第12話 おじさん、普通にデートする。
俺は悩んでいた。
彼女代行を利用→彼女ができた。
なぜ、こんなことに……。
しばらくは、軽い付き合いを楽しむつもりだったのに。
綾乃は、可愛いし性格もいい。
勉強にも真面目に取り組んでいる。
点数をつけるなら、100点だ。なんの不満もない。でも、100点だから好きになるとは限らないらしい。
うーん。
少し前の俺からしたら、夢のような展開なのに。いつのまにか俺も贅沢になったもんだ。小太りなおじさんのくせに。
色々考えていたら自己肯定感がダダ下りで。
ある結論に達した。
……別れたい。
どうも後ろ向きだよな。
まだエッチもしてないし、覇気に欠けるのは、更年期障害なのかな。それで性欲が落ちたのかもしれない。
少し前なら女子大生の匂いで、ご飯3杯はいけたのに。昭和の男からガツガツをとったら何も残らんぞ。
そして、別方向の大問題。
妻と別居になった。
浮気がバレたとかじゃない。妻はキャリアな資格職で、仕事の都合でしばらく海外なのだ。まぁ、これは表向きな理由で、実際には色々あるのだが。
なにはともあれ。
アイム•フリーダム!!
……だが。
このことが綾乃に知られたら、俺のフリーダムは一瞬で終わりを告げるだろう。だから、これは極秘事項だ。
そして、今日は綾乃とデートだ。
そうこうしていると、綾乃が来た。
とりあえず、さっきの仮説(ED性欲減退説)を反証しとくか。俺は、綾乃の首筋の匂いを嗅いでみた。
甘くて良い匂いがする。
ムラムラする。強い性欲を感じた。
よかった。
俺はまだまだ現役らしい。
綾乃は肩をすくめた。
「あんっ。くすぐったいよぉ。……したいの? 映画が終わったらね?」
あぁ、なんて初々しい反応。
まぁ、おれもEDじゃないっぽくて満足。
今日は、映画を観に行く予定だ。
綾乃は、白いシャツにデニムのスカートを履いている。
……可愛い。
すれ違う男たちが、何人か振り向く。
付き合ってみて、綾乃の印象はガラリと変わった。最初は、やたら突っかかってくるし、バイトもバイトだから、もっと男慣れしたスレた子だと思ったが、何よりも俺を優先してくれるし、優しい。
勉強でもそうだ。教えたことはキチンと復習して身につけてくれる。人に教えた経験はないが、綾乃が教え甲斐のある生徒であることは、明らかだった。
そして、俺に不都合なことは、瑠璃にも妻にも内緒にしてくれると言っている。だが、綾乃は、本来はそんな性格ではないだろう。たぶん、無理しているんだと思う。
おじさんのCPU(頭脳)は、こういった込み入った恋の演算は不得意らしい。無限ループで考えていたら、抜け毛が増えた。
毛根のためにも、今日は普通に楽しもう。
映画は、話題のアクションにした。
途中、主人公の家族が死ぬシーンがあったのだが、綾乃は号泣していた。そんなに悲しいシーンでもなかったのだけれど、何かあるのかな。
放っておけなくて、綾乃の手を握る。
すると、綾乃も握り返してきた。
映画が終わって、感想を言い合う。
なんか、こういうの楽しいかも。
すると、綾乃は言った。
「そういえば、奨学金とれたら、彼女代行のバイトやめるね。それまでは、ごめんね」
綾乃のバイトに文句を言ったことはないのだけれど、気にしていたのかな。俺も、綾乃くらいの子が学費を自分で賄うことの大変さは分かっているつもりだ。
「学費のために頑張ってて偉いと思うよ。応援してるから」
「……妬いてくれないの?」
「綾乃が他の男といたら嫌に決まってるじゃん。でも、それ以上に応援したいと思ってる」
すると、綾乃は俺の腕に抱きついて、身体を預けてくる。
「……郁人くん。だから、大好き」
帰り道にカフェで勉強を教える。
綾乃は色々と質問してくるので、幾つか俺も答えられなくて、次回までの宿題にしてもらった。
一緒にいると心地いい。
やっぱりもったいなくて、綾乃を手放せそうにない。
もう少しこのままで。
このままでいたいと思う。
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