第14話 おじさん、女子高生を引き取る。
俺はタクシーに飛び乗った。
心配そうに見送ってくれる綾乃の顔を眺めながら、九条のことを思い出していた。
九条とは小学生からの付き合いで、高校に入るまでは毎日のように遊んでいた。遊ぶ時は、カオルという女の子も一緒だった。
俺はカオルが好きだった。
でも、俺が高校に入ってしばらくした頃、九条とカオルが付き合ってると聞いた。俺は妬いてしまって、それから2人に会わなくなった。
20代前半で、九条とカオルは結婚した。
俺のことも結婚式に呼んでくれて、幸せそうな2人の姿をみてから、また時々、会うようになった。
九条。
アイツは、俺の親友だ。
俺のことを認めてくれて、自慢だと言ってくれた。大学院で論文が通って博士号をとったときには、カオルと2人で、すごいすごいと、ご馳走を作って、お祝いしてくれた。
その頃かな。
娘さんが生まれて、会わせてもらったっけ。
九条には両親がいなくて、児童養護施設で育った。きっと、思い通りにいかないことばかりで、苦労も多かったろう。でも、しっかり自分の境遇と向き合っていた。中学を卒業して働いて、家族を支えるために、仕事も頑張っていた。
今は自分で独立して、配送の仕事をしていたはずだ。
九条は俺のことを褒めてくれたけれど、本当に自慢なのは、お前の方だ。
……九条に会うのは、カオルの葬儀以来か。
配送中の事故だろうか。
カオルが亡くなってから、娘さんのために無理をしていたのかもしれない。
「つきましたよ!」
運転手の声で我に帰る。
俺はタクシーから飛び降りて、集中治療室まで走った。
すると、病室の外に高橋が座っていた。
その隣にいるのは、九条の娘のりんごちゃんか。お母さんによく似ている。ずいぶんと大きくなったな。
「意識が戻りました」
ICUから看護師さんが顔を出した。
すぐに、りんごちゃんが呼ばれた。
意識が戻ってすぐに親族と面会させるって、よっぽど危ない状況なんだろうか。
りんごちゃんが出てきた。
……泣いている。
看護師さんが言った。
「山﨑さんはいらっしゃいますか? 患者さんが話したいそうです」
病室の中に入ると、九条がいた。
身体中にホースをつけられて、ぐるぐる巻きの包帯は血が滲んで真っ赤だった。その命が長くないことは、素人の俺の目にも明らかだった。
……塩っぱい。
俺は涙を流しているらしい。
俺に気づいたのか、動けないハズの九条は、上半身を起こした。そして、はぁはぁと肩で息をしながら、俺の方を向いてバツの悪そうな顔をする。
「やまざき。りんごを頼む。わるいな……」
それは、聞き取れない程の声だったが、俺にはハッキリと分かった。
「お前にしか頼めないんだ」
カオルの両親は亡くなっていて、りんごちゃんには身寄りがない。
ほんとは即答できるような事柄ではないが、九条が生きているうちに断言しないといけないことだと思った。
俺は、ハッキリと大きな声で答えた。
「任せろ。りんごちゃんは、俺が責任をもって育ててやる。お前が自慢できる子に育ててやるからな」
俺は無理矢理に笑顔をつくって、イイネの手をした。
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