1-30.マナ通信入門

 あれから少し休憩し、皆もある程度落ち着くことができた。

 今は先ほどの格納庫の奥にある階段をのぼり、フロアを軽く調べながら進んでいるところである。



 この地下の施設内は恐らく4階建て程の高さがあるが、二階はゴーレム関連の資材置き場だったらしく、雑多な部品が所狭しとおかれていた。

 特に今必要なものではないが、あとでいくらか、自分の土産として持ち帰ってもよいかもしれない。



 そしてちょうどいま三階へと到着したのだが、壁際にいくつかの機材が置かれているものの特に重要そうな物は見当たらず、ゆったりとした空間が広がっている。

 崩れたソファやベッドのような物も見受けられるため、おそらくここは休憩スペースか何かだったのだろう。



「やばいなー、あれいくらになるだろうなー!」



 エルはあれからずっと、上機嫌なままである。


 ちなみに、装置についていたマナ結晶は、既にアリスのポーチの中へとしまい込んである。

 動く遺跡の一部として貴重な資料ではあるのだが、あのまま置いておいても蒸発してしまう可能性があったため、相談をして先に回収を済ませておいたのだ。


 その際、アリスの持つ小さなポーチに巨大な結晶が入るのには驚いていたものの、空間拡張が施されたバッグは時折、遺物として出回るものらしい。

 そうしたものは非常に高価で、アッシュたちは持っていないらしく、とても羨ましがっていた。



「エル…悪いがあれは、さすがに一度ギルドと相談になるぞ?動いている遺跡なんて、滅多にあるものじゃないからな…。」


「えぇー…遺跡として状態保存するってなったら、絶対安くなっちゃうじゃーん。」

「どっちにしろあんなもん、普通のマナ結晶と同じような取引などできんだろう。色を付けてもらうよう交渉はするから、我慢しろ。」



 これは試験ではあるが、見つけた価値のある代物に関してはトラブルを防ぐ意味も兼ねて、全員で等分することとなっている。

 あれが具体的にいくらほどの価値をもつかはわからないが、全員それなりに懐が潤うことは間違いない。

 エルほどではないが、そう指摘するアッシュやモンドも、だいぶ機嫌がよさそうに見える。

 

