1-29.ゴーレムのお宝

「マナ結晶なさそうだってさー…」


「中心部を思い切り叩いてしまいましたからね…ごめんなさい、そこまで考慮していませんでした。」



 念のためマリオンにも調べてもらったいたのだが、どうやらやはり、ゴーレムのマナ結晶は砕けてしまっていたらしい。


 自分たちとしてはあれは只の燃料のようなものだったために特に気にしていなかったが、入手方法が限られる事も考えると、今後はもう少し気をつけたほうが良さそうだ。



「いやー…あれは私達じゃどうしようもなさそうだし、文句は言えないかなぁ。ところでこの扉っぽいやつ、開けられそうなの?鍵穴っぽいのもないし、めちゃくちゃ頑丈そうなんだけど。」



 現在はこの空間の最奥にあった、大きな扉の前に集まっている。


 扉は分厚い金属製で、どうやらかなり丈夫な機械仕掛けのロックが掛かっているらしい。

 扉の横には何らかの鍵なのだろう、スリットの付いた機械がついている。


 やろうと思えば無理やりこじ開けることも可能ではあるのだが、マリオンであれば問題なく開けることが出来るはずだ。



「恐らくなんとか出来ると思いますので、少々お待ちください。」



 マリオンが鍵に向かって手をかざすと、手首を飾るフリルの間から、細い帯が数本伸び、スリットの中にスルスルと差し込まれていく。

 そうすると、白い無地だった帯にはまるで、隠れた刺繍が刻まれていたかのように、細く赤い光がきらめくように走り出した。


 そうして数秒ほどすると、ガコンと大きな音をたて、金属製の大きな扉はスライドするように動き始める。



「お待たせしました。」

「ええ…今の何してたの。」

「…俺はもう驚かん。」

「ですね。」



 この施設は恐らく軍用なためそれなりに厳重なセキュリティが掛かっているのだが、それはあくまで一般的な技術力での話である。


 マリオンの頭脳はアリスには及ばないものの、演算器研究室にマナマテリアルとの交換で作り上げてもらった特注品だ。

 そのため、直接接続することが出来れば、この程度のロックを外してしまうことなど訳はない。


 それよりも遥かに高機能となるアリスの性能をフルに活用することが出来れば、恐らくあらゆる施設のセキュリティは無いも同然になるはずだ。

 とはいえ、現状では私のせいで、そのようなスペックを発揮するのは難しいのだが。



『アリウス様もそのうち出来るようになってくださいね。』


『正直、回路に直接接続するというのがさっぱりイメージがつかないのだが…?』


『マナ通信の延長線上なのですけどね。施設のコンピューターが生きていそうなら、後で試してみましょう。』



 不意に重そうな課題を積まれてしまったところで、ようやく扉が完全に開き、奥に埋め込まれていた部屋があらわになった。


 どうやらこの部屋は、ゴーレムを整備するための部屋であったらしい。

 壁にはゴーレムのものと思われる機械部品や、吊り下げるためのクレーン、大小様々な工具が並んでいる。


 そして部屋の奥には大きな筒状のものがいくつかと、色々な細かい文字がチカチカと輝く板が複数、壁のように並んでいる。



「なんだありゃ…あれが生きてるっていう、この施設のなにかか?」


「ええ、あれもそうではありますが、本命は恐らく上の階ですね。あれは恐らく、ゴーレムを管理している機構だと思います。とはいえ、どうやらもう動かせるゴーレムは残っていないようです。」



 チカチカと輝く板、モニターの文字に目を向けると、どうやらこの施設にあったゴーレムは全て機能を停止しているらしいということがわかる。

 現在は大量のエラーや警告が表示されているのみで、遠隔でマナを送るという本来期待されていた機能は行えていない。


 そしてチラリと、モニタの隅の文字が視界に入り、一瞬思考が停止する。



「いくつか遺跡をめぐりはしたが、こんなのは初めて見たな…。ああでも、こういう板とかは光ってないやつだったら見たことはあるな。…どうかしたのか?」


「いえ、少々気になるものが見えましたので。まぁ、後ほどより詳細がわかると思うので、今はおいておきます。ところで、こういう遺跡で見つかった高価なものって、所有権はどうなるんですか?」


「ん?ああ、そういうのは一応発見者のものってことになるな。ただ、歴史的価値が高そうなものに関してはまずはギルドと相談ってことになる。その場合も報奨が出るから、損することはないな。」


「なるほど、そういうことでしたら良かったですね。もう意味のないものですし、多分もらっても問題ないと思いますよ。」



 そう言いながら壁際の端末に向かい、モニタの下に並んでいるいくつかのボタンを操作する。

 そうするとモニタの表示が切り替わり、横に並んでいた筒状のものが音を立てて、上下にスライドするように開いていく。


 すると、そのうちの一つから、薄っすらと赤い光がこぼれだした。



「もうだいぶギリギリみたいですが、辛うじて残っていたみたいですね。」



 そこには薄いピンク色の、だが非常に透明度が高く、子供の胴体ほどもある巨大なマナ結晶が格納されていた。

 恐らく元々はこの筒全てに同様のものが設置されていたのだろう。施設内の警備ゴーレムに遠隔でマナを送るための、動力源となるマナ結晶がそこに置かれていた。



「うっそ…なにこれマジ?」


「もう驚かないと言ったんだがな…こんなものが存在するのか…。」


「もしかして…これも先程仰っていた、人工のマナ結晶というものですか?」


「はい。一部の特殊な用途を除くと、これがほぼ最大のサイズになりますね。」



 このサイズのマナ結晶となると、それなりに大掛かりな施設を駆動させるために際に利用されるものになるため、一般人がお目にかかることは早々ない。

 それが複数並べられていたとなると、どうやらこの施設はかなりの長期間維持することを目的としていたのかもしれない。


 その理由は、恐らくこの上の階に行けばわかるだろう。



「とりあえずお土産はこちらで決まったということで、情報としては恐らく上の階の方が重要になりますね。…行けそうですか?」


「すまん、ちょっとだけ落ち着く時間をくれ…」



 どうやら彼らにとっては、少し刺激が強すぎたらしい。



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 天然物のマナ結晶は赤みのある水晶のようなもので、純度や含まれるマナの量により色味や濁り、不純物が含まれるなど様々な品質があります。

 ただ、マナ結晶の性質上、天然物であってもヒビが内部に見られるということはありません。


 人工のマナ結晶は天然のマナ結晶を材料に精製したもので、不純物を取り除き、十分なマナを充填することで作られます。

 こうした結晶は見た目は綺麗なものの、逆に一切の欠点が見らず人工的な物と分かりやすいため、芸術的な価値はほぼなくなってしまいます。


 この時代では人工結晶が作れなくなっていますが、発掘品が無いわけではありません。

 そのため、これもかなりの価値はあるのですが、芸術的な価値でいうとそこまで高くありません。

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