1-27.アリスとゴーレムの舞踏会

「マリオン、無理しない程度に小さいのを減らしてください。大きいのは、こちらで片付けます。」


「承知しました。アッシュさんたちは、私の後ろへ下がっていて下さい。」



 会話も難しくなるような銃撃音が響く中、メイド服の各部から伸びる帯…副腕を高速でうねらせることで全ての弾丸を弾きながら、まるでそれが些事であるかのように淡々と分担を決める。



 直前、アッシュが全員を守るように前に出ようとしたのだが、恐らく無駄死になるだろう。

 一瞬で布でぐるぐる巻きにされ、今はマリオンの背中に背負われるような形で吊るされている。


 エルとモンドも武器を構えていたが、マリオンが何の問題もなく全ての攻撃を弾いている姿を見て、大人しく後ろで見学をすることにしたらしい。


 実際、アッシュも含めて銃撃という攻撃手段を見るのは初めてなため、何か不可視の攻撃を受けているが全て弾かれている、程度にしか理解は出来ていない。



 向こうは特に問題はなさそうなため、こちらは遅れて起動を完了しようとしている、大型のゴーレムを観察する。



「軍用の大型ゴーレム。たぶん拠点防衛、もしくは拠点攻撃用といったところですね。武装は機関砲が全身に8門に、両腕はそれ自体が大型のキャノン、背面にはおそらくミサイル。開発は…多分P1技研ですね。ロマンも技術力も足りていません。」



 警備用ゴーレムと同じく記憶にはないモデルなのだが、各所の意匠や設計に、かつての軍事企業の面影を感じる。



 無骨で、強力で、実用性第一。

 軍事用として防衛戦の突破や拠点の制圧を目的としているのだろう、過剰とも思われる攻撃力に、強固な装甲を兼ね備えている。


 単純で、技術力不足で、設計センスがない。

 要求スペック達成のために無理やり設計を変えたのだろう、重量が増したことで当初の二足歩行を諦めたらしく、補助脚と追加の無限軌道まで装備されていた。



 一応はこれでも私が基礎開発した技術を用いているはずなのだが、アリスに比べてしまうと、数世代前の技術である。


 これはこれでロマンを感じて嫌いではないのだが、いまいち古臭い感じは否めないし、私ならもっとこうするというアイデアがどんどんとあふれ出す。

 何より、以前協力を求められたさいに指摘をしたはずの構造的欠陥に、一切の改善が見られない。これでは、折角の重装甲も宝の持ち腐れだろう。



 さて、あちらの起動が完了するまでゆっくりと観察を続けていたが、どうやらようやく戦闘準備が完了したらしい。


 さすがにいきなりキャノンを撃つということはないらしく、まずは全身に配置された機関砲を、この場の全員に向けようとしているようだ。だが、こちらで片付けると言った以上、まずは私だけに注意を向けなくてはならない。



 丁度、私と奴らの間には先程天井をぶち抜いた際にできたガレキの塊が転がっていた。

 成人男性の胴体ほどもあるガレキを、まるで空気で膨らませたボールであるかのように、ポンとつま先で跳ね上げる。バレリーナのようにその場でクルリと回り、横薙ぎに勢いよく蹴り飛ばす。

 蹴り飛ばされた瓦礫のボールはまるでロケット砲のような勢い飛び出すと、左手奥にいるゴーレムの胴体部へと着弾する。

 瞬間、まるで爆発のような轟音が、広い部屋の中へとに響き渡った。



 ガレキの衝突したゴーレムはまだ壊れてはいないようだが、衝撃で体勢を崩してしまい、機関砲のいくつかはひしゃげてしまっている。装甲表面は無事なのだが、衝撃で内部に歪みがでたらしく装甲の隙間が開き、かすかに内部構造がのぞいてしまっていた。



「フレームと装甲が丈夫でも、接合部の耐久性が足りていない。だから言ったじゃないですか。」



 右手側のゴーレムは、その本来ありえないような現象を確認し、優先度を変更したらしい。

 こちらを正面に見据えると、全身の機関砲を全てアリスへと向ける。


 肩の装甲が上にスライドするよう開くと、内部に隠されていたロケット弾らしき弾頭が姿を見せる。

 そして照準がついたと同時に、8門の機関砲と肩のロケットが、同時に火を吹いた。



 さて、別にあれを全て撃ち込まれたところで、私の体への損傷は、恐らくなにもない。

 だがロケットの直撃を受ければ衝撃で吹き飛ばされるかもしれないし、なにより流石に、コーティングのない今の服ではひとたまりもない。

 物理的に全て弾くことも可能ではあるのだが、あまりスペック任せの体術だけでどうにかするのもスマートではないかと思い、まずは魔法で対処することにする。



 銃弾は全て、正面から向かってきている。

 自身の正面から右脇に向かって逸れるように、空間の流れをねじまげ。

 ねじれて流れた空間をそのまま、背面をぐるりと廻るように迂回させ。

 出口を、先程ガレキを蹴り込んだ左手側のゴーレムへと向かうように誘導する。

 頭の中で捻れた空間のイメージを更に詳細に補強していき、魔法を発動させる。

 指輪も、詠唱も、必要ない。

 強いイメージさえあれば、魔法は発動できるのだから。



「とりあえず、お返ししますね。」



 そうして私に向かって勢いよく叩き込まれた弾丸は、物理法則を完全に無視するように体の周りを旋回すると、体勢を戻そうとしていたゴーレムへと一斉に向かう。


 銃弾は歪んでいた胴体正面に着弾し、甲高い衝突音と火花とともに、徐々に装甲がひしゃげていく様子がわかる。そして、遅れて飛んできていたロケット弾も同様の軌道をとり、完全に内部の機械構造が覗いてしまっていた装甲の隙間に着弾。

