1-26.穴の中の大広間

 その穴の中は、完全な暗闇だった。

 光源は天井にぽっかりと開いてしまった穴以外にはなく、広さがどのくらいあるかもわからない。

 目を凝らすと遠くにチカチカと瞬く光が瞬いており、まるで星座のようである。



 そんな暗闇の中に、天上より光を背負いながら、一人の少女が舞い降りてくる。

 輝く黄金色の髪をふわりと広げながら、重力など忘れてしまったかのようにゆっくりと降下する様子は、まるで神か天使のようだ。


 そして、暗闇の中にかろうじて照らされた硬質な床に、音もなくふわりと着地をする。



 天井からの高さは20mほどだっただろうか、建物の地下には地上部と同程度の、かなり広大な空間が存在していた。

 周囲には何もないように見えるが、遠くの壁面には、いくつかの計器が発する光が見えている。

 その光は徐々に数を増やしており、いままさに施設が息を吹き返そうとしている様子が見て取れる。



「うおお!どうなってるんだこれ!」


「くらっ!たかっ!こわっ!!」


「女神アイリス様、私達をお護り下さい…」


「暴れても良いですが、ずり落ちないようにご注意ください。」



 アイリス教、まだ残っているんだな…そんな事を考えながら、マリオン達が遅れて降りてくるのを底から見上げる。


 マリオンはその紫がかった黒髪やメイド服のスカートをはためかせ、周囲に風を巻き起こしながらゆっくりと降下をしている。

 そしてアッシュ達3人は、マリオンのフリルやスカート隙間から伸びた帯状の布に巻き取られ、まるで意思を持ったツルにつるされたかのような状態だ。



 マリオンは仕組み上、魔法を発生させることは出来ないのだが、予め組み込まれたマナを利用した機構を利用することは出来る。

 今飛んでいるのは、メイド服の内側、普段は布地の間に隠れるように設置された、マナにより風を吹き出すことで推力を得る推進器によるものだ。

 これを利用することで、持続時間はあまりないものの、短時間であれば自由に空を飛び回ることも可能である。



 そしてアッシュ達を掴んでいる布は、同様にフリルやスカートの隙間に隠して折りたたまれていた、副腕だ。

 一見ただの布の帯にしか見えないが、実際にはマナマテリアル製の高度に制御可能なマニピュレーターで、高い耐久性と出力を持っている。

 どちらも今回の試験に合わせメイド服に組み込む形で作製しておいた、身を護るための装備である。



「おい、アリス!どういうつもりだ!説明しろ!」



 マリオンに地面に下ろされたアッシュが、こちらに事情の説明を求めてくる。

 とはいえ、暗闇の中なためアッシュたちには見えていないだろうが、恐らく説明をするのはもう少し後になるだろう。



「説明の前に、恐らくこの場のお掃除が先になると思います。これが落ち着いたらちゃんと説明しますので、しばらくジッとしていて下さい。」



 アッシュはまだ何かを言おうとしていたが、一斉に辺りを照らす照明がついたことで、とっさに武器を後方へと構えた。

 この切り替えの速さは流石のプロだなと思う。

 まぁ今回はマリオンがしっかりと守るため、出番はないと思うが。



 明かりがついたことで、この空間が細長い直方系の空間であることがよくわかる。

 先程建物の中央付近を踏み抜いて落下してきたためか、今いる場所も丁度地下室の中央付近になるようだ。

 片側は奥に行く連れて天井に近づいていくようにスロープ状になっているため、恐らくその当たりの天井が開くようになっているのだろう。

 もう片側の奥にはポッカリと空間が空いており、もしかするとそこには航空機の類が格納されていたのかもしれない。


 その更に奥は管制室なり司令室なりになっているらしく、高い壁の上面がガラス張りになっている。

 その壁の下側には扉やシャッターがいくつかついているため、おそらくそのあたりから出入りをするのだろう。



 そして両側面の壁には上層に向かうためであろう大きな扉と、間隔を開けて数体ずつの警備ゴーレムが、壁面に埋め込まれるように並んでいた。

 そして一番スロープに近い側の壁には、地上では遭遇しなかった大人3人分ほどの背丈がある巨大なゴーレムが左右に一体ずつ鎮座しており…丁度今、起動したところのようだ。



 巨大なゴーレムが動き出したのとあわせるように、両壁面に埋め込まれていた警備ゴーレムも押し出されるように部屋の中に飛び出すと、折りたたまれていた手足の展開を始める。



 さて、果たして警告はあるのか。交渉の余地はあるのか。

 その答えは、展開が完了し一斉にこちらを向いた警備ゴーレムが機関砲が放ったことで、解が得られた。



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 暗闇に光指す中、光を背負い天から降臨する美少女。

 アリスちゃん is GOD…そんなイメージです。

 この辺りは一番ノリノリで筆が進んでいた部分です。



 マリオンがこの調査のために用意していた装備は、ガントレット、推進器、サブマニピュレーターで全てです。

 一応ガントレットにもまだ隠し機能があります。

 ちなみに隠しというほどではないですが、ガントレットだけを飛ばしてロケットパンチもできます。

 ですが普通に殴ったほうが手っ取り早いため、おそらく使われることはありません。



 この大型のゴーレムは、警備用ではない、兵器としての軍用ゴーレムです。

 この世界での無人戦車のようなものに相当します。

 当然、本来は人間が生身で相手をするようなものではありません。

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