1-23.ゴーレムの影
「久しぶりだな、お嬢ちゃん達!」
「お久しぶりです。随分と活躍しているそうですね。」
「久しぶりだねー。やっぱり流石って感じらしいね。」
あれから更に2月後。
広域調査員の実地試験の打ち合わせのため、待ち合わせ場所として指定されていた会議室に入ると、およそ数ヶ月ぶりとなるアッシュたち3人の姿があった。
なんとなく予想はしていたのだが、どうやらこの3人が今日からの試験に同行する広域調査員となるらしい。
「お久しぶりです。アッシュさん、モンドさん、エルさん。」
「ご無沙汰しております。本日はよろしくお願いいたします。」
「おー、嬉しいね。ちゃんと名前覚えてくれてたか!」
「エルはすぐに名前を忘れますからね…お二人の名前、ちゃんと言えますか?」
「そりゃぁ…アリスちゃんと、マリオンさんだよね?合ってる?」
「エルにしては珍しいな、ちゃんと覚えてたのか。」
「酷くない?そりゃぁまぁ、何度かご飯も食べに行ってたし、覚えるよ!」
エルは初めて会った際はこちらをとても警戒していたのだが、現在ではすでに打ち解けていて、何度か甘いものを食べに行った仲である。
その後彼らが街を離れてしまったため随分と久しぶりではあるが、流石に名前を忘れられてしまっていたらショックである。
ちなみに、最初の頃は何度か名前を間違えられていた。
「皆揃っているようだな、それでは今回の広域調査員試験について説明をする。」
久しぶりの再会を楽しんでいると、ギルド長と、資料を抱えたティアラさんが部屋へと入ってきた。
資料を全員が受け取り、今回の調査についての説明を聞く。
今回の試験は、この5人で未調査遺跡の調査を行うこととなる。
調査期間は1週間で、街から少々離れた場所になるため泊まり込みでの調査となる。
試験は2人の能力を見るのが目的となるため、試験管として同行する3人が率先して動くことはない。
仮に調査によって発見が無くとも問題はなく、試験はあくまで能力を見極めるためのものである。
緊急事態の場合は中断が可能で、その場合は同行員と協力して解決すること。
「そして今回試験場所となる遺跡だが、2年ほど前に発見された、パイオンから北西に半日ほど進んだ場所にある遺跡になる。」
「なに?あそこはゴーレムの存在が報告されていたはずだが、そこで試験を行うのか?」
「ああ。彼女たちの能力であれば、問題ないと考えている。というよりも、アリスくんたちでなければ、調査が難しいかもしれないな。」
「そりゃあ、試験で使うような場所じゃないだろう…。そうか、元々試験というよりは、試験を兼ねた調査をさせるつもりなんだな?」
「ああ。正直な所、彼女たちの能力であれば本来試験など不要なのだ。とはいえギルド間共通の規則である以上、私の一存で試験を免除することは出来ない。であれば、どうせそのうち調査を依頼するであろう遺跡を割り当ててしまおうと思ってな。」
どうやら、わたし達はギルド長からはとても能力を買われているらしい。
確かに、最近対応していた仕事は長年放置されていた難しい依頼が多く、焦げ付いた依頼を任せる適任と思われている節も感じなくはない。
それにしてもゴーレムか。
書物からそう呼ばれる魔物が居ることは分かっていたが、実際はどのようなものなのだろう。
おそらく想像している通りのゴーレムではあるのだが、あれは作りによって性能がピンキリなのだ。
本来のゴーレムは土塊から作られたものだが、私の時代では複雑な機械仕掛けのものへと進化をしていた。
そのゴーレムにしても民生用から軍事用まで様々なモデルがあるため、場合によっては脅威となる可能性がある。
「ゴーレムが居る、とのことなのですが、それはどのようなものかはわかりますか?」
「ああ、それは資料の後ろの方にも記載しているが、金属製の人の背丈ほどのものであったらしい。遺跡を見つけた調査員はその姿を見て直ぐに逃げ帰ったらしいので詳細は不明だが、まともに殴り合ってどうにかなるとは思えない、とのことだった。対応できると思うかね?」
「正直見てみないことにはなんとも、ですね。場合によっては逃げ帰るかもしれません。」
「ああ、それで構わない。試験ではあるが、駄目ならまた別の場所で再試験をすればいい。無理をしないで逃げるというのも、調査員の大切な資質だ。」
『大きさ的に、おそらく警備用ゴーレムだな。それも、長期間生きてるとなると、民生用じゃない可能性がある。』
『軍用だとまずいですね。装備によっては、同行者が危険です。』
制作時期は分からないが、未だに朽ちること無く動いているとなると、恐らくマナコーティングが施されている。
コーティングはコストが高いため、民生用で使われていることはあまり多くない。
私やマリオン…マナ溶媒の浄化が完了したためフルスペックが戻っているマリオンであれば、軍用であっても十分に対処可能な相手ではある。
だがもしも武装が機能していた場合は、同行者の身に危険が及ぶ可能性がある。
なりふりを構わなければどうとでもできるだろうが…その場合は若干今後の身の振り方を考える必要があるかもしれない。
いや、むしろいっそのこと…。
『現地を見てみないとなんとも言えないが、備えたほうが良さそうだな。』
『そうですね。装備の割り振りはお任せいたします。』
調査員になってから半年以上。
依頼中に見かけた魔物は極力狩るようにしていたおかげで、マナマテリアルの総量は合計で3ブロックほどにまで増えていた。
これではまだ心もとないが、身を守るための装備一式を作る分には十分だろう。
特にマリオンはその仕組み上…意志に見えるそれは、あくまで演算機を走るプログラムによって表現されたものである。
そのため、イメージを伝えるための意志をもたないマリオンでは、マナマテリアルの変化を行うことが出来ない。
そして本体の強度も、銃弾程度であれば十分弾くことはできるものの、アリスほど頑丈にはなっていない。
そのため、身を守るための装備は事前に作成して渡しておく必要があるだろう。
そうして調査試験に関する会議が進む中、頭の中では並列で思考を行う。
限りあるマナマテリアルをどう割り当て、依頼に備えるか。
こういったことに頭を悩ませるのも、なかなかに楽しいものである。
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本当は後書きとして、そもそもゴーレムとは何ぞや…というのを書いていたのですが、とてもボリューミーになってしまいました。
そのうち閑話ないしは設定集として投稿すると思います。
ですので、ここでは最低限の補足情報を…。
魔物として扱われているゴーレムは大きく分けて二種類があり、何らかの要因で発生をした動く土人形と、かつての文明で作られていた機械仕掛けのゴーレムとがあります。
前者が本来の意味でのゴーレムで、後者はアリウスが発展させたゴーレム技術の産物になります。
厳密にいえば魔物ではありませんが、マナの核を持つ敵性の存在として、広義の魔物として扱われます。
見た目としては完全に別物ですが、その本質をたどると、どちらもゴーレムで間違いありません。
後者に関しては、メタルゴーレムと呼ばれることもあります。
なお、前者に関しては現在の人の手でも作ることができるため、ゴーレムは数少ない「人が使役をすることのできる魔物」でもあります。
現在は魔法が利用できるようになったため、コアとなるマナ結晶が無くても、短時間稼働するゴーレムを作ることが可能です。
ですがこのようなゴーレムは非力で、せいぜい囮や土壁程度にしか使えません。
土くれのゴーレムは人為的でないと滅多に発生しないため、今回の依頼のような文脈でゴーレムという魔物が言及された際は、大体はメタルゴーレムを指しています。
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