 一瞬の強い光と爆音が、室内を照らす。



 閃光が収まると、どうやら当たりどころが悪かったらしい。胴体正面の装甲は完全に吹き飛んでしまい、そのグシャグシャに崩壊した内側からは大量の火花を吐いて、その動作を停止していた。



「重装甲、高火力がコンセプトだと思うんですが、脆すぎじゃないでしょうか。もうちょっと同じゴーレムとして、良いところを見せてほしいんですが。」



 P1技研は量産コストという観点では悪くないと思うのだが、もう少し品質を気にしたほうがいい。

 別に嫌いなわけではないのだが、同じ分野で働く人間として、もうちょっと努力をしてほしいと、そんなことを考える。



 どうやら、いよいよ本気で攻撃をする事にしたらしい右手側のゴーレムが、両腕の大口径のキャノンをこちらに向けようとしているのが視界に入る。

 子供の頭ほどもある大きさの口径のキャノンをこんな地下で利用すれば、施設にも相応の被害が発生するだろう。おそらく、よほどの緊急時以外では施設内での使用を禁じられていたのだろう。


 あれも同様に空間を捻じ曲げれば叩き返すことが出来るのだが、あまり施設…まだ調査が完了していないこの遺跡を大きく破壊はしたくはないし、なによりこの閉所での発射音はとてつもなくうるさそうだ。

 それにまだ地味な魔法しか見せていないため、もう少し派手なところを見せておきたい。



「とりあえず、砲は潰して」



 指輪をはめている右手をゴーレムに向ける。

 ゴーレムの両腕、前腕がそのまま伸びたかのような長大な砲身部をつかみあげ。

 飴細工のように、ぐるりとねじまげるイメージ。


 通常、魔法を発動する際は発生場所が遠くなるほどに発動が難しくなり、高い効果も出しにくくなる。だがそれも、マナに働きかけるだけの強力なイメージさえあれば、それなりにロスはあるものの発動することは可能である。


 つまり、この頭の演算能力に、イメージを強化するための体の動きと、指輪にはめたマナ結晶による補助、それらをすべて組み合わせれば、この通り。


 こちらに狙いをつけようとしていたゴーレムの両椀のキャノンは、ねじり潰すような手のひらの動きに合わせ、ギシリギシリと不快な音を立てながら、火で炙られた樹脂のようにネジ曲がっていく。



「後は、叩き潰す」



 両腕の砲が使えないと判断したゴーレムが動きを変えようとしたところで、間髪入れずにゴーレムに向かって、高速で飛びあがる。

 先程までアリスの立っていた地面には大きなヒビが入り、その体は先程のロケット砲よりも早く、ゴーレムの頭部直前に浮かび上がっていた。


 魔法により慣性をいじり、直前までの運動を、回転へと変化させる。

 同時に重力を操作し、自身の重量を100倍、数トン程度へと引き上げる。


 髪を振り回しながら空中で高速で縦回転をすると、握れば折れてしまいそうなくらいに華奢な脚による踵落としが、ゴーレムの脳天へと直撃する。

 瞬間、先程のロケット弾による爆発よりも大きな衝撃音と、同時に発生した衝撃波により地下室全体がビリビリと揺れる。



 ともすれば逆に脚の方が千切れ飛んでもおかしくない勢いであるが、アリスは踵落としを決めたポーズのままに完全に空中に静止しており。

 逆にゴーレムの方はまるで高空から落下してきたカエルかのように、潰れて地面へとめり込んでいた。



 重力がその働きを思い出したかのようにアリスは落下を始め、まるでちょっとした段差を飛び越えた後かののように、可愛らしい動作で着地をする。


 少し砂埃がついていたスカートを軽く手ではたき、一言。



「それではお掃除がすみましたので、説明をさせていただきますね。」



 丁度、マリオンが最後の一体の首を帯でねじ切ったところで、襲いかかってきたゴーレムの掃討が完了した。



======================================



 ぅゎょぅι゛ょっょぃ。

 TSと同じくらい好きなジャンルです。

 戦闘描写って結構好きなんですが、尺が稼ぎづらくさっくり終わりがちです。



 P1技研は、かつての軍事産業です。

 親会社では以前より戦車の開発などを行っていましたが、機械化ゴーレムの登場により新しくゴーレム専門の子会社として立ち上げたのが、この技研です。P1は親会社「パンツァーワン」の略となります。

 技術協力としてアリウスにアドバイスを求めましたが、あまりに話がかみ合わず、自然と疎遠になりました。


 そもそも、アリウスはマナマテリアルの存在を前提で話をしていたため、指摘をしていた点も別に欠点というほど欠点ではありません。

 コスト、量産、整備性といったことを重視していたため、ロマンが全てというアリウスのスタイルとは真逆だったというのも相性が悪かった原因になります。


 このゴーレムのスペック自体は十分に強力なものでしたが、あまりに相手が悪すぎました。



 なお、これはフレーバーテキストなので、たぶん再登場はしません。

 フレーバー考えるの、楽しいですよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る