第30話 おじさん、娘たちに詰められる。


 「ただいま」


 家に帰ると、玄関につむぎがいた。

 つむぎは、俺の顔を見るなり、ジト目になって、ため息をついた。


 「パパさまよ。また新顔のオナゴとチチクリあっておったな? わが父上ながらに、節操がなさすぎるぞ」


 な、なんでわかるんだ?

 すると、つむぎは、顎を上げていつもの決めポーズになった。


 「我が真理の魔眼の前には、汝の矮小な隠し事なぞ、お見通しなのだ。なんじゃ、あの女子は? 綾乃姫の学友か?」


 内情に詳しすぎる。

 会話が聞こえてたとしか思えん。


 ま、まさか。


 俺は車に戻り、ドラレコを確認した。すると、いつの間にかドラレコに五芒星の目玉のシールが貼られていて、Wi-Fi対応のものに変わってるじゃないか。


 あいつめー。

 こんなので監視してたのか。


 って、まさか。

 りんごもこれを見たとか?


 つむぎに聞く。


 「りんごは?」


 「姫は、パパさまの破廉恥な動画をみて、泣いて自分の部屋に行ってしまったわい。罪作りな男じゃ」


 お前が見せたからだろ!! 

 まぁ、原因を作ったのは俺だが。


 つむぎは続ける。


 「あっ、そうそう。りんご姫、濡れ場の良いところで部屋に帰ってしまったからな。1人でじっくり見れるように、姫のスマホに転送しといてやったぞ」


 頼むから、トドメを刺さんでやってくれ。

 はぁ。気が重い。


 コンコン


 りんごの部屋のドアをノックする。


 「……どうぞ」


 声に元気がない。


 部屋に入ると、中は真っ暗だった。

 すると、不意に何かが、すごい勢いでぶつかってきた。


 りんごだ。

 りんごの唇が、俺の唇に押し付けられてくる。


 「んはぁっっ」


 りんごが可愛い声を出して、舌を入れてくる。瑠衣とのキスに張り合うように、何度も何度も。


 顔を離そうとすると、身体ごと全力で抱きついてきて、終わりにさせてくれない。気づけば、俺からも舌を絡めていた。数分はキスをしただろうか。


 りんごの唾液は、ほのかに甘かった。

 

 ようやく身体を離すと、りんごは下着姿だった。前に買った黒のリボンがついた紐パン。りんごによく似合っている。


 今度は前のようなハプニングではない。この子は、俺に抱かれるために下着になっている。


 「わたし、郁人さんのこと好き。18まで我慢しようと思ったけれど、他の人に取られちゃう。待てない……」


 「ち、ちょっと」


 りんごは俺のワイシャツのボタンを外そうとする。だが、少しすると、じれったそうに下から顔をつっこんできた。そして、そのまま乳首を舐められた。


 りんごは舐めながら、掠れた声を出した。


 「ちょっと塩っぱくて、おいしい……お仕事頑張ってくれてる味。郁人さんの乳首たってきた……わたしも、興奮してるよ?」


 そういうと、りんごは俺の右手首をつかみ、自分の左胸に導いた。りんごの小さな乳首は、ツンッと硬くなっていた。


 やばい。

 我慢できない。


 俺は頭に血液が集まってクラクラするような感覚に陥った。こんなに興奮するのは若い時以来だった。


 りんごのこの甘い匂いのせいだろうか。

 すごい催淫効果だ。


 俺は、夢中で、獣のようにりんごの首筋や脇の匂いを嗅いだ。その度に、力強い性欲で、自分が若返ったような、全能感に似たものを感じる。


 香水とは違う、ムスクのようなリンゴの体臭は、下手な精力剤よりよっぽど効果があると思った。この匂いがあったら、何回でもできてしまいそうだ。


 俺は我慢できなくなって、りんごをベッドに押し倒すと、ブラを上に押し上げ、ピンクの乳首を甘噛みしながら舐めた。


 「んっ、んっ……」


 りんごが、普段とは違う色っぽい声を出す。

 辺りに、りんごのいい匂いがする。


 りんごは、甘えたような声で言った。


 「最後までいいよ……」


 俺は四つん這いになったまま、カチャカチャとベルトを外してズボンを下ろす。そして、りんごのパンツのリボンを解き、いきりたった下半身をりんごの股間にあてがう。あと、数センチ動けば、この子の身も心も、俺のモノになる。


