1-28.ゴーレムの証明

「つまりお前たちは古代のゴーレムで…古代文明が滅びた理由を探している、ということか?」


「はい、概ねそういうことになります。あとは、可能であればいくつかの技術を復活させたいと考えています。」



 あれから、アッシュたちには自分たちの来歴と、当面の目標についての説明をした。

 なお、私が元々人間の男性で、何らかの理由でアリスとして生まれ変わったということは伝えていない。隠し通さないといけないことではないが、理由もなく開示したい情報でもない。



「たしかに人間離れしてるとは思うけどさ…流石にアレと一緒っていうのはよくわからないかなぁ」


「あれらのゴーレムは私達よりも数世代前の技術で作られていますので…というよりも、私達のほうが一般化される前の先端技術で作られています。ですので、ほとんど別物と言って良いかもしれません。」


「私にはあなた達は人間のようにしか見えないのですが、何かそれを証明できる証拠などはあるのでしょうか?」


「見た目に関しては、そのようにデザインされていますからね。中身も違和感が出ないよう似せてはいますが、このように内部は人間とは別物になっています。」



 マリオンに視線を送ると、マリオンはうなずき、皆に見えやすいよう一歩前へ出る。

 おもむろに胸元のボタンをはずすと、肩甲骨から胸の中心にかけて、美しい肌が表へと現れる。

 胸元を見せつける形になり、アッシュとモンドは動揺をしているようだ。

 エルは二人の目を遮るべきか、あたふたしている。


 そうして三人が慌てていると、絹のように傷一つ無かったはずの肌にはすっと切れ込みが入り、鎖骨と心臓を結ぶように、逆三角形の小窓が開く。小窓からは鈍く輝く金属製の骨格が覗き、その奥には親指ほどの太さの六角柱が赤く輝いている様子がうかがえる。



「このように、私の動力源はマナ結晶で、骨格は金属で作られております。より深く構造を見せることも可能ではありますが、あまり他人に内部を見せるのは好みではありません。こちらで納得頂けると助かります。」


「胸の中に、機械が…」


「何そのマナ結晶、そんな透明でデカいの、初めてみたんだけど」


「エル…指摘するとところはそこですか?」



 三者三様の反応ではあるが、どうやら納得してもらう材料としては十分だったようだ。

 そういえば、マリオンの動力につかっているような純度の高いマナ結晶は、この時代だと非常に高価なものになるのだったか。



「私達の時代ではマナ結晶は人工で作ることが出来ましたからね。そういえば、多分あの大型のゴーレムなら、動力は同様の人工マナ結晶を利用していたと思いますよ。」


「マジで!!私ちょっと残骸見てくる!」


「あ、ちょっと話は良いんですかエル!」


「難しい話はアッシュで良いかなって!後で結果だけ教えて!」



 ゴーレムの残骸に含まれているかもしれないマナ結晶について伝えた所、エルの興味はそちらに移ってしまったらしい。残骸に向かって走り出すエルについて、モンドもついて行ってしまった。



「あっと…ちょっと変にいじると危ないと思うので、マリオンも見てあげて下さい。」


「承知いたしました。それでは後の交渉はお任せいたします。」



 彼らとしては今のやり取りで納得をしたため、あとの交渉についてはリーダーであるアッシュに任せるということなのだろう。


 ただ、非常に申し訳ないのだが…両者の破壊方法を考えると、マナ結晶は砕けてしまっている可能性が高いだろう。ロケット弾を受けて破壊された方に関しては、胸部の中心が動力部ではなく演算器であれば、運が良ければ残っているかもしれない。



「その、すみません…マナ結晶については後で伝えるべきだったかもしれません。」


「いや、こちらこそすまない…エルには後で注意しておく。正直信じ難い内容ではあるが、見た以上は信じるしかなさそうだな。それで、君たちの目的と言うか…俺達に求めているものは、歴史に関する情報ということか?」


「はい、話が早くて助かります。」



 アッシュは粗雑なところも多いが、頭が悪いわけではない。

 そのため、おそらくは時期ギルド長はアッシュになるだろうというのが、もっぱらの噂だ。



「広域調査員として経験の深いアッシュさんたちなら、何か情報があるかと思いまして。」


「なるほどな。だがそうだな…俺が知っていることも無いわけではないんだが、そのあたりに関してはギルド長に訪ねたほうが良いと思う。何せ俺らの調査結果は全てギルド長に報告しているし、どうせこの件も後で報告せにゃならん。」


「そこでちょっとお尋ねしたいのですが、ギルド長は、信用しても問題ない方でしょうか?」


「…何か懸念点でもあるのか?」



 アッシュには、この世界の歴史についての文書を調査した結果、何らかの意図を持って歴史が隠蔽されている可能性があることを説明した。



「ああ…なるほどな。それでギルド長も隠す側の人間じゃないかと疑ったわけか。ちなみに、俺たちもそっち側だとは疑わなかったのか?」


「アッシュさん達の評判や今まで付き合ってきた中での総合評価ということにはなるのですが…最終判断としては、縁ですかね。私達が初めて会った現代の人間がアッシュさん達でしたので、なんとなく信用したいなと。ちなみにですが、ただ良くわからない現状について知りたいというだけで、別に隠されているからどうしようというつもりはありません。」


「ああ、それは嬉しいな。本当に嬉しい話だ。だが、そういうことならなおさらギルド長に尋ねるべきだと思うぜ。なにせ、ギルド長もそれを調べようと思って俺たちを色んな遺跡に派遣してたからな。」


「そうなのですか?」


「ああ、何でもギルド長だけに伝わる資料があるらしくてな。俺も一部を読ませてもらったことがあるんだが、禁足地…お前たちの生まれた場所なんだっけか、そこについての記述もいくらかあるらしい。それで伝わっている歴史が変なことに気付いたらしくて、古代文明について遺跡を中心に調べようと思ったらしい。お前たちの話を聞かせてやれば、喜ぶと思うぞ。」


「ありがとうございます。それでは、帰ったらギルド長に相談ですね。」


「ああ、だがこの遺跡はどうする?出来ればここの調査を済ませてからにしてくれると助かるんだが。」


「ええ、そちらに関しては私達も調べたいと思っていましたので、ちゃんと調査は済ませるつもりです。

 そういう意味では幸運でした。」



「この遺跡、どうやらまだ設備が生きているようですから。」



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 マリオンの体は各部にメンテナンス用のハッチがあります。そのため、マリオンの同意があればいろいろな場所から内部にアクセスできます。最初にアリウスが開けていた胸や頭部のロックもメンテナンス用ですが、マリオンの意識がある場合は、同意がないと開けられません。

 本来は三月に一度程度のメンテナンスが必要ですが、現在は夜間にアリスが各部の補修やマナの充填を行っているため、連続稼働しても問題がなくなっています。

 アリスも含め本来は睡眠は必要ありませんが、夜中にやるべきことも特にないため、基本的にスリープ状態で待機をしています。



 アリスの体には機械的な構造は、脳幹にあたる霊視演算機と、心臓にあたる新型マナリアクター以外にはありません。それ以外の構造は骨も含めてすべて、マナマテリアル製の強化疑似生体部品となっています。それらの部品もすべて、リアクターからのマナを利用して常に修復が行われるため、完全メンテナンスフリーを実現しています。

 そのため、アリスの体にはメンテナンス用のハッチが無く、緊急時はアリウスがマナマテリアルを操作することでアクセスをするつもりでした。

 アリウスが生前のマナマテリアルを操作できなくなり、かつアリスの体を開けられるような機材も得られない現状では、アリスの体の中をのぞく手段はありません。

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