1-EX1.はじめてのファッションショー
『さて、今日明日は街の散策を勧められていたな。とはいえ、何か目標は欲しいところだな…マリオンは、何かあるか?』
パイオンの街に到着して翌日、アリウスたちは街の散策のため、宿から出ると大通りと思われる場所へとたどり着いていた。
時刻は10時頃で、朝というには少し遅い。
それも、アリウスが朝に弱く、なかなか起きられないということが発覚したためである。
アリスの体は睡眠は不要なはずではあるのだが、朝の弱さというのは中身の精神に由来するものなのだろうか。
『まずは、衣服を探すのがよろしいかと。』
『う…いや、とりあえず、元のパイオンから変わった場所などを調べに行かないか?』
『しかし、アリウス様。周りをよく見てみてください。早めに対処しないと、ずっとこの状態が続きますよ?』
マリオンに促され改めて周りを見回すと、道を行く人々が皆こちらに注目してから通り過ぎて行っていることが分かる。
まぁ、大通りに着くまでの間で薄々分かってはいたのだが…今のアリスの格好は、とても目を引く水色のエプロンドレスである。
少なくとも、この往来の中でそんな目立つ格好をしている人間など、周りには見当たらない。
『……お手柔らかに頼む。』
『ええ、ベストな選択を致しますので、お任せください。』
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周りからの視線を感じつつ、大通りを少し歩いてみたところ、幸いにも衣服の店はすぐに見つけることが出来た。
ぱっと見たところ、あまり値の張らない、一般大衆向けの衣服の店らしい。
少なくとも、アリスに着れそうな女子向けの服もあるようなため、木造の店内へと逃げ込むように入店する。
店内に入って改めて商品を眺めてみると、かつてアリウスのころは意図的に避けていたような、アパレルブランドと遜色ないようなレイアウトとなっているようだった。
「思ったよりも、ちゃんとした服が売っているんですね。」
「そうですね。少し心配をしていましたが、これならアリスに似合う服も見つかりそうです。」
とりあえず店内のレイアウトを眺めていると、店員らしき恰幅の良い男性が話しかけてくる。
「おや、こんにちは。こちらのお店は初めてですか?」
「はい、昨日こちらの街へと到着したばかりなんです。」
「この子にもう少し落ち着いた服が欲しいのですが、サイズの合う服などはありそうでしょうか?」
「ええ、それでしたら店の左奥にございますね。よろしければ、ご案内いたしますよ。」
「はい、よろしければお願いいたします。」
そうして、店員に案内されて店の奥へと進んでいく。
すると、店内の奥の一角に、女子向けと思われる衣服が多種多様と並べられていた。
正直、普通の服屋ですら忌避していたというのに、女子ものの、それもこれから着せられるであろうという大量の服のバリエーションを考えると、今すぐ逃げ出したい気持ちが沸き上がる。
「最近ですと、こちらのワンピースのような涼しげな装いが人気ですね。他にも、こちらのキュロットなども上質な布地を利用しており…」
どうやら、こちらを案内してくれた店員さんは、そのまま衣服の紹介を始めたようだ。
正直、こういったセールストークは苦手なのだが…女性だとそうでもないのだろうか?
そう思い、ちらりとマリオンの顔を見ると、なぜだろうか。
てっきり嬉々として話を聞くものと思っていたのだが、どうにも表情が硬いようだ。
『マリオン、どうした?やはりこういったセールストークは女性的にも厳しい感じなのか?』
『…アリウス様、少々失敗をしました。あちらの棚の、値札をご覧ください。』
マリオンにそう促され、店員さんの奥、服が畳まれて置かれている棚につけられている、値札を見る。
そこには「3.Gold」という文字が、美しい書体の小さな文字で、書かれていた。
3ゴールド…まぁ、たぶん金貨三枚ということだろうか。
確か、金貨1枚があれば1人が1月暮らせる程度だっただろうか?
