1-37.中央ギルドの影

 時刻はすでに夜中で、窓から見える外の景色も、すっかりと日が沈んでしまっている。



 あれからギルド長とは長い間話し込み、歴史についての考察や過去の文明のことについてなど、様々な情報交換を行っていた。

 とはいえ、ほかに重要な情報も特に見つからず、どちらかというとアリス達がひたすら質問攻めにあっていたような気がしなくもない。



 エルとモンドは、昼を過ぎたあたりに既に退出をしている。

 空腹のため一度外に出ると言ったきり、結局戻ってくることはなかった。

 アッシュは彼らのリーダーということもあり流石に帰るわけにもいかなかったらしく、今では大分つらそうな顔をしている。


 正直、話の話題は大体がギルド長の興味によるところなため、彼が聞いていてもあまり意味はないだろう。

 ギルド長は真面目な男だと思っていたのだが、どうやら知識欲に関しては歯止めが利かなくなる性格だったらしい。



「そういえば、魔人とも遭遇したと言っていたな。よく生きて戻れたものだ。」


「あ、そういえば私からも聞きたいことがありました。その、魔人というのは、何なのでしょうか?」



 ギルド長が、途中でティアラさんが差し入れをしてくれた、軽食をつまむ。

 その際、ギルド長が奥から酒瓶を持ち出してきたのが、この状況を生み出した原因で間違いないだろう。

 どうやら、今日はギルド長の業務をするつもりは、もうないらしい。



「ふむ…あれについては、図書室の資料にある以上の情報は特にないな。魔人も、古代には居なかったのだったか…今では、一種の災害のようなものとして、認知をされている。比較的ではあるが、遺跡の周辺や、人里離れた奥地で目撃されることが多いように思えるな。」



 もしかすると、魔人は何か目的をもって、遺跡を探している?

 そうなるとやはり、あの時魔人と遭遇してしまったのは、偶然あの遺跡になにかを探しに来たからなのだろうか。



「魔人は、見た目としてはではそれなりに知性のある、人のようにも見えました。彼らには何か目的のようなものがあるのでしょうか?」


「いや、それも不明だな。たしかに知性はあるようなのだが、基本的に攻撃的で、話が通じないことが多いようだ。遭遇しても見逃される人間が稀にいるため、そうした情報も残ってはいるが…街を丸ごと焼き尽くしただとか、大破壊の跡地に立っていただとか、そんな目撃情報のほうが多い。」



 大破壊の跡…あの遺跡を破壊した時のようにだろうか。

 そうなるとやはり、魔人の目的は遺跡の破壊という可能性は大いにありそうだ。



「ここ最近だと、南のラグナ周辺と、東のヴィルドーの周辺で、魔人の目撃情報があった気がするな。どちらも特に被害はなかったようだが、依頼で近くに行く際は気を付けるといい。」



 ラグナの街。そういえば、破壊された遺跡の記録にも、ラグナ中央基地という言葉があった記憶がある。



「そういえば、遺跡で見つけた記録なのですが…ラグナ中央基地、という言葉がありました。ラグナの街周辺で、何か思い当たるものはありませんか?」


「ラグナに、街か?あそこには、遺跡くらいしかないはずだが…そうか、あそこもかつては街があったのだな。」


「ラグナの街は、滅びているのですか?」


「地名が残ってはいるが、あの周辺は今は誰も住んでいない。あそこにあるのは街ではなく、遺跡だな。ラグナの大遺跡などと呼ばれている。かつては時折調査員が派遣されていたはずだが、いまはそれもない。あの遺跡には中央ギルドから立ち入り禁止の知らせが回っていたので、現在は立ち入れなくなっているな。」



