第18話 つむぎさまの受難。
つむぎとりんごは仲良くしている。
俺としても、一安心だ。
りんごには姉妹がいないので、つむぎが可愛くて仕方ないらしい。この前、りんごがつむぎを抱きしめていたのだが、つむぎは赤くなってもじもじしていた。
今日は、3人で買い物にいく予定だ。
りんごとつむぎの日用品が必要になったからだ。
りんごと俺だけだったら、きっと、りんごは遠慮してしまう。九条に託されたんだ。せめて、物質的に肩身の狭い思いはさせたくない。
それに、下着や生理用品みたいな、俺には言いづらいものもあるだろう。つむぎが居てくれて良かった。
3人で車に乗り込む。
すると、つむぎが目ざとく髪の毛を拾った。
……綾乃のだな。
つむぎは、毛髪を人差し指と親指でつまむと、ジト目で、りんごと交互に見比べる。そして、同一人物のものではないと判断したらしい。
「パパ様。この毛は、大悪魔召喚の儀式の
そういうと、つむぎは髪の毛をカバンにしまった。
つむぎよ。母親を大悪魔なんて言っちゃって良いのか? 大悪魔が本当に召喚されたら、お前も死罪になると思うが、大丈夫か?
ショッピングモールにつくと、2人で勝手に買い物に行ってくれた。すごく楽だ。
前につむぎと2人で来た時には、洋服のひとつひとつについて『どちらが魔力との親和性が高いか』の判断をさせられるので、大変だった。
俺は椅子でアイスを食べながら待つ。
姉妹は楽だって聞いたことあるけれど、ホントだな。チビ助じゃなくて、上が増えてくれるのは理想的だ。りんごがもう少し小さかったら、養子縁組してたと思う。
いや、今からでも遅くないか。
こんど、調べておこう。
すると、つむぎが走ってきた。
そして、大声で叫ぶ。
「パパさまぁ。りんご姫のパンツどっちがいいと思う!?」
つむぎが両手にもつのは、パンツ2枚。
サイドがリボンの黒と白の紐パンだ。
後ろから、りんごが必死の形相で追いかけてくる。そして、俺の数メートル手前で追いついて、つむぎからパンツを奪い取った。
りんごは、両手で隠すように下着2枚を持って、俺の様子を伺う。
「……見ました?」
俺は全力で顔を左右に振った。
「いちいち確認はしなくていいから。好きなの買いなさい」
俺はそう言いながらも、つい、りんごの下着姿を想像してしまって、自己嫌悪になった。りんごは年齢の割に大人っぽくて可愛いけれど、それは、さすがにナシだろう。
法律的にも道徳的にも。
友情的にも。
つむぎは俺の返事が不満だったらしい。
「パパさま、りんごとひいきしてる!! わたしには、どれでもいいなんて言ったことないし」
つむぎよ。
キャラ設定が崩壊しているぞ?
「つむぎは、自由に選ばせると関係ないものばっかり買うからだ」
つむぎは口を尖らせた。
身振り手振りで不満を表明している。
「りんご姫の勝負パンツだって。パパ様が脱がすかもしれないじゃんか」
「んなこと、あるわけないだろ!!」
「ふーん。じゃあ、白と黒どっちが好き?」
「……黒」
「……」
「……」
つむぎはカッと目を見開いた。
「見える! 見えるぞっ!! 我の千里眼には、ハッキリ映っておる。パパさまが、右手で摘んでリボンを引っ張って、いやらしい手つきで、りんご姫の黒パンツを脱がす姿が!! だーかーらー、他人事じゃないでしょぉぉぉ」
右手で摘んでって……。どんだけ詳細なの。
お前の千里眼、解像度高すぎだろ。
ってか、そもそも、未会計のパンツ店外に持ち出しちゃダメでしょ。
……しかたない。
「両方とも買いなさい」
すると、つむぎが遺憾の意を表明した。
「また、りんご姫だけひいきしてる!!」
「ってか、おまえが店外に持ち出したからそうなったんだがな。あまり聞き分けがないと、パンツ一枚分、お前の小遣いから引くぞ?」
「だめぇぇぇ」
その言葉を残すと、つむぎはりんごに引きずられて戻って行った。
たのむから、滅多なこと言わんでくれ。
不必要に警戒されたら、大変なんだよ。
おじさんは信用されるのは大変だけど、嫌われるのは一瞬なんだからな。
しばらくして、りんご達が戻ってきた。
りんごは紙袋を後ろで持って、上目遣いで俺を見る。
「ひとつだけ買いました」
どちらの色にしたのだろうか。
つむぎは、あれから着せ替え人形にされたらしく、さっきの魔法のローブとは違う、普通の女子っぽい服を着ている。りんごは絶賛している。
「つむぎちゃん、かわいすぎ!!」
すると、つむぎは意外にもほっぺをピンクにして口をつぐんだ。
「苦しゅうない……」
ほう。
つむぎは、褒められるのは苦手なのか。
居た堪れなくなったのか、つむぎは俺に泣きついてきた。
「パパさま。りんご姫は、悪の魔術結社ポポポロンの刺客のようじゃ。我にサイレントの魔術をかけ、我はうまく喋れなくなってしまった。封印された我の代わりに、あの不埒ものを、最下層の氷獄に転送するのだ」
だから、最下層の氷獄ってなんだよ。
「あきらめろ、つむぎ」
俺はつむぎの肩をポンと叩いた。
お前は、まずは、りんごに脱オタの修行をしてもらえ。
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