場合は全体的にバランスがよく、大きな問題はないだろうとのことだった。


 実際、高IQの子が、周りに馴染めずに精神を病んでしまうことも多いらしい。


 きっと、つむぎの毎日も、皆がチャリンコなのに、自分だけが爆速スポーツカーに乗っているようなものなのだと思う。少しアクセルを踏んだだけで誰かにぶつかるし、流れに合わせて走ることは繊細すぎて疲れるし、道路も狭く標識も小さいから、自分の規格に合ってなくて走りづらいのだろう。


 「つむぎさんの話し方は、その緩衝材であって、ギャップを減らす工夫なのだと思います」


 そんな風に医師に言われたっけ。



 「……さん! 山﨑さん!!」


 椿先生に声をかけられて我に返った。


 「すみません」


 だから、先生が心配してるのはその辺なのだろう。


 「こいつは大丈夫だと思いますよ。自分を周りに合わせる術をよく知っています」


 つむぎは得意気だ。

 

 「そうじゃろ。我は賢いからな。これも全てアカシックレコードの叡智じゃ」


 「ほらね」


 俺が肩をすくめてそういうと、先生は笑った。

 まぁ、空気が読めないトリックスターなのは否めないが。


 「つむぎさんは、それにコンプレックスを感じてることもないようですし、お父さんとの関係が良好なんですね」


 つむぎは口を綻ばせた。


 「うむ。最高のパパさんじゃ。……ときに、先生。うちのパパさんなど、どうじゃ? 優しいし、アッチもすごい。オススメ物件じゃぞ?」


 すると、椿先生は赤くなった。

 つむぎはニヤニヤする。


 「アッチをどっちと思ったのかのぅ。パパさまや。脈アリのようだぞ?」


 この13歳、大丈夫か? 

 俺の育て方が間違っていたのだろうか。


 「もうっ。大人をからかうものじゃありません」


 先生は咎めながらも、笑顔だ。

 知的でクールな人かと思ったが、可愛らしい人のようだった。


 俺が席を立とうと思うと、先生に声をかけられた。

 

 なになに。

 デートのお誘いだったりして。


 先生は、俯いて言いにくそうな顔をする。


 「最近、つむぎさんが深淵への参加証というカードを配ってまして。これ……」


 カードを見ると説明書きがあった。


 『このカードはアカシック•レコードに至る為の参加証です。3日以内にこのカードを3人以上に配布し、かつ、叡智の巫女 山﨑 つむぎまで、希望の職種を添えて加入希望書を提出してください。期限を守れない、3人に渡させない、職種を書いていない、場合には、貴女には、お小遣いが減らされる等の不幸が訪れます。


 になみに、現在空いている職は、巫女カバンもち、巫女のパンを買いに行く係(パン配布の報酬あり)、巫女をチヤホヤする係です。なお……』


 何これ。マルチ商法のやり口じゃん。

 つむぎの方を睨むと、つむぎは口笛を吐きだした。

 

 先生が続ける。


 「実害や校則違反はないので、教員としても黙認していたのですが、既に学年の半数がこれに加入している状況でして。他の保護者の方から、シュプレヒコールのように変なスローガンを読まされたり、新興宗教みたいだとご心配の声が……。お父様からも、それとなく言い含めてもらえませんか?」


 ほんま、すいません。

 ご心配はごもっともです。


 それでさっきは、つむぎ様だったのね。それに、チヤホヤ係ってなんなんだ(笑)。


 つむぎはアタフタした様子だ。


 「わ、我。何も悪いことしてないし。してないしー!!」


 IQなんかより、こっちの方がよっぽど問題だわ。転校して数ヶ月でこれって。一年も経ったら、全校生徒が洗脳されてそうなんですが。


 俺は先生に会釈をすると、つむぎを追いかける。グリグリの刑だ。



 そのあとは、つむぎと一緒に帰った。

 つむぎはコメカミのあたりを押さえて、口を尖らせている。

 

 「つむぎ。楽しくやってるか?」


 「楽しくやっておるぞ? 今、我がやっておるのはな。深淵の探究者の組織づくりと、先生に、パパさまの良いところを沢山つたえてだな。いつ落ちるかを観察しておるのだ」


 ほんと、そういうのやめなさい。

 

 「帰ったら追いグリグリだな」



 家に帰り、今日は早めにベットに入る。

 すると、椿先生からメッセージが来た。


 「夜分にすみません。えっと。つむぎちゃんのお話どおり、すごく優しそうなお父さんで。是非、もっと、お話を聞きたいなと……」


 まじか。

 もしかして、口説く前から落ちている?

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