第13話 おじさん、女子大生に伝染する。

 最近、綾乃が変わった。


 知り合った頃は、綾乃が車でかける音楽は、KPOPばかりだった。だがいまは、往年の歌謡曲が多い。


 それにこの前、居酒屋に行ったら、ホッピーと鶏皮を頼んでいた。心なしか、会話にオヤジギャグが多めな気もする。


 以前どこかで、太っている人と付き合うと、自分も太ると聞いたことがある。


 だから、これは俺のせいなのでは?

 綾乃に、おじさんが伝染うつったのかも知れない。


 由々しき事態だ。


 このままでは、今後、綾乃が付き合う相手がオジサンだらけになってしまう。


 だから、綾乃を矯正するために、俺の方が頑張ってみようと思う。


 自分を変えるなら、まずは身なりから。


 洋服屋に行って綾乃に釣り合う服を物色する。だけれど、ぜんぜん分からない。そこで、綾乃くらいの店員さんに「若見えする服をください」と丸投げして、若見えファッション一式を手に入れた。


 分からんことは、お金で解決。

 これは、おじさんのユニークスキルだ。


 だから、今日は、いつもと違う俺でデートしている。会った時、綾乃は一瞬、目をまんまるにして口に手を当てていた。


 ふふっ。


 どうだ。女子大生め。

 恐れ入ったか。


 まぁ、そんなこんなで1日過ごしたのだが、別れ際に綾乃が一言。


 「郁人くん。ごめんね。郁人くんのために言うけど、あまり似合ってない(笑)。いつも通り年齢相応がカッコいいと思うよ?」


 綾乃は俺の企みなど、お見通しらしい。

 あれ? 俺は、綾乃のことを心配してたのに、なんだか逆に心配されてるぞ。


 自分の声が震えていることに気づいた。


 「だって。こんなおじさんと一緒にいたら、綾乃が恥ずかしいかと思って……。最近、綾乃、古い曲ばかり聴いてるし」


 綾乃は俺の目を見つめて微笑んだ。


 「それは、郁人くんに色々と知らなかったこと教えてもらって、音楽の好みに幅ができたんだよ。それで、無理してくれちゃったのかな? ごめんね。でも、嬉しい。ありがとう」


 そう言うと、綾乃は俺のことを、両手で抱きしめてくれた。年齢が半分ほどの女の子に慰められる俺。情けない。


 俺は、改めて鏡をみてみた。


 すると、そこには、無理をして韓国モード系ファッションを着込む中年男がいた。


 変にアートしているTシャツが滑稽だ。


 これって、若い子と付き合って若作りする、痛いおじさんの典型だよね?


 俺は居たたまれなくなって、帰りたくなった。


 すると、綾乃に手を引っ張られて連れ戻される。そして、写真を撮られた。


 「かわいい郁人くんげっと。これ、SNSにあげていい?」


 「ダメに決まってるだろ」


 綾乃はニコニコしながら言った。


 「ざーんねん」



 ……これって、おじさんの魅力で、女子大生を惚れさせる物語だったんじゃないの? これじゃあ、おじさんが女子大生にゾッコンになる物語なんだけど。


 そんなことを思っていると、スマホに着信が入った。


 電話は、小学校の幼馴染の高橋だった。声色に緊迫感と悲壮感が漂っている。


 「どした? なにかあったか?」


 「山﨑か? 九条が交通事故に遭った。危篤だ。すぐに来れるか? 場所は◯◯総合病院……」


 高橋の声はノイズのようになって、どんどん俺の意識から遠ざかっていく。俺は頭の中が真っ白になった。


 九条。


 それは、俺の親友とも言っていい幼馴染の名前だ。

 

 

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