1-25.穴の中のゴーレムを追いかけて
「あの姉ちゃんも、大概規格外だな…。」
「まぁ、アリスちゃんのお姉さん…だしね。」
進む通路の先にゴーレムを見つけると、マリオンは音もたてずに、飛び出すように素早く走り出した。
頭部カメラが向くよりも早くゴーレムの背後に回り込むと、跳ねるようにその背に飛び乗り、着地するそのままの勢いで首の根本に手刀を叩き込む。
ガントレットで覆われた前腕はまるでボール箱にナイフを突き立てたかのようにブスリと突き刺さり、中ほどまで深く突き刺さった前腕を、内部をかき回すようにぐるりと回す。
ずぶりと腕を引き上げると、ゴーレムの頭部と、その根本のあたりに埋め込まれたゴーレムの頭脳、マナ演算器が、まるで魚から内蔵を取り出すかのように胴体からえぐり出される。
頭脳を強引にかきだされたゴーレムはガタガタと痙攣していたが、演算機のコードを強引に引きちぎると、糸の切れたマリオネットのように全身から力が抜けて完全に停止した。
「構造さえ分かれば、脆いものです。慣れればアッシュさんでも簡単に倒せると思いますよ。」
「無茶を言うな…俺じゃそんなに素早く動けん。」
「弓で狙うならどのあたりが良いとかあるかな?」
「強いて言うならば、レンズ…目の部分を狙って注意を引いたほうが良いかもしれません。」
「へー、あれってレンズっていうんだ。的が小さいから結構難しそうだなぁ。」
「もし壊せても死ぬわけではないので気をつけてくださいね。」
モンドに至っては、もはや達観したような顔で、その一連の流れを眺めている。
だがモンド、おそらく足を止めるのは、君の役割だぞ。
これまでに10体と少しのゴーレムと遭遇をしたのだが、どうやらどれも状態は良くなかったらしい。
脚部のクローラーはすっかり摩耗してしまい、恐らく補助の移動手段であるはずの4足歩行で移動することしかできなくなっていた。
懸念していた両腕の機関砲もとっくに錆びついているらしく、重量を生かした体当たりか、両腕を振り回す程度の事しかしようとはしてこない。
どうやら軍用の耐久性で未だに動くだけの事はできたものの、長期間の駆動と経年に寄る劣化は防ぎきれなかったらしい。
「もう少し保存状態が良ければ危険な相手だったかもしれませんね。この遺跡自体の状態が悪くて助かりました。」
現在は遺跡中央の大きな建物の中にいるのだが、どうやらこの場所はなんらかの倉庫だったらしい。
内部は必要最小限の柱のみが存在するドーム状の空間になっており、そこらかしこに朽ちた鉄骨や、物資を収納する金属製のコンテナだったと思しき鋼板が積み上がっていた。
ドームの天井には朽ちた部分から崩落が進んだのか大きな穴が空いてしまっており、整然と積み重なっていたであろう物資も崩れてしまったために、なかば巨大なゴミ捨て場のような有様になっている。
警備用のゴーレムが元々の巡回ルートを確保するようにガレキを寄せたのだろう、ゴミ山には通路のようなものができており、そこをゴーレムがぐるぐると巡回をしている状態だった。
そしておそらく、建物を外縁からぐるりと回るように進んでいたため、今つぶしたのが最後のゴーレムである。
「さて、これでこの建物は全て回り終えたし、とりあえずの安全確保は完了だろうな。若干肩透かしだった気もするが、結果論と言うか、嬢ちゃん達の実力がそれだけだったということだろう。後は報告のために建物の構造や遺物の調査を進めてもらうわけだが…まぁそっちはどうとでもなるな。」
どうやら、審査としてはここまでの活動でもはや問題ないと判断されたようである。
後は遺跡の構造や遺物についてのレポートをまとめれば、調査は完了だろう。
だが、わたしとマリオンはまだ遺跡に調査をしていない部分が残っていることに気が付いていた。
『ゴーレム達の動力源だが、マナの遠隔供給が生きていたな。そうなると、恐らくまだ地下に施設が残っている。このあたりは物資の集積場のようだし、重要なものがあるとしたらそちらだろう。』
『ゴーレム達の巡回ルートと建物の構造から推測するに、外縁の数箇所に地下への通路がありそうです。ただ、物資が崩れて瓦礫の山になってしまっているせいで、どこも埋もれてしまっているようです。北東の1箇所だけは多少の手間で通路が開けそうですが、どうしますか?』
少なくとも地面が崩落している様子は見られないため、地下の状態は地上よりもう少し良い可能性がありそうだ。
