1-35.紐とオシャレは紙一重

 アリウスたちは現在、かろうじて月明かりで照らされている暗い夜道を、徒歩で街まで戻っている途上である。



 穴の開いたスロープの天井から外に出たところ、時間はすでに夕方を過ぎ、空が暗くなり始めていた。

 そのため一度、初日にキャンプをした場所で休むことも考えたのだが、またいつあの魔人が近くを訪れるとも限らない。

 あれの正確な目的がわらかない以上、夜間のうちに移動を進め、早々に遺跡から離れることにしたのだ。


 幸いと言っていいかはわからないが、アッシュたちはまだ気絶したままマリオンに背負われている。

 そのため、暗闇であっても支障なく遠くまで見通すことが可能なアリス達にとっては、夜間の歩き旅であっても何の支障もない。



 そう、彼女たちにとって、夜間に歩くということ自体には、全く支障はないのだ。

 つまり今、アリウスを悩ませているトラブルというのは、それではない。



「……???……!!??……?!?」


「アリス、大丈夫ですか?」



 アリスは今、顔を真っ赤に赤面させながら、ふらふらと頼りない足取りで歩いていた。

 顔の赤さは、おそらく最高記録を更新しているであろう。

 あまりの熱に、かすかに湯気が昇っている様子まで見えるようだ。



 そんなアリスは今、手では胸元とエプロンドレスのスカートを押さえつけ、まるで歩くこと自体に問題があるかのように、プルプルと震えている。

 つまり、いまアリウスを悩ませている原因が、そこにあるということである。



 何故だ。なぜあの時、自分はあんな判断をしてしまったのか?

 確かに、不意に沸き上がった強烈な羞恥心に、判断がおかしくなっていたのだろう。

 だが、なぜよりにもによって、あんなものを疑問にも感じずに、身に着けてしまったのだ。



 あんな……紐の延長線上としか言えないような、心もとない代物ローライズショーツを……!!



 先の爆発の折、アリスが身に着く得ていた衣服は、爆風によりすべてボロボロに破壊されてしまっていた。


 そのため、とっさにポーチの中から以前の衣服を取り出し身に着けたのだが、その際に、あの布と紐との中間のような、布地としてとても頼りない下着を身に着けてしまっていたようなのだ。



 平常時ではあんなもの、たとえそれしか身に着けるものがなかったとしても、拒否していたに違いない。

 それだけ混乱していたのだとは思うが、アリウスにもなぜこんなことになったのかはよくわからない。

 わかるのは、この危険な代物が、少し歩こうとするだけでズレてしまいそうな、色々な意味で危険な代物であるということだけである。


 それに、替えがなかったために何もつけていない胸元も、動くたびにいろいろと擦れてしまうのが気になって気になって仕方がない。


 もっと、布地が必要だ…!



『マリオン…その、ちょっとマナマテリアルを還元させてくれ…。』


『……折角ですし、慣れてみてはどうですか?』



 まさかここで断られるとは思わず、目を見開き、マリオンを凝視する。

 何故かはわからないが、マリオンはにっこりと、優し気な笑顔を浮かべている。



『こんなもの、ただの紐と大して変わらないじゃないか…!』


『紐ではなく、ローライズです。オシャレというのはそういうものですし、慣れてしまえば、楽しみも広がると思いますよ。』


『オシャレになど、興味はない…!』



 そんなことを言いつつも、実のところ、街の服屋で着せ替えされている間は、言われたままに服を着ることが多い。

 なにせ、鏡の向こうにいるのは、自分が考えた最高の美少女なのだ。

 可愛らしい少女の様々な姿に、思わず見とれてしまうのは自然なことだろう。


 だが忘れてはいけない、その鏡の向こうにいるのは、アリウスでもあるのだ。



『オシャレも、身だしなみのうちですよ。身だしなみは、大事にしなくてはなりません。…ですがまぁ、上は確かにあまりよくないですね。これで応急処置をしましょう。』



 前を歩いていたマリオンが立ち止まったため、アリスもその場に立ち止まる。

 マリオンはアリスに向かって腕をかざすと、布の帯がするすると伸び、アリスの服の隙間へと滑り込んだ。



『ちょっ、何をしている!?』

『ですから、応急処置です。じっとしていてください。』



 体の上をすべるように動く布がこそばゆく、先ほどよりもさらに熱が上がるのを感じる。

 これ以上頭に熱がたまると、いい加減、演算機が熱暴走をするかもしれない。


 とはいえ、何か応急処置とやらをしてくれるらしいため、されるがままにじっと待っていると、帯がシュルシュルと上半身を巻くように包み込み、しっかりと上半身が固定をされた。


 そして服から飛び出る程度に少し余裕をもって帯を切り離すと、服の隙間から中に手を入れて、帯の端の部分を巻いた隙間に通すようにして固定した。

 


『どうです、動いてもずれませんか?サラシのようにしてみましたが。』

『おお…大丈夫そうだ。』



 軽く体をひねったり腕をまわしてみるが、特に問題がなさそうだ。

 ブラに比べると多少違和感や圧迫感はあるものの、動く分にはマシになったようだ。

 だが、どちらかというと、今問題が大きいのは、下半身のほうである。



 ちなみに、この帯を一度還元して加工をし直せばよい話ではあるだが、アリウスはそれを完全に失念している。

 それほどまでに今、アリウスの思考は千々に乱れていた。



『えーと……下はふんどしにすればいいか…?』

『…そちらはれっきとした下着です。街に着くまでは頑張ってみてください。』



一度差し伸べられたと思った救いを再度突き放され、アリスの顔が再び驚愕に固まる。

どうやらこの姉は、本気でこの頼りない布地に慣れさせるつもりらしい。



『ご無体な…!』

『ふふ…落ち着いたら、また服屋に行きましょう。』



 その後もプルプルと頼りない足取りの中、普段の倍以上の時間をかけて、夜道をゆっくりと歩き続けるのだった。



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ワイはこれが書きたくてTSものやっとるんや…!

ちなみに本当はもっといっぱい文章書きたかったんですが…なんだかこう、生々しくなりそうな部分は、泣く泣くカットしました。

ですが、ここにはすべての夢が詰まっていると思います。



ちなみに、この布と紐の中間のようなものは、もともとマリオンが用意したものです。

アリウスは基本的に服装に無頓着なため、アリスの服装に関しても、マリオンに一任していました。

というより、アリスの制作が決まった時点で、服装は自分に任せてほしいと自ら希望しています。

ですので、アリスにこの紐を穿かせることは、アリウスの趣味ではありません。



マリオンは、アリスにもっとかわいい格好をさせたいと、常日頃から考えています。

きっとそれはこれから、もっと加速していくと思います。

なお一応フォローをしておくと、マリオンは別にそっちのけがあるわけではありません。

ただ単純に、世界一かわいいアリスに、最高にかわいい格好をさせたいだけです。



なお、アッシュたちは今も気を失ったままつるされています。

いい感じに揺れるため、とても気持ちよく眠っています。

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