第17話 つむぎさまご乱心。

 

 つむぎは決めポーズのまま、顎を軽くあげて、こちらをチラリと見る。


 「……それで旦那さま。そこにいる美少女は誰かね?」


 つむぎの俺への呼称が安定しない。

 パパさま、父上、おじき、おやじどの等、様々だ。その時にハマっているアニメによって、コロコロ変わる。


 「あ、愛人か? ママ様にチクらねば」


 つむぎはアタフタしだす。

 

 「つか、つむぎ。俺が旦那さまで、ママはママさまとか、そもそも変だろ。この子は、俺の親友の娘のりんごちゃん。よろしくな」


 つむぎは、眼帯を持ち上げ、りんごをジロジロみると、フッと笑った。初対面の年上に失礼なやつだな(笑)。

 

 「まぁ、よい。りんご姫とやら。ともに力を合わせて、パパ様を討とうではないか」


 つむぎが来てから、会話が迷走している。

 きっと俺の状況を母親から聞いて、心配して来てくれたのだろう。


 そういう良い子なのだ。


 ウチにも色々と込み入った事情があるのだが、結局のところ、つむぎを手放したくなくて、離婚もしないでやってきたのだと思う。


 っていうか。

 こいつ、学校はどうした?


 「おい。つむぎ。おまえ、学校は?」


 「ハハハ、パパ様や、よくぞ聞いてくれた」


 いや、あなた今追い詰められてるんですけどね? 無自覚無双だな。こいつ。


 つむぎは続ける。


 「我のような深淵アビスを覗く者ならば、生まれながらに元始記録(アカシック•レコード)にアクセスできるのです。すなわち、学校など不要。疑うならば、このオッドアイ(虹彩異色眼)に刮目かつもくせよ!」


 いやいや、両親とも純日本人の貴女の片目が碧眼だったら、相当に問題なんですが?  


 とりあえず、学校に行きたくないらしい。

 ただ、つむぎの場合、コミュ力は無駄にあるので、基本、どこに放り込んでも集団生活に不安はない。


 まぁ、たぶん。

 ひもすがらゲームや漫画を読んで、魔導の研究に没頭したいだけなのだろう。


 「わかった。とりあえず、中学に編入の手続きしとくわ」


 「パパさま、だからアカシック……」


 何か言っているが無視だ。

 こいつの相手をしていると会話が進まない。


 りんごが紬に挨拶すると、つむぎは照れくさそうにとんがり帽子を触った。


 「仕方ない。汝に我の真名まなを教えましょう。わたしの本当の名前は『つむぎん』。決算前なので、特別に我を真名で呼ぶことを許そうではないか。よろしく頼む」


 うそつけ。

 お前の本名は『つむぎ』だろ。


 「うちの娘、アホでごめん」


 そういって、りんごを見ると、りんごは笑っていた。お腹を抱えて、涙を流している。きっと、九条が亡くなってから、初めての本当の笑顔。


 つむぎはその様子を見て、俺に向けてグッと親指を上げた。


 ……さすがだ。


 うちに来て数分でりんご姫に魔法をかけた。

 大魔法使いを自称するだけのことはあるな。


 

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