そして恐らく、警備ゴーレムを制御するための装置があるということは、地下ではより重要な施設や情報が見つかる可能性が高い。
だがそのかわり、施設の状態が良いということはつまり、より状態の良いゴーレムが生き残っている可能性もあるということだ。
もしも地下という閉所で機関砲の生きた個体と遭遇することがあれば、危険度は先程までの比ではないだろう。
『周辺施設は宿泊施設や警備の詰め所で、大した情報は見つからなそうだ。そしてこの地上の倉庫部分も…この様子では調べたところで重要なものは出てこないだろう。そうなると、是非とも地下の施設は調査をしておきたい。』
『ですが、彼らが同行したままで潜るのは少々危険ですし、私達の調べ物をするのには不都合がありそうです。後日またこちらに来るのはどうでしょうか?』
『それでも良いのだが、勝手に遺跡に来るのが許されるかが少々不安だな。それと…先日から少し考えていたんだが、彼らに、こちらの事情を話しても良いんじゃないかと考えている。』
『よろしいのですか?』
『元より、明かせない秘密というわけではないしな。それに彼らはベテランの広域調査員だ。もしかするとなにか知っていることもあるかもしれない。』
『なるほど…承知しました。アリウス様がそうするべきとお考えなら、反対はいたしません。』
よし、マリオンの同意も取れた。
ところで、今の世界では初めて事情を明かす相手になるわけだが…さて、どう話を切り出したものか。
いきなり、私達は旧文明の…だとか、実は二人共ゴーレムで…などと言ったところで、信じてもらえるとは思えない。
真面目に証拠を積み重ねて話をすれば納得してもらえるとは思うのだが…折角の機会だ、ちょっとしたサプライズもいれてしまおうか。
どうせ元々、初めて会った際に色々とボロを出してしまっているのだ。
そして正直な所…彼らは何も訪ねては来ないが、こちらがなにかを隠していることに気付いているフシがある。
そうであれば、私達の本来の能力を見せることが、ちょうどいいのかもしれない。
「アッシュさん、エルさん、モンドさん、ちょっとよろしいですか?」
「なんだ、嬢ちゃん。何か気になるものでも見つけたか?」
「はい。この施設にはまだ、地下部があるようです。そして恐らくですが、この地上部よりも重要性が高く、かつ危険性もとても高いです。ですので…マリオン、彼らの守りはおまかせしますね。」
「承知いたしました。お三方は、極力私から離れないようにしてください。」
今までの姉妹というロールを捨てたことで、彼らの表情がこわばる。
「おい、嬢ちゃん、なにかするつもりなのか?」
「はい、詳しくは後ほど説明をさせていただきますが…少々、デモンストレーションをさせていただきたいと思います。」
ちょうど今、私達はこの建物の中心部分に居る。
そして先程、軽く靴で床を叩いた反響音で施設全体の構造を推測してみた所…この下には大きな空間、恐らくは何らかの格納庫が存在しているらしい。
そこに強引に侵入を試みれば、動いているゴーレムだけでなく、待機状態で保存されていた劣化の少ないゴーレムも襲ってくるだろう。
先程よりも強めに力を込めて、再度爪先で床をノックする。
アリスの爪先を中心に放射状にヒビが入り。
ボコリと音を立てて、全員を巻き込むような、巨大な空洞が足元へと開いた。
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マリオンは高速でピョンピョン飛び跳ねながら首をすっぽんすっぽん飛ばしています。
ヴォーパルですね。
…別に兎要素は持たせていなかったので、今になって、時計でも持たせておくべきだったかなって思いました。
まぁそもそも、マリオンはイメージカラーが黒と赤だからダメか…。
なお、アリスのイメージカラーは金と青、それに白です。
本来のヘッドブリムにはウサギの耳を模した飾りがついているため、白兎要素もこちらになります。
そのヘッドブリムや紐と布の中間のようなものは、ポーチの奥底にしまわれています。
ついでのおまけに、受付のティアラさんのイメージカラーは緑と黄色です。
事務員は緑色と、古事記にもそう書いてあります。
たまにスタミナを回復するような不思議なドリンクをプレゼントしてくれる…かもしれません。
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