第19話 おれとつむぎ。
りんごから、つむぎについて聞いたらしい。
最近、綾乃がつむぎに会わせろと言ってくる。
うーん。
デリケートな部分もあるからな。
俺が悩んでいると、インターフォンがなった。
綾乃だ。
来るの早すぎでしょ。
猪突猛進。若さってこわい。
インターフォンには、つむぎがでた。
「パパさま。魔眼(インターフォン)の外に、絶世の美女がいます。落ち延びてきた亡国の姫君かもしれません」
絶世か。
たしかに、綾乃はかなり可愛い。
りんごも美少女だ。
つむぎも顔立ちは悪くないと思う。
俺は、こんなメタボおじさんなのに。
気づけば、周りの美少女指数が爆上がりしてる。
ハーレム期到来か?
そんなことを考えていると、つむぎが綾乃を招き入れていた。綾乃は、俺に手を振る。
そんな俺たちをみて、つむぎは言った。
「パパさま。その美女は愛人ですか?」
ドキッとする俺。
綾乃も固まっている。
つむぎよ。
こういうのはな。ヒントだらけなのに、気づきそうでいて、なぜか気づかないっていうのがお約束なんだぞ? その不自然さが味わいなんだ。
それをファーストインプレッションで正解してどうする。俺はお前をそんな空気の読めない回答者に育てた覚えはないぞ!!
俺の憤りをよそに、つむぎは続ける。
「よいよい。王たるもの側室の10人や20人、いて当たり前だからの。りんご姫も、もうすこし育ったら、側室コレクションに入れるといいぞよ?」
なんかこいつ、上から目線だな。
俺が王なら、もっと敬ってくれよ。
だが、へたに逆らって刺激してはダメだ。
俺の生死与奪は、つむぎ次第なのだ。
すると、りんごが階段を降りてきた。
「綾乃ちゃん! 久しぶりです。つむぎちゃん。この人は、わたしのお友達だよ?」
つむぎは露骨に退屈そうな顔をした。
「……つまらん。ママさまに定時連絡の時間なのに、今日もこれといった成果はなし……と」
つむぎは、舌打ちした。
ってか、お前はやはり妻が送り込んだスパイなのか!?
りんご、ごめんな。
変な気を使わせてしまって。
綾乃が話しかけてくる。
「あの子が、つむぎちゃん? めっちゃカワイイ。郁人くんに似なくてよかったね(笑)」
娘が褒められるのは嬉しいのだが、似てないって言われると、すごく悲しい。咄嗟に流せなくて、つい感情が顔に出してしまった。
綾乃はすぐに俺の異変に気づいたらしく、真面目な顔になった。
「……郁人くん? ごめん、わたし何か変なこと言っちゃったかも」
「いや、いいんだ」
つむぎは、柱の陰に隠れて綾乃を観察している。なんだかメモをとってるし。
……うちらの関係を完全に怪しんでるな。
できれば、綾乃とも仲良くなって欲しいんだが。難しいか。
綾乃もそれを察したのか、りんごの部屋でお線香をあげて帰ると言い出した。おれに耳打ちしてきた。
「ごめん、やっぱワタシ、来ない方が良かったね」
りんごの部屋には、九条の位牌が置いてある。
偶然だが、カオルのお墓は、綾乃の実家の寺院と同じ宗派だった。そのため、法要は、綾乃が段取りしてくれている。
ほんと、感謝しかない。
綾乃は、位牌の前にすわり、自前の数珠を出す。そして、洗練された動きで、お線香を炊いて、鈴を打つ。
あたりに、鈴の澄んだ音が響く。
すると、つぐみの視線が変わった。
なにかが、オタクの琴線にふれたらしい。
たしかに、綾乃の所作は美しいのだ。
きっと、小さな時からずっとしているのであろう。
綾乃は目を瞑ると読経をはじめた。
「南無妙法蓮華経……、…方便品……」
すると、つぐみは不謹慎にも大興奮になった。
「あ、あやつ。東洋の秘術を何も見ずに唱えておるぞ……、もしや、あやつもアカシックレコードにアクセス権が……」
そのあとも、つぐみは10分以上、キラキラした目で綾乃を見続けた。
それ以来、つぐみは綾乃を憧れの眼差しでみるようになった。綾乃は、つぐみにとって尊敬すべきお姉さんとなったらしい。
望んだ感じとは少し違うが、仲良くなれそうでよかった。
仲良くなった綾乃は、早速、つぐみに質問した。
「つぐみちゃん。お父さん、りんごちゃんに変なことしてない?」
すると、つぐみはいつもの決めポーズになって自信満々で言った。
「我の魔眼によると、パパさまは、近いうちにりんご姫のパンツを脱がすぞ。サイドのリボンをつつーっと引っ張ってだな……」
綾乃は、俺を涙目でキッと睨む。
おーい。つむぎさん。
ほんと、紛らわしいこというのはやめて。
もとから警戒されてるから、冗談じゃ通じんのよ……。
帰り道、俺は綾乃を駅まで送った。並んで2人で歩く。いつも車だから、一緒に歩くのは、なんとなく新鮮だ。
すると、綾乃が口を開いた。
「さっき、わたし何か……」
俺が顔に出してしまったからだろう。綾乃は信頼できるし、話しとくべきか。
俺は後ろを振り返り、つむぎ達がついて来ていないことを確認する。そして、言った。
「実はさ。たぶん、俺とつむぎは、血が繋がってないんだ」
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