ウルフ、奔走 2

「状況は?」

「目標は第六区画に出現、中型級と認定。大きくは移動していません、住民の避難もそろそろ完了します」


 ウルフ号で現場に向かいながらオペレーターから現状の説明を聞いていると、眼下に黒い巨体が見えてくる。トカゲのような体で、四つの足に加えて大きなカニのハサミのような腕が生えており、早朝の陽に照らされてその巨体が街に長い影を落としている。

 その陰の中に、煙を上げて倒壊している家々が見えた。


 怪獣の近く、なるべく開けたところに降りると、怪獣は上体を起こしてハサミを振り上げ、こちらを威嚇してくる。その状態でウルフ号と同じくらいの高さがあり意外と大きい。


「住民の避難完了しました」

「了解」


 市街地の中では遠距離武器は使えないうえに、怪獣を爆発させるのも極力避けなければならない。


「何とか上に連れてくしかないか......」


 この状況でウルフ号のできる最善策としては、上空で撃破するのが一番だと思われた。

 少しずつ接近すると、怪獣は口とハサミをさらに大きく開く。

 間合いに入った瞬間、ウルフ号は一気に肉薄し怪獣の首を捕まえようと腕を伸ばすがスルリとかわされてしまい、お返しとばかりにハサミによる突きが飛んでくる。

 それを左腕で受け止めると、ハサミでガッチリと挟まれてしまった。


「離すなよ......!」


 ウルフ号が右腕でハサミをつかむと紫炎を思い切り噴出しはじめる。そして、ゆっくりとだが自身より大きな怪獣を上空へ引きずり出していく。

 怪獣は反対のハサミで攻撃を繰り出してきたが、ウルフ号に全く離す様子がないとわかると、その体と尾を機体に巻きつけ締め上げてくる。


「クソっ、コントロールが!」


 コックピット内に機体のきしむ音が聞こえるほど締め上げられ、ウルフ号は機体制御を失うともつれあったまま落下し、そのまま地面に激突した。衝撃がコックピットを揺らす。


「グゥッ......。ハッ、たいした高さじゃなかったから助かった......。やっぱあの腕を先に何とかするべきか?」


 ハサミが無ければこちらが取れる選択肢も広くなるはず。パワーウルフが思案しているとオペレーターから通信が入る。


「再び次元異常を確認しました! かなり大きい反応です!」

「嘘だろ......」


 初めて次元がつながる瞬間を見た。

 不意に景色に切れ目が入ったかと思うと、まるで布のように切れ目がはためいて、そのスキマが見え隠れした。スキマからは”向こう側”が見えるということはなく、幕を張っているような、あるいはどこまでも広がっているような。確かに何かが見えるが、それが何か理解することはできない。

 切れ目を凝視していると”何か”が出てきた気がした。そして、そう思ったとき、すでにそこに怪獣がいた。


「大きい......。これは大型級とみて間違いないでしょう、流石にウルフ号だけでは......」

「でも、俺が止めなきゃならない」


 その見た目は最初に倒したものに似て、大きな後ろ足で立ち上がり、爬虫類のような顔を持っている。異なる点はウルフ号のゆうに二倍はある大きさと、鎌状の腕だ。

 大型怪獣が切れ長の鋭い目でウルフ号を見下ろすと、待機を揺らし、コックピットまで振るわせるような咆哮を上げる。


「そんなモンで俺がビビると思ってんのか? ウルフ・サイズ!」


 腰にマウントされていた箱型の装備を取り外し一振りする。箱は遠心力によって展開すると身の丈ほどもある鎌に変形し、さらに刃から紫のエネルギー刃が形成され一回り大きくなる。

 ウルフ号は紫炎を纏いいつでも動けるように構えた。

 二体と一機がにらみ合う。


 先に動いたのは大型怪獣だった。その大きな鎌腕でウルフ号を両断せんと猛然と切りかかってくる。中型はそれに便乗し、タイミングを見計らって反撃の隙を与えないようにハサミ攻撃を繰り出す。

 ウルフ号はそれらを鎌で受け、いなし、かわし、打ち合った。幾たびも刃が舞い、火花が散る。

 この状況でウルフ号は驚くほど善戦していたが、防戦一方であった。


「ぐっ......!」


 ウルフ号が大型の渾身の一撃をいなしきれず鎌の柄で受ける。強烈な衝撃がパワーウルフにフィードバックされ、機体のバランスが失われる。

 まずい、パワーウルフがそう思った時には、目の前に中型怪獣のハサミが迫っていた。

 しかし、ハサミがウルフ号を捉える寸前、赤い影が視界を横切ると中型怪獣が弾き飛ばされた。


「!? なんだ?」

「遅くなってすまない」


 その爽やかな声の主は上空にいた。

 ウルフ号と同じくらいの大きさで、赤いスマートな人型の守護機。


「その声に、その機体......メカニスレッド!」

「僕だけじゃないよ!」


 メカニスレッドがそう言うと、色違いの守護機が次々と飛んでくる。


「メカニスファイブ......来てくれたんですね!」


 固唾をのんで見守っていたオペレーターが歓喜の声を上げる。


「イグニス・オン!」


 メカニスレッドの掛け声とともに5機の守護機が変形する。

 青と黄が右腕と左腕に、緑とオレンジが右足と左足に形を変える。最後に胴体に変形した赤とそれぞれが合体し、一つの守護機となる。


「メカイグニス!」


 イグニスファイブ五人の声がこだまする。

 その背丈はウルフ号の1.5倍ほどあり、カラフルなカラーリングにヒロイックなフォルムと、まさにヒーローの守護機といった出で立ちをしている。


「メカニスブレード!」


 メカイグニスが降下ざまに腰に帯びた剣を抜き放つと、大型怪獣の鎌を打ち払い、ウルフ号の隣に並び立った。


「これなら何とかなりそうだ......」


 険しかったパワーウルフの声に、余裕の色が戻る。


「僕たち以外にも駆けつけてくれた人がいるみたいだね」

「え?」


 そう言われてパワーウルフが辺りを見回すと、守護機よりは小さい何かが低空を飛んでくるのが見えた。

 その何かがだんだん近づいてくると、それが黒く大きな守護機の前腕だと分かる。ロケットのように煙の尾を引きながら目の前を猛スピードで通過すると、中型怪獣をかっさらって上空へと連れ去っていってしまう。


「先を越されてしまったようだな」


 今度は渋い男の声とともに目の前を黒い大きな守護機が横切る。


「あれは、ロジタイタンか?」


 マットな黒の巨体に、重機のようなボディ。そのパワーをシルエットからだけでも感じられるようであった。

 ロジタイタンはそのまま先ほどの前腕を追いかけるように飛び、追いついて前腕のなかった自分の右腕と接続すると、掴んでいた中型怪獣をぶん投げる。


「タイタン・ボンバー!」


 ロジタイタンが胸部に集中させたエネルギーを一気に開放する。一瞬、閃光が空に走ると巨大な爆炎が怪獣を飲み込み、煙が晴れた後には何も残っていなかった。


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