1-24.はじめての遺跡調査

「さて、あの丘の下に見えるのが今回の調査対象になる遺跡だ。ここから先、俺たち3人は基本的にお前さん達の指示に従って動く。お手並み拝見といかせてもらうぞ。」



 打ち合わせの翌日、物資の買い込みを済ませた一行は、パイオンの街を出発した。

 道中は特にトラブルもなく、1日目の夕方には遺跡近くに到着していたため、その日はそこで野営を行っている。


 どうやら野営の仕方についても試験の評価対象ではあったらしいのだが、魔法を使って数メートル平方の藪を切り払い、適当な樹木を切り出して簡易の防壁を組み立て始めたあたりで、もう評価は必要無いと判断したらしい。その後は3人も一緒になって作業を行い、早々に野営地は完成した。


 その後、モンドが土の魔法で同様の事を出来るようになれと要求されていたため、是非とも頑張っていただきたい。実際、風を使った魔法の縛りが無ければ、もっと楽に出来ていただろう。



 そして翌日。

 野営地から数分進んだ丘の上から見下ろすと、窪地に隠れるように遺跡の建物が現れていた。

 なかば森に埋もれるようにして、大きく平べったいドーム状の建物が一つと、それを取り囲むように数階建ての建屋がいくつか周囲に見える。



『この場所が何かはわかるか?』


『位置としては、デトロフの街のはずれのようです。詳細な地図ではありませんが、記憶にあるマップではこのような大型の施設の記載はありません。』



 マナ通信が絶たれているため最新の情報ではないが、マリオンの頭の中には昔の街並みの地図がまだ残っている。そこにこのような建物の記録はないということなため、どうやらこの施設はあの事故よりも後に作られたものらしい。


 そして、この高台からは既に、動作を停止しているらしきゴーレムを1台うかがうことができた。



『記憶にはないものだが…武装があるようだし、恐らく軍用モデルだな。技術的には当時とあまり変わらないように見える。』


『武装は両腕部に機関砲と、脚部にクローラーが見えます。警備用のようですが、どの程度動くでしょうか?』


『わからん…あれは朽ちているようだが、建物内にまだ居るとすれば、もう少し状態がいいはずだ。機関砲が動くとなると厄介だな。』



 現状ではゴーレムの危険性が読めない以上、1人は常に同行者の守りについていたほうが良さそうだ。

 そうなると、現状明かせる手の内の関係で、私が護衛に付く必要がある。

 守りに関してはマリオンに持たせた装備のほうが優秀なのだが、あれらはあまりに性能が高すぎる。



「それではこれから遺跡に向かいますが、立ち位置を調整させてください。前方にはマリオン、中ほどには同行していただいている三人を、そして私が後方に付きます。お三方は、極力私とマリオンの間から出ないようにしてください。」


「俺は前に出ないと特に出来ることが無いんだが、中衛で良いのか?」


「はい、前方の索敵と対応はマリオンが、周辺の警戒は私が行います。接敵した場合も、極力前に出ないようにお願いします。」


「む、そうか…分かった、従おう。」



 残念ながら、生身の人間を前に出す訳にはいかないのだ。

 もしも機関砲がまだ動作した場合、至近距離からそれを受ければひとたまりもないだろう。

 多少不快感をもたれてしまったかもしれないが、怪我人を出すよりはいい。



「前衛はお任せください。こう見えても、近接格闘の心得がありますので。」



 マリオンは普段は利用しない、前腕を覆うような、金属製の大きなガントレットをつけている。


 このガントレットは実のところ…通常用途としては只の見栄であり、ナックルガードに過ぎない。

 なんでも以前に創作で読んだ戦うメイドが使っていたということで、このような形がよいと要望を受けたものだ。マリオンは意外と、そういった娯楽作品を好んでいた。


 他には、人体を急所を覆うように金属の鎧を各所にまとっているが、これも完全な見栄で、こちらはただの金属板である。


 実際にはその内側のメイド服自体に追加のマナコーティングを施しており、防御性能としては完全にそちらに頼っている。マナマテリアルを利用してのコーティングはその性質上、マテリアルへの還元ができなくなるのだが、マリオンの身を守るためには必要な経費だろう。


 実はそれら以外にもいろいろと隠し持たせているのだが、必要性が生じるようなことがなければ、今回使うことはない。



「周辺の警戒と、後ろからの相手の対応は私が行います。お三方は極力私達の間から動かずに対応を行ってください。」



 そうしてまずは、建物の正面と思われる場所で朽ちている、ゴーレムの場所へと向かうこととした。


 近づくに連れて詳細がはっきりとが見えてくるが、このゴーレムは雨風に長い間さらされていたのだろう。内部までぼろぼろに朽ちてしまっており、案の定動きそうにはない。

 周りを警戒するが、動くものは見当たらないため、とりあえずここは安全のようだ。



「こいつが例のゴーレムか…デカいし、重そうだ。まともに力比べは厳しそうだな。」


「これ全部金属製かぁ…弓じゃどうしようもないよね、これ。」


「岩を当てれば効果はあるかもしれませんが、致命打を与えるためにはかなり大きくしないと厳しそうです。」



 付き添いの三人は、それぞれの感想を述べる。

 たしかに、三人の装備でまともにこれの相手をするのは、少々心もとないだろう。



「遺跡を見つけた調査員の方は、動くゴーレムを見つけたために逃げたとのことでしたね。それがこれのことであればよいのですが、他に居ないとも限りません。引き続き注意して調査しましょう。」


「そうだな。こんなのが何体も居るとは思いたくはないが…この広い遺跡に1体だけというのも、考えづらいか。」



 そしてもちろん、わたしとマリオンは、とうに気付いていた。

 この遺跡の建物…その中には、少なくとも10体近くのゴーレムが、まだ生きている。



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結局、ナノマテリアルはすべてマリオンの装備につぎ込みました。

アリスはその基礎スペックだけでどうとでも出来るため、応用力にかけるマリオンを強化する形で、いろいろと持たせています。



見た目上は格闘用のガントレットだけですが、実際にはいろいろなこの時代におけるオーバーテクノロジーなものを隠し持っています。

それらはすべて、同行者三人、およびにマリオン自身を守るためのものです。



マナコーティングは物体にマナを染み込ませたうえで「この物体は不変である」というイメージを植え付けたものです。

「なんにでも変化する」というマナマテリアルの性質とは相性が悪く、一度コーティングに利用すると再利用できなくなってしまいます。


体に付与をしなかったのは、彼女たちの皮膚は形を作る時点で特殊加工を行う必要があるためです。

もしも追加で皮膚表面にコーティングを行うと、感触は柔らかいのに表面は硬質感があるという、不思議な触感になってしまいます。

マナマテリアルは本来、この矛盾する性質を持った肌を実現するために開発されたものです。



ゴーレムの見た目は、例えるならターミネーターのT-100みたいな感じです。

4つのクローラーを持ち、クローラーを脚代わりにすることで4脚歩行も可能です。

軍事用のゴーレムはEMP兵器のようなものを防ぐため、マナコーティングが施されています。

ただし警備用のもの程度では簡易なコーティングなため、劣化は防ぎきれませんでした。

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