ウルフ、奔走 1
「ウルフ・ナックル!」
拳が顔面をとらえ、そのまま地面にたたきつける。怪人は動かなくなると爆発して消滅した。
「パワーウルフ、次の目標は第三区画です!」
「了解! ......ったく、どうなってやがるんだ」
~10時間前~
パワーウルフは屋根の上、夕陽に照らされながら、平和をかみしめていた。
「いや〜、今日は暇だったな~。そろそろ帰るか」
空がだんだんと藍色に染まり始め、街灯がともりだす中帰路に就く。
「......ん?」
軽やかな足取りで街道を歩いていると街灯が点滅しはじめ、ついには消えてしまった。夜の支度中だった家々の窓からも明かりが消え、住民たちの不満の声が漏れ聞こえてくる。
「停電か? 最近多いな」
パワーウルフがいつもより暗い道を歩き自宅のアパートの前に着いた頃、アパートの窓に明かりが灯るのが見えた。
「お、戻った」
ひと安心してドアノブに手をかけた瞬間、端末の着信音が鳴る。
「パワーウルフだ」
「怪人発生です。対応できますか?」
「了解。すぐ向かう」
__……
「ウルフ・スラッシュ!」
空中で真っ二つになった怪人はそのまま爆発した。
「よし。......ん?」
パワーウルフは遠くからかすかに爆発音が聞こえた気がして、屋根に飛び乗って耳をそばだてる。見渡す限りでは異常はない様だ。
とりあえず一旦帰ろう。そう思った矢先、再び端末が鳴る。
「どうした?」
「怪人が複数発生しています! ほかのヒーローたちも出動していますが、至急対応をお願いします!」
それからはほとんど休む暇なく怪人を倒し続けた。
八体目か九体目を倒したころ、やっと事態は収束しはじめ、そのころにはすっかり夜も更けていた。
「一旦落ち着いてきたけど、まだ何があるかもしれないし、俺はちょっと仮眠をとって備えておく。何かあったら叩き起こしてくれ」
オペレーターにそう伝えて、色々と考えた結果、ノムラ工業で仮眠をとらせてもらうことにした。
「悪いな、おっちゃん。こんな時間に」
「いやいや、むしろありがたいよ。こんな状況じゃあ俺も安心して寝れないし、近くにいてくれるだけでも心強い。散らかってて申し訳ないけど自由に使ってくれ」
「おう、ありがとう」
ノムラ工業にはウルフ号のことで何度か出入りしているが、ハンガーの中まで入れてもらったのは初めてだ。
寝袋を持ってちょうどよさそうなスペースを探す。所々に書類や部品が積み上げられていて、そのちょっとした乱雑さが何だか心地よい。
「あ〜そこらへんのはあんまり見ないでおいてくれ。関係者以外にはあんまり見せられないもんなんで、一応な」
積まれている書類をなんとなく眺めていたら、おっちゃんが頭をポリポリかきながら言った。おとなしくしたがって寝袋を敷き、しばらく仮眠をとる。
__......
真夜中、不意に目が覚めるとちょうど端末に着信が入る。再びの出動要請だ。急いで怪人発生の現場に向かう。
「ウルフ・ナックル!」
「パワーウルフ、次の目標は第三区画です!」
怪人を倒しても休む間もなく次の要請が入る。
「了解! ......ったく、どうなってやがるんだ」
それから二体、三体と怪人を倒していく間にも、何度か爆発音が響いてきていた。
また一体、怪人を倒すと屋根上へあがり、次の要請が来るのを待つ。
「いったいいつまで続くんだ......」
結局、夜が明けるまで怪人は出現し続け、落ち着くころには太陽が完全に顔を出していた。
「流石にキツかったな……。早く帰って寝てェ......」
ピリリリリリ!
着信。天を仰ぐ。
「パワーウルフだ......」
「パワーウルフ!怪獣警報です!」
「マジかよ......」
ゥゥウウウウウウ......!
まだ茜色の街にけたたましいサイレンの音が鳴り響く。
「第六区画に次元異常、市街地に出現します!!」
「マジかよ......!?」
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