第34話 おじさん、無理なお願いをする。



 綾乃が戻ってくる前に、館内案内の冊子に目を通す。すると、コスプレ貸出しサービスなるものがあった。


 全ての衣装は、ちゃんとクリーニング済みらしい。


 俺は、冊子をパラパラとめくる。

 その中に、気になる衣装を見つけたので、綾乃が戻ってくる前に、部屋まで届けてもらう。


 呼び鈴がなりドアを開けると、コスチュームは部屋の前に置いてあった。そういえば、ここに来てからスタッフに会ってない。カギも予めフロントに置いてあった。


 さっき、電話では話したけれど。


 ……ま、いいか。



 綾乃はそろそろかな?

 俺は、敢えて部屋を暗くせずに待つ。


 すると、バスルームのドアが開いた。


 綾乃は……、全裸だ。

 やった。


 思った以上に従順そうだ。

 これなら、多少、無理なお願いも行けるかも。


 綾乃は、必死に両手で胸と股間だけ隠して、顔を真っ赤にして、俯いている。


 「恥ずかしすぎて死にそう……」


 やばい。

 可愛い。


 背中のあたりがゾワゾワする。

 自分の中に、エス心が復活するのを感じた。


 妻と出会ってから、どこかに追いやられ、とうに死に絶えたと思っていた、エス心。また会えて嬉しい。これは、派手に復活祭をせねばな。


 俺は自分の横のスペースをトントンと叩く。

 すると、綾乃は横にちょこんと座った。


 見応えのある身体だ。

 均整のとれた身体はグラビアモデルのようだった。


 だが、綺麗だからって容赦はしない。エス心さまは、容姿で差別したりはしないのだ。


 俺は、あたかもそれが普通なことのように装い、抑揚のない口調でオーダーした。


 「自分の両手で足首を持って、足を開いて」


 綾乃は明らかに躊躇ちゅうちょしている。

 仕方ない。背中を押してやるか。


 「好きって嘘なの?」


 秘技、論点すり替え。

 不当なクレームを量産するために発達した、おじさんの特殊能力だ。俺の頭脳、いま、生まれてから一番キレッキレかも。



 「嘘じゃない……よ」


 「じゃあ、できるよね?」


 綾乃の声が上擦っているような。

 この子、じつは興奮してるんじゃないか?


 「はい……」

 

 綾乃は顔を背けると、臀部をこちらに向けて、自分で自分の足を開く。


 とろけるような性器が露わになった。


 ソレを見て、俺は確信した。

 この子はやはり、俺のオーダーに興奮している。


 最初にこれをさせることに意味がある。

 綾乃が処女なら、なお一層の効果が期待できる。

 

 すさまじい陶酔感と支配感。

 むしろ、多幸感というべきか。


 頭の中に快感物質が大量に出ているらしく、俺はクラクラした。


 初めての子に可哀想?

 ノンノン。


 これは、給湯器の故障という神が与えたもうた奇跡。その奇跡のシチュエーションをいかさんで、なんとする。


 俺は今の煌めきを最優先する男だ。


 「みないで……」


 綾乃が小声で何か言ってるが、無視だ。

 俺は綾乃の性器に顔を近づけ、両手で広げる。


 すると、高級店のレアチーズケーキのような、控えめで品の良い匂いがした。りんごの匂いもよかったけど、これはこれで最高かも。


 俺はむしゃぶりつきたい衝動を必死に抑える。

 ペロッと舐めて、様子を見た。


 顔を真っ赤にしている綾乃の顔が、ここからでも見える。でも、どうやら、俺が何をしているかが気になるらしい。


 もう一度、ペロッとする。

 すると、ビクッとした綾乃と目が合った。


 「あんっ。そこ、汚いからダメぇ。シャワーできなかったし……」


 だからこそ、いいんだよ!

 綾乃もまだまだだな。


 ペロッとする度に、綾乃の内股は大袈裟にビクッとする。俺はそれが楽しくて、何度か繰り返した。


 突然、綾乃の声が裏返った。


 「イッ……ク……ッ」


 「えっ?」


 正直、早すぎて驚いた。


 「もぅ。わたしいやだぁ。恥ずかしすぎて死にたい……」


 綾乃は枕を顔にあてて、足を閉じようとする。

 俺は、それを強引にこじ開けた。

 

 そろそろいいかな。

 本腰をいれて舐めまわすことにした。

 

 ん?


 『なんだか、鉄っぽい味がする……』

 

 興奮しすぎて鼻血が出たかな。

 俺は鼻を擦ったが、鼻血は出ていなかった。


 たが、シーツには血が滲んでいた。


 「綾乃、生理ってそろそろ?」


 「え、うん。明日か明後日くらい。でも、わたし正確だから……」

 

 「予定が早まってるかも?」


 「ええっ、そんなハズは……」


 綾乃はゴソゴソして、動きをとめた。


 「ごめんなさい……」


 おじさんは知っている。

 あまり刺激しすぎると生理のリズムはズレることがあるのだ。


 だから、綾乃は何も悪くない。

 俺が調子に乗りすぎたのが悪い。


 「大丈夫だから、シャワー浴びておいで。お湯も復活したみたいだよ」


 フォローしないと。

 素でへこませてしまいそうだ。


 綾乃がベッドから立ち上がると、後ろから抱きしめた。


 「綾乃、大好きだよ。今日は、2人で仲良くしようね」


 すると、綾乃は俺の肘のあたりに手を添えて、何度も頷いた。こういう時は、小出しにしないで、相手が求めている以上の言葉をズバッと与える。おじさんの処世術だ。


 「これ、着替え」


 満足感が高いうちに、サッとコスプレコスチュームを渡した。


 綾乃がシャワーに行ったのを見計らって、俺はシーツに滲んだ血痕を落とすことにした。ティッシュに水をたっぷり含ませ、トントントンと叩くように落とす。何回か繰り返すと、分からないくらいに薄くなった。


 全裸の小太りおじさんが、シーツをトントンする姿。哀れすぎて絶対に人には見せられない姿だな。


 さて。


 綾乃は生理になっちゃったし。

 今日の成功体験はここまでか。


 ……フッ。

 まぁ、そんなもんだろう。


 

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