第37話 おじさんと混沌の仲間達。


 つむぎとの買い物が終わり、高速で家に向かう。


 「ちょっと遅くなっちゃったな」


 りんごが心配してるかも知れない。

 早く帰らないと。


 つむぎを見ると、助手席でスヤスヤと寝ている。なんだかんだ言っても、まだまだ子供だ。


 駐車場に車を置き、荷物とつむぎの重量でヨロヨロしながら、ドアをあけた。


 (パンパンパン!!)


 音に驚き、上を見上げる。


 すると、りんごがクラッカーを持っていた。その隣には、綾乃と瑠衣。


 どういうこと?


 なんで、俺のプリン物語のヒロインズが勢揃いしているんだ。


 いつの間にか、つむぎも起きている。

 4人は、声を揃えて叫んだ。


 「誕生日、おめでとう!!」


 あ。おれの?

 俺の誕生日のために集まってくれたの?


 司会進行はつむぎらしい。

 一歩、前に出ると、高らかに宣言した。


 「今日はな。パパさまを祝うために、敵味方の垣根を越えて、皆が集まってくれたのじゃ!!」


 垣根を越えて……ね。

 つか、敵味方って(笑)


 なんだか、査問会に駆り出される気分なんですが。


 「あ、ありがと……」


 つむぎは膨れる。


 「なんじゃなんじゃ。皆が集まってくれたのじゃぞ? もっと嬉しそうに感謝せぬか」


 いや、だって。

 このメンツきついでしょ。


 あの人とあの人。

 そして、あの人とも、近いうちにエッチの予定があるんですよ?


 日替わりとか、燃える設定だけど。

 ヤンチャすぎて、おじさんの経験値と太々しさをもってしても、無傷で切り抜けられるハズがない。


 殉死の予感。


 この物語。今日をもちまして、本気でジャンルがサスペンスになるかも知れません。



 つむぎに目隠しをされて、リビングに連れて行かれた。目を開けると、リビングは綺麗に飾りつけされていた。


 壁一面に小さな風船が飾りつけられていて、正面には、大きなバースデーメッセージが貼り付けられている。


 きっと、みんなで。

 すごく頑張ってくれたに違いない。


 うちのリビングが、ちょっとしたパーティー空間になっていて、びっくりした。時間も手間も、かなりかかったのが想像つく。


 きっと、つむぎが俺を連れ出している間に、皆でやってくれたのだろう。


 その姿を想像すると、胸があったかくなって、締め付けられるような気持ちになった。


 うん。これは感動だ。

 久しぶりの感情で懐かしい。


 思えば、瑠衣に会ったくらいから、何かが動き出した。もう、あれから一年近く経っていて、今は、俺のために皆が集まってくれている。


 こうして誕生日を祝ってもらったのは、いつ以来だろう。つむぎがお祝いを伝えてくれることはあったが、こういうのは記憶にないくらい久しぶりだ。


 本来なら、大人の俺は『わぁ』と大袈裟なくらい飛び跳ねて喜んで、皆んなを喜ばせないといけないのだろう。


 だけど、頭が真っ白になってしまって、何をしていいのか分からなかった。


 ずっと牢獄の中で、消えてしまいそうだった俺という存在が、息を吹き返したような気がした。


 つむぎがハンカチを渡してきた。


 「いくら嬉しいからって、泣くことはないじゃろ」


 全員がニコニコして、俺を見ている。

 俺は泣いてしまったみたいだ。


 ソファーに座ると、つむぎが全員に注意事項を伝える。注意事項がある誕生日会って、どうかと思うぞ?


 「皆の者、ここはパパさまを祝う場。ここでは、互いの進捗状況の自慢や、言い合い、パパさまへの個人的な抜けがけ行為は禁止じゃ。みんなで仲良く楽しむこと。よいな?」


 喧嘩せずに楽しむことが強制されている。

 なんだか、絶対王政の誕生日会みたいなんですけど?

  

 俺は改めて顔ぶれを見てみる。

 ……正直、罰ゲームだな。


 特に綾乃と瑠衣、大丈夫なの?