 かつて、この一帯では一番の大都市であった、ラグナの街はもうないらしい。


 そして現在ラグナにあるのは、大遺跡と呼ばれる遺跡のみ。

 今までの情報をまとめると、恐らくはラグナ中央基地と呼ばれていた場所が滅び、大遺跡と呼ばれているのだろう。

 だが、中央基地と呼ばれていたからには、何か重要な情報がそこには眠っている可能性がある。

 そうなると、そこにはぜひとも訪れてみたい。



「立ち入り禁止とのことですが、そこに入る手段はないでしょうか?」


「そうだな…中央ギルドから命令が出た以上、基本的にそれを覆す手段はない。もし、それでも入りたいというのならば、無断で侵入をするか…中央ギルドからの依頼として入る以外には、ないだろうな。一応言っておくが、中央ギルドに逆らうのは避けたほうがいいぞ。最悪、すべての街で手配されるからな。」



 どうやら、中央ギルドというのは国に相当するような大きな権力を持つらしい。

 そうなると、無断侵入するというのは、よほどのことがあった場合の最終手段になりそうだ。

 急ぎというわけではないし、機会があればということで頭の片隅に入れておこう。



「中央ギルドであれば、おそらく色々と歴史の資料もあるのではないかと思うのだが…実のところ、私は歴史の隠蔽には、中央ギルドも絡んでいるのではないかと睨んでいる。遺跡の管理は、基本的に周辺地域の街のギルドに一任されるのだが、先ほども言ったように、稀に立ち入り禁止となる遺跡もあるのだ。そういった遺跡は保存状態の良いものが多く、つまりは何らかの資料が残されている可能性も高いだろう。名目上は、遺跡の保全のためとは言われているがな…。それに、中央ギルドの長は…」



 その時、部屋の扉が音を立てて勢いよく開かれた。

 その扉の向こうに立っている襲撃者は…分厚い書類の束を抱えた、ティアラさんである。



「ギルド長!もうとっくに閉館時間は過ぎていますよ!それに、今日処理しないといけなかった書類が、こんなに溜まっているじゃないですか!………ギルド長、もしかして、また執務室にお酒を持ち込みましたね?リコちゃんに言いつけますよ?」


「ティ、ティアラ君!すまない、それだけは勘弁してくれ…!」



 リコちゃんは、ギルド長のお孫さんである。


 タイダルはその初孫であるリコのことをそれはそれは大層可愛がっており「ギルド長は孫馬鹿である」ということはギルド全体に知れ渡っている事実だ。

 普段は真面目で有能なギルド長も、孫の前でだけはボアのほうがまだ賢い、と。


 そんな孫にもし嫌われてしまったとなったら、きっとタイダルはこの先の生きていく希望を失ってしまうだろう。



 そんな、ギルド長とティアラさんのやり取りを横目に、サンドイッチを咥えたアッシュがこっそりと退出していく。

 恐らく今日はもう、話を聞くことは出来ないだろう。

 急ぎではないし、そのうちまた話せばよいかということで、アリス達も扉の前で一礼をし、部屋を退出していった。



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タイダル…リコ…アッシュ…

既に気づいている方もいるかもしれませんが、登場人物の名前は某ファンタシーでスターなオンラインゲームからとっています。

まぁ、名前を悩んだときに思いついたのがそれだったというだけですので、特に意味はありません。

別に縛りを作っているわけでもないので、今後の命名はまた別のものからとると思います。


ただまぁ…リコちゃんは将来、凄腕の調査員になるかもしれませんね。

そういう因果ができてしまったので。



サンドイッチ…時折論争を呼ぶ有名なメニューですが、この世界には存在しています。

ただし、サンドイッチ伯爵は存在していません。

だれかが突如発案したというわけでもなく、歴史の中で自然と発生していた料理です。

その理由は世界設定の根幹にかかわるため、またいずれ。



ちなみに、もうちょっと話を粘ればもう何段か情報を得られていたのですが、タイダルの長話に付き合うのが億劫だったため、アリス達から再度話を聞きに行くことはありませんでした。

タイダル自身もティアラさんにこってりと絞られてしまったため、再度じっくり話をする機会は作れませんでした。

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