1-33.刹那の邂逅

「あ、動いた。」


「おい、大丈夫か?ずっと動かないんで、心配していたんだが。」



 先ほどマリオンが奥の機械に何かを始めてから、現実の時間ではおよそ5分ほどが経過をしていた。


 その間アリスも含め、うなだれたまま声をかけても全く反応をしないため、アッシュたちはどうするべきか、心配をしていた。

 そして、ようやくマリオンが目を覚ました今でも、アリスはまだ動く様子がない。



「ご心配をおかけしましたが、問題ありません。それと、少々お見苦しいところをお見せいたします。」



 何事もなかったのようにスッと立ち上がったマリオンは、うなだれたままのアリスに近づくと、その肩を掴んで前後へと揺らす。


 最初は優しく、ゆさゆさと。

 だがそれでもアリスは目を覚まさないため、徐々に揺らし方が激しくなり、ついには頭がガクンガクンと前後に暴れ始める。



「お、おい、本当に大丈夫か…?」


「お気になさらないでください。少々、目覚めが悪いだけですので。」



 揺らすことで起こすのは諦めたのか、マリオンはおもむろにガントレットを外すと、それを脇へと置く。


 そして手を手刀の形に整えると、勢いよく脳天へと一撃。

 ゴッッ!という、ちょっと痛いでは済まなそうな音が、部屋に響く。

 だがそれでも、アリスは目覚めない。



「…直接接続は、できれば避けたいのですが。」



 袖から伸びる帯をウネウネと動かし少し考えるそぶりを見せるが、どうやら、なにか避けたい理由があるらしい。


 一応、最後にもう一発。

 そう、岩をも砕くであろう手刀を先ほどよりも高く振りかざしたところで、ようやくアリスはその目を開けた。



「………!!??痛っった!!!マリオン、起きた、起きたから!!」


「アリス、言葉遣いには気をつけなさい。」


「あっ。……お、お姉様、起きました!起きましたので、手刀はやめてください!!」



 アリスは先ほどまで、ああでもない、こうでもないと色々と試しながら、暗い空間をふわふわと漂っていた。

 そうしたところ、突然頭頂部がジワリと熱を持ち…瞬く間にジワジワと痛みが広がっていったのだ。


 訳もなく傷む頭をどうにもできずに悶え、否応なく痛みに意識が集中されていったところ…ようやくこの現実の世界へと帰ってくることができた。


 帰ってくる、というよりは、夢を見ていたのを強引に引き戻されたというべきだろうか。

 完全に痛みに意識を持っていかれていたせいか、思わず本来の喋りが出てしまっていたらしい。

 目じりには、まだじわじわと涙が浮かんでいる。



「お嬢ちゃん…素だとそんな感じなんだな…。」


「まぁ、姉妹ってそんなもんだよね。私も妹がいるからわかるわー。」


「エルは起こされる側ですけどね…今も私が起こしていますし。」



 そんな様子を見て、アッシュたちがそれぞれの感想を言いながら、笑い出す。


 別に、いつも起こされているわけではないのだが…いや、たまにはちゃんと自分で起きている。本当だ。

 そんなことを考えつつも、少し頬が赤くなるのを感じる。



「うう……その、忘れてください…。」


「お見苦しいところをお見せいたしました。後で、再教育いたしますので。」


「うぇ!?か、勘弁してください…!」



 そんなちょっと意外な一面を見せた姉妹の姿に、アッシュたちに再び笑いが起きた。



 ----------



「それで…あんたたちは、300年前に作られたゴーレムだった、ってわけか。」


「はい、この施設に繋ぐことで、ようやく正確な時間がわかりました。」


「300年前って言うと、多分古代文明が栄えてたって時代だよね?昔は島が空を飛んでたってのは、本当なの?」


「古代文明と呼ばれるもの、というのはたぶん合っていますね。ですが、おそらくその記録は意図的に改ざんされた情報です。さすがに、島が飛んでいるということはなかったですね。」


「えっ、そうなの?」


「まぁ、そのあたりの事情は、ギルド長もある程度知っているはずだな。詳しくは帰ってから、ギルド長も交えて話すのがいいだろう。」


「そうですね。二度手間になりますし、詳しくはその時に話させてください。」



 これ以上は話が長くなりそうであるし、どうせギルド長にも同じ話をする必要があるため、一度話を終わらせる。

 どうやらエルはまだいろいろと聞きたそうにしていたため、帰り道はきっと質問攻めにあうだろう。



「とりあえず、この施設はこの地下部分で全てのようですね。あとは、レポートをまとめるためにもう少し見てまわって…」



 ふと、指令室と格納庫を隔てる大きなガラス窓に近づき向こう側を見下ろすと、煤けて汚れたガラスの向こう、格納庫の中心のあたりに、なにやら人影のようなものが見えたような気がする。


 はて、この施設のゴーレムはすべて破壊されているはずである。

 そうなると、音でも聞きつけて誰かこの遺跡の中に入り込んできたのだろうか?



 そう思い、皮の手袋をガラスに押し当て、ワイパーのように汚れを払うと、確かにそこには見知らぬ人影が見て取れた。



 ガラスの向こう側も汚れているため、よくは見えないのだが、背格好からして、おそらく青年だろうか。

 よれた黒いジャケットに、ほぼ色見が抜けてしまったであろう、古いジーンズを履いている。


 かろうじて判別できる短髪は銀髪で、肌は浅黒いように見える。

 反対側を向いているため顔はよく見えないが、どうやら先ほどのゴーレムの残骸を見ているようだ。



 だがそんなものよりも、この煤けたガラス越しでも、目立つ特徴が一つ。



 側頭部から、赤黒いマナの輝きを称えた、ねじれた一本角。

 遠く離れたガラス越しではあるが、それから目を離してはいけないと、本能が警告を示している。


 そして、ガラス越しにでもわかるほどに、角が赤く炎のように輝き始め………



「マリオン!!全力で皆を守れ!!!」



 大声で、口調を取り繕うのも忘れて、マリオンに指示を飛ばす。



 その直後、一瞬のうちにガラス越しに巨大な爆炎が広がり

 ガラスを突き破った爆炎と、轟音と、衝撃とが

 この部屋を、施設全体を、包み込んだ。



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 たびたび話に出ていた、魔人とやらと遂に邂逅しました。

 先ほど施設最深部のバイオハ〇ードな日誌から、新情報を得ましたね?

 つまり、その直後にヤバイエネミーと遭遇するということです。(お約束)

 

 まぁでも、この章のクライマックス戦闘は終わっていますので…。

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