 りんごはりんごで、2人を睨んでるし。


 おじさん、胃が痛くなっちゃったよ。


 つむぎは……、ニヤニヤしてる。

 確信犯だな。

 

 俺の心配をよそに、和気藹々とした雰囲気でパーティーは始まった。


 りんごと綾乃、瑠衣が料理を運んで来てくれる。それぞれが料理を持ち寄ってくれたらしい。


 働いてないのは、我が実娘だけだ。


 みんな俺のために準備してくれたのかな。

 嬉しい。


 つむぎが声を張り上げた。


 「では、今のうちに、皆んなで記念撮影しようかの? ここでも注意事項じゃ。『わたしが可愛くないから撮り直し』とかはナシで頼むぞ?」


 スマホをテーブルに固定し、皆で写真を撮った。みんなニコニコしてて良い写真だ。


 「喧嘩が始まる前に撮れて良かったわい。でも、それはそれで平和すぎてのぅ」


 俺には、つむぎのそんな呟きが聞こえてしまった。


 つむぎよ。から大丈夫だ。

 トラブルなんて、ないに越したことないのだよ?


 ノンアルコールのシャンパンで乾杯して、料理を食べる。煮物は綾乃かな? このプリンは瑠衣、パスタはりんご。味付けで、なんとなく分かってしまう。


 うん。どれも美味しい。


 箸で煮物を取る。すると、りんごと目が合った。なんだか、悲しそうな顔をしている。

 

 パスタも食べるか……。

 すると、今度は瑠衣が悲しそうな顔をしている。


 プリンも食べとこ。


 人的バランスに配慮して食べたら、すぐにお腹が一杯になってしまった。おじさんね。お腹出てる割には、沢山食べられないのよ。

 

 つむぎが言った。


 「我、さっき18になったら、パパさまと結婚する約束をしたぞ?」


 つむぎよ。

 面白がって、火に油を注ぐのはやめておくれ……。しかも虚偽だし。


 綾乃が言った。


 「郁人くん。ロリコンだったんだ……18でもまだ子供なのに」


 って、あなた2つしか変わらないでしょ。

 すると、案の定、りんごが膨れている。


 「まだ17だけど、ちゃんと女の子って思ってくれてるもん……。服も優しく脱がせてくれるし」


 すると、綾乃と瑠衣が俺を睨む。


 「まーさーかー、未成年に手を出してないよねー?」


 手は出してないし。これから出すんだし。

 ちょっとパンツ脱がせたくらい?


 くそー。誕生日の主役なのに大ピンチなんですけど。周りをみまわすと、フリーなのはつむぎだけだった。


 緊急避難だ。

 俺はつむぎの手首を掴んだ。


 「ちょっと来い。この修羅場から離脱するぞ」


 そんなわけで、俺はいま、つむぎと夜のドライブをしている。


 「おまえなぁ。あーなるの分かってて、わざと集めたろ?」


 「だって、そろそろ、新入りの泥棒ネコの歓迎会も必要かと思ってだな?」


 怪しげなサークルじゃないんだから、歓迎会とかいらんし。ってか、泥棒ネコって瑠衣のことか?


 初対面に泥棒ネコとか、失礼なやっちゃな。



 「それとこれ」


 つむぎに小さな箱を渡された。

 俺は箱を開ける。


 箱の中身は、指輪だった。

 

 「誕生日プレゼントじゃ。いつも我を大切にしてくれるからな……」


 プレゼントで用意してくれたらしい。


 「ありがとう。嬉しいよ」


 「ほれ。右手の親指につけてみせよ。パパさまだから親指じゃ」


 俺は早速つけてみる。

 ピッタリサイズだ。


 「でも、これ。高かったんじゃないか?」


 すると、つむぎはもう一つ同じリングを出し、自分の薬指につけた。


 「これはな。魔法のリングでな。相手と心が通じるのじゃぞ? こう充電してだな……」


 充電?

 おれは指輪の箱を見てみた。


 すると、説明書きがあった。


 『超高性能スマートリング。位置情報だけではなく、音声と心拍数が記録できます。ペアリングへの自動転送機能付き』


 俺はつむぎの方を見た。

 つむぎは俺から目を逸らし、口笛を吹いている。


 盗撮ドラレコを撤去したから、その代わりか。


 「おまえなぁ〜〜!」

 

 すると、つむぎが腕を組んできた。


 「細かいことは、いいではないか。ラストシーンは、親子水入らずのデートじゃな」


 ……ったく(笑)

 俺は頭を掻くと、ハンドルを握り直した。

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