よく見ると、そこらの札には大抵Goldという文字が書かれており、中には20金貨を超えるような品すらある。
なるほど、金に疎い私にも、大体理解ができた。
『ここは、大衆向けの衣服店ではありません…ブランドショップです…!』
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あれから10分ほど、なんとか店員さんのセールストークの合間をつき、今手持ちがないために改めて伺いたいと切り出すことが出来た。
てっきり怒られるかと思ったのだが、意外なことに、そういうことであればと、この街のいくつかの衣料品店を紹介してもらうことが出来た。
どうやらそういう客は割と多いらしく、そうした場合はよりリーズナブルな系列店の案内を行うことにしているらしい。
親切な対応に感謝をしつつ、一方で、なかなかに商売上手だなとも思う。
『まさか、服があんなに高いとはな…』
『文明レベルが衰退しているということを失念しておりました。かつてと同レベルの品質ということは、現在では最高級品ということなのでしょう。』
かつてであれば、あのくらいの服であればそこらの商業施設へ行けばいくらでも購入をすることが出来た。
だが原材料が限られており、かつ大量生産が難しい現在では、あれだけ品質が安定したものを作り出すのは相当難しいのだろう。
そんなわけで、今はその紹介された店のうち、新品の服を扱っていて、かつ値段がそこそこという店へと向かっていた。
話しぶり的には恐らく中古の服のほうが大衆向けなようなのだが、それに関してはマリオンがNGを出した。
私は別に中古だろうが構わないのだが、そこらに関してはこだわりがあるらしい。
まぁ、どうせ選ぶのはマリオンであるため、そのあたりは一任しようと思う。
「どうやら、こちらのお店のようですね。」
「なるほど、確かに雰囲気がありますね。」
案内された通りに向かった先には、確かに衣料品店があった。
だが、店の雰囲気は先ほどのオシャレなものとは異なり、もっとなんというか…まるでアウトドア用品を扱う店のようである。
まぁ、丈夫な服が好まれるということなのかもしれないが、これはこれで懸念点がある。
果たして、マリオンの眼鏡にかなう服はあるのだろうか。
試しにちらりとマリオンの顔をのぞいてみると、案の定、渋い顔をしているのが分かる。
「……とりあえず、中を見てみましょう。」
「はい、お任せします。」
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「お姉さま、そろそろ購入しませんか…?」
「いえ、こちらの組み合わせも試しておきましょう。それと、スカートの色もこの3色すべてを確認しておきたいです。」
幸運というべきか、不幸というべきか、意外なことに、マリオンの眼鏡にはかなったらしい。
そのゆえにこうしたファッションショーが開催され、かれこれ3時間は経過をしている。
マリオンのテンションはずっと上がったきりであるが、私のテンションは既に消滅寸前のマナ結晶のようである。
紹介されたこの店は、その第一印象の通り、フィールドワーク向けの衣服を扱うような店であった。
だが意外にもその品ぞろえは充実しており、中にはファッション性も考慮した、女子向けの衣服というのも取りそろえられている。
現在のこの世界では女子供でも仕事をするということであるようなため、そういった需要ができたということなのだろう。
そうした衣服をいくつか試着してみたところ、どうやらマリオンの琴線が刺激をされたようなのだ。
確かに、まるでファンタジー作品の冒険者服とも言えるようなその見た目は、可憐さとは別のかわいさがあるのは確かである。
それは、先ほどから目の前の鏡に映り続けている少女がとても可愛らしい様子からも理解ができる。
そのため、今はマリオンから渡される服を無心で着替え続け、意識は目の前の少女を眺めることだけに集中をしていた。
いやぁ、やはりアリスは私の最高傑作だなぁ。
「ふむ…やはり、服のコーディネートはこちらがベストですね。」
「お、終わりましたか…」
「あとは、こちらを選ぶだけです。どれがいいですか?」
どうやら、長くつらかったこのファッションショーも、ようやく終わりが見えてきたらしい。
マリオンに小さな布を渡され、それを手で広げる。
なるほど、下着か。
両手で掲げたそこには、薄い三角形の、小さな布地がつるされていた。
そして渡された下着を着用するため、穿いていたドロワーズをずるりと勢いよく脱ぐ。
続けて、渡された下着を穿…
「待ちなさい、アリス。下着は試着してはだめです。」
ガシリと、下着を穿こうとしていた腕を掴まれ、制止される。
予想外の反応に、無心となっていた意識が、急速に引き戻される。
目の前の鏡には、ドロワーズを足元に落としたまま、片足を上げ、小さな布地に足を通そうとする、少女の姿が映っていた。
そして当然、その少女は
顔が火で炙ったかのように赤熱し、体がプルプルと震えだし。
思わず出してしまった可愛らしい悲鳴に、店員が飛んできて。
そのあとの記憶は、ない。
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その後、ポロポロと涙の止まらないアリスをなだめるために訪れたカフェで、アリスは運命の出会いを遂げた。
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安心してください、飛んできた店員さんは女性です。
ちなみに服一式は購入し、着たまま店を出ていますが、下着は買い損ねました。
以後、パイオンの街にいる間はほぼこの服で過ごしています。
ちなみに、マリオンの硬い表情や渋い顔は、他人からはあまり区別がつきません。
基本的に、外向けには常に微笑みを絶やさず、あまり大きく感情を見せることはありません。
ですが、見る人が見れば意外と感情豊かなことが分かります。
第一章終了時点だと、エルとティアラさんあたりならほぼ完全な判別が可能です。
別にこれは感情表現が出来ないというわけではなく、メイドとしてそう振舞っているだけです。
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