 そんなことを考えながらフロアに置かれている品を調べていくが、やはりここには大したものはなかったらしい。早々に上の階へと向かうこととなった。



「さて、おそらくここが最上階か。特に動いているものはなさそうだが、ここで合っているのか?」


「はい、恐らく動力が落ちているだけなので大丈夫です。多分、どこかにメインスイッチがあるかなと思います。」



 最後の階段を登ると、そこには中央に大きな机と、壁際に多くの機材が並べられている、整然とした部屋となっていた。


 格納庫側の壁は一面ガラス張りの窓となっていて、恐らくかつてはこの場所から様々な命令を飛ばしていたのだろうということが伺える。

 窓の上には先程よりも多くのモニターが並んでいるが、動力が落ちているらしく、今は多数の黒い板が並んでいるようにしか見えない。

 その下側には窓に沿うように、机と一体化した複数の機材と、大小さまざまなモニタや計器の類が並んでいる。



 構造的に恐らくこのあたりだろうという場所に当たりをつけて机の下を探すと、主動力である旨が書かれた、小さな扉が見つかった。

 幸いハッチには小さなカギしかかかっていなかったため、強引に引っ張って扉をこじ開けると、大小さまざまなスイッチが並んでいる。

 その中の一番大きなスイッチを跳ね上げると、小さな駆動音とともに部屋の各所のモニターに光が灯りだした。



「何やら動き出したが…あの壁のは、さっきと同じモニターってやつか?先程のとは違って、随分チカチカ光っているようだが。」


「これは…このモニターは、壊れてしまっているようですね。本体は完全に壊れているわけではなさそうなんですが…。」



 どうやらこの部屋の動力自体は生きているようなのだが、モニターが故障しているため、そのままでは情報を読み取ることができそうにない。

 だが、何やら意味の有りそうな記号がチラチラと見えるため、機能が完全に故障をしているというわけではなさそうだ。



『アリウス様、どうやら本体はこちらに並んでいるようです。』


『本体だけ生きていてもな…下からモニタを持ってきてつないでみるか?』


『いえ、折角ですのでここでマナ通信への接続を練習しましょう。まず私が接続しますので、その後にアリウス様を招待します。少しずつ、慣らしますので。』



 こちらの返答を待たず、マリオンは窓の逆側、部屋の奥でチカチカと光る壁の隙間へと、手元から延びる帯を差し込んでいく。

 隙間の奥を探るように帯を動かすと、先程と同じように帯に刺繍のような赤い光が走り出した。



『----繧「繝ェ繧ヲ繧ケ讒倩◇縺薙∴縺セ縺吶°?----』



 感覚としてはいつも直接会話をしているのと同じマナ通信。


 だが、聞きなれたマリオンの声とはまるで異なるザリザリとしたノイズにしか聞こえず、何を伝えようとしているかが理解できない。

 だが何らかの高密度な情報を送られているらしく、普段よりも頭に負荷がかかっていることが、感覚でわかる。



『マリオンか、これはどうすればいい?』

『----縺薙■繧峨↓縲∵э隴倥r蜷代¢縺ヲ縺上□縺輔>----』




 理解の及ばない不快なノイズが、何度も繰り返し、頭の中に響き続ける。

 なんとか理解をすることは出来ないか…そう考え、繰り返すノイズを頭で反芻する。

 それを何度も繰り返しているうちに、いつの間にか、意識は暗い空間の中へと沈み込んでいた。



『----縺昴≧縺ァ縺吶?√◎縺ョ隱ソ蟄舌〒縺----』



 先程よりも若干マシになったノイズが聞こえるたびに、黒い空間のあちらこちらに一瞬、輪郭線が浮かぶかのような赤い光が流れていくのがわかる。


 未だに意味は理解できないが、どうやら、光で描かれた輪郭線には何か意味があるようだ。

 輪郭線が何を意味しているかを理解しようと、光の流れに意識の目を凝らす。



 繰り返される光の頻度が徐々に増していき、黒い空間にはいくつもの幾何学立体が浮かんでいることが理解できてくる。

 断続的だった光が連続したそれに変わり、周りの空間がシッカリと認識できた時、始めから目の前に浮かんでいた手のひらほどの光球が、マリオンであることに気づくことが出来た。


 そちらに意識を向けると、光球が聞き慣れた声で声を上げる。



『概ね認識出来ていると思いますが、いかがですか?』


『ああ、どういう理屈なのかはさっぱりだが、なんらかの空間として認識できたようだ。ところで私の体はちゃんとあるのに、マリオンはなんで光の球になっているんだ?』


『なるほど、アリウス様はそのように認識しているのですね。マナ通信内では、空間や物には特定の形というものはありません。ですが、恐らくアリウス様が認識するために、無意識にそのような物体として認識を変換しているのだと思います。』


『なるほど。そうなると恐らく…』



 目の前に浮かぶ光球に意識を集中して、同時にマリオンの姿かたちを詳細に思い浮かべる。

 すると、光球はみるみるうちに形を変え、いつものマリオンの姿へと変わっていた。



『やはり私の認識のようだ。マリオンもいつもの姿で見えるようになった。』


『認識を変換している分無駄が多そうですが、今は仕方ありませんね。これからメインフレーム内を調査しますので、私についてきてみて下さい。』


『地面がないから動き方がなんとも…いや、なるほど、イメージした方向に進めそうだな。ふわふわとしていて不思議な感覚だが、なんとかなりそうだ。』


『はじめはゆっくり進みますので、無理せずについてきて下さい。』



そうして、暗く荒涼とした世界の中を、情報を探してマリオンとふたり、漂うのだった。



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 残念ながらこの施設のデータベースには問題があるため、電子もといマナの旅はサラッと終わります。

 ちなみに、ついうっかり電〇みたいな言葉を使ってしまったら、あ、こいつ間違えたなって思ってください。

 この世界に、電気を利用した技術は、基本的にありません。



 本当は投稿前に、マナ空間を探索するような文章を少し書き足していたんですが、次の話と整合性が取れなくなりまして…。

 ここから無理に流れを調整するとこじれそうだったため、そのままサックリ流しています。

 そのうち、マナネットワーク上を冒険するような話も書きたいですね。



 文字化けノイズは、上から順にこんな意味です。

 実際には映像や情報も含めたもっと高密度な情報を渡していますが、フレーバーとして文字化けテキストを利用しています。



「アリウス様、聞こえていますか?」

「こちらに、意識を向けてください」

「そうです、その調子です」

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