 俺は何気なく、りんごの机の方を見た。

 すると、九条の遺影がこちらを見ていた。


 九条と目が合った瞬間、頭を後ろから思い切り殴られたような気持ちになった。俺の下半身は、さっきまでの全能感が嘘のように、一気に萎んだ。


 りんごは不思議そうな顔をしている。

 今の気持ちに正直に、できるだけトゲがないように、俺は言った。


 「やっぱ、やめよう。お父さん、許してくれたけど、こういうのじゃないと思う。その。ごめん。りんごに興奮しちゃって、年甲斐もなく、夢中になってしまった。ごめん」


 「……うん」


 りんごの声は、不思議に暗くはなかった。


 「ごめん、怖かったよな?」


 りんごは首を横に振った。


 「ううん。わたしを女の子として見てくれて、嬉しい。綾乃さんも、あの人もキレイだから、怖くなっちゃったの」


 りんごは続ける。


 「じゃあ、わたしの18歳の誕生日に、続きをして欲しいです。約束です。わたし、本気ですから。してくれなかったら、たぶん悲しくて家出しちゃいます」


 そういうと、りんごは真っ赤になった。潤んだ瞳で、こちらをみてくる。


 「……少しくらいは、わたしのこと好きでいてくれますか?」


 俺は頷いた。

 

 心の中で思った。

 『少しじゃない』


 しばらく前から、この気持ちには気づいていた。でも、今回のことで、自分の中でも誤魔化せなくなってしまった。


 りんごは、目尻をさげ、幸せそうな顔をした。何のメイクもしていないのに、すごく綺麗だった。


 「わたしは……、いつでも、誰よりも一番、郁人さんのこと大好きですよ?」


 いつでも、1番か。


 古いアニソンにそんなフレーズあったっけ。りんごが知るはずもない、その古い歌。


 その歌では、「いつでも、わたし1人だけを愛して」と言っていた。


 って、おかしいな。

 図々しいおじさんのはずが、どうも調子が狂う。


 だから、おじさんらしく図々しいお願いをして調子を取り戻したい。


 「りんご。俺をダーリンって言って。あと、語尾はだっちゃで」


 すると、りんごは首を傾げながら、ちょっと恥ずかしそうに言った。


 「ダーリン。大好きだっちゃ。キョロキョロしないで、ウチのことだけ愛して欲しいっちゃ!!」


 うおー。たまらん。

 次はコスプレしてやってもらおうかな。りんごならよく似合いそうだ。


 ん?

 でも。「ウチ」は頼んでないぞ?


 りんごをみると、ペロッと舌を出した。



 それから、りんごと1時間ほど添い寝して、りんごが寝たのを確認して部屋から出た。俺がシャツとズボンを直していると、柱の陰から、つむぎがニヤニヤしながら、こっちを見ていた。


 「パパさま。りんご姫をモノにしたか?」


 ……こいつは、ほんと(笑)

 俺が首を横に振ると、つむぎは舌打ちした。


 「あそこまで挑発したのにダメとは。パパさまはEDか?」


 EDって……。

 中1にこんな言葉を教えた親の顔が見てみたい。


 って、俺じゃん。


 俺はつむぎを捕まえて、こめかみのあたりを拳でグリグリ〜とした。


 「おまえなぁ、りんごちゃんに何吹き込んだ?」


 つむぎは手足をバタバタさせながら言った。


 「我はただ、パパさまが泥棒ネコと濃厚キスする動画をみせて、頑張らないと先越されちゃうとアドバイスしただけじゃー」


 りんごのご乱心は、やはりお前のせいか!!


 「だって、我、パパさんが心配なんじゃもん。りんご姫なら、我も仲が良いし満点の相手だし、我がいれるうちに、早く子作りして安心させてほしい」


 それって、行き遅れの息子を心配する母親みたいだな。


 ん?


 「『我がいれるうちに』って、お前、帰るの?」


 「いや、いるけど……。それにしても、パパさまよ、もう姫のパンツを脱がすとは、我の魔眼の未来予想より早かったぞ?」


 「……おまえ、なんで、パンツのことまで知ってるんだよ?」


 つむぎは、うなじのあたりで手を組み、口笛を吹きはじめた。そして、言った。


 「……し、しらないっちゃ」


 はい。有罪確定。


 りんごの部屋にカメラあるっぽいな。

 すぐに撤去させねば。

 

 俺はグリグリに力を入れた。



 それにしても、りんごととんでもない約束をしてしまった。りんごの誕生日が怖い。


 ……はぁ。


 いつでも、キョロキョロ、ソワソワしてる俺でごめん。


 

 

 

 

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