1-22.昇級クエストが発生しました
「アリスさん、マリオンさん、おはようございます。ギルド長がお待ちですので、4階のギルド長室までお願いします。」
最初の依頼を達成してから半年、アリスたちはギルドからの依頼にしたがい、様々な調査を行っていた。
初依頼の薬草調査から始まり、壁外の魔物の繁殖状況調査や、農地に使えそうな新たな土地の探索など、いまではベテランの調査員と遜色のない仕事を受けるようになっている。
本来、調査員は緊急性がない場合は依頼はある程度任意で選ぶことが可能なのだが、ギルド側から提示されたおススメの依頼に特に不満も感じなかったため、すべてギルドからの提示にお任せをしている。
そのような依頼は難しいものであったり、人気のないものも多く含まれるため、達成した際のギルドからの評価点が高い。そしてその結果、得られる給金も多めとなるため、WinWinの関係である。
まぁ、中には安いうえにキツイ仕事というのもなくはないのだが、アリスたちであれば特に苦労もなく達成が可能だ。であれば、むしろそういう仕事は率先して解決をしてしまったほうが、皆も助かるだろう。
そうして昨日、ギルドに現在の仕事の進捗報告に訪れた所、明日ギルド長と面会をするようにと、事付けを受けていた。
受付奥の階段を登り、4階に登って直ぐに見える、立派な木製の扉を、コンコンと叩く。
以前は受付の人間に案内されていたが、今では二人だけでこちらに向かうようになっていた。
任される仕事の重要性が上がるに連れて、ギルド長に直接報告することが増えたためである。
「タイダル様、探索員のアリスとマリオンです。よろしいでしょうか?」
「ああ、入ってくれ。」
重厚な扉を開くと、ギルド長は執務机から立ち上がり、こちらを迎えていた。
「ご苦労、よければ掛けてくれ。」
お言葉に甘え、応接机を挟むように配置された上質なソファーへと、腰を下ろす。
そしてギルド長も、机を挟んで向かい側のソファーへと腰掛ける。
普段の報告では、執務机に座るギルド長に立ったまま報告をすることが多い。そのため、今日は何か大事な話があるらしいということがわかる。
「今日呼んだのは、要望を受けていたいくつかのものに、目処が立ったためだ。具体的には、申請のあった蔵書の閲覧申請と、遺跡の調査、両方が解決できる。」
とりあえず頷き、話の続きを促す。
「まず書物の閲覧についてだが、君達を広域調査員に推薦したいと思う。この短期間では異例のことではあるが、君たちはそれだけの結果を残してくれた。広域調査員になることで、ギルド所蔵の書物全ての閲覧権限が得られるというわけだ。」
広域調査員についてだが、これは以前に閲覧許可について訪ねた際に、ギルド長から聞いていたものである。
ギルド調査員は通常、自身が所属するギルドからの依頼を受けてその街の領域内の調査を行っている。
だが、現在の世界では人の踏み入らない土地がまだ多くあるため、特定のギルドに属さない土地というのも当然存在しているのだ。
そういった場所を調査する場合は特定のギルドではなく、周辺一帯のギルドからの依頼という形で調査を行うことがある。
そのような依頼を受けるための資格を持った人員が、広域調査員である。
広域調査員となると地域一帯の依頼を受けるようになるため、街を渡り歩いて依頼を受ける事となる。
かつて会ったアッシュたちも広域調査員であるらしく、あれからすぐに隣の町の依頼のために移動してしまったらしい。
書籍閲覧の推薦をしてもらおうと思ったちょうど前日に街を出ていたらしく、ままならないものである。
「次に、遺跡の調査に関してだが、先程の広域調査員の審査に関連したものだ。広域調査員になるためには、ギルド長からの推薦と、先任の広域調査員が同伴しての実地試験が必要だ。そしてその試験の場所についてだが、人が踏み入らない場所であり、かつそれなりの危険が予測される場所での調査というのが、課題となっている。そこに今回は、存在は把握しているものの調査が進んでいなかった遺跡を指定するつもりだ。」
なるほど。閲覧権限と遺跡調査、両方の要望が解決できる、とてもありがたい話である。
それに、いろいろな街を渡り歩いて依頼を受けれるというのも、この世界のことを調べるのに都合がよさそうだ。
かつてであれば、そんなうまい話が…と疑うこともあっただろうが、このタイダルという男がとても誠実であるということは、今までの経験で理解をしている。特に、断る理由はなさそうだ。
「さて、あとは君たちの意思次第だが、どうだね?」
「はい、是非ともその話、お受けさせていただきたいと思います。以前お願いしていたお話を覚えていていただき、ありがとうございます。」
「なに、こちらこそ君たちの貢献には本当に助けられている。本音を言うと、君たちをこの街から出したくはないのだがね。だが、君たちの能力はこの街だけでふるってもらうには、余りに大きすぎるようだ。それに、無理に引き留めようと思っても、空を飛んで出て行ってしまいそうだしな。」
「ええと…その、ありがとうございます。ですが、この街のことは気に入っていますので、安心してください。」
きっと、初めて会った際に見せた、シャボンの魔法のことだろう。
その気になれば確かにあれで空を飛ぶことはできると思うが、別にそんな必要はない。
いざとなれば、夜中に走って逃げれば済むことだ。
それに実際、半年ほど暮らしてのことだが、この街のことは随分と気に入っていた。
色々とかつての文明に比べると物は不足しているのだが、別に不便さはそこまで感じないし、むしろその不便さが心地よいとまで感じている。
なにより、受付のティアラさんに紹介してもらった例のお店では、毎月新作のシフォンケーキを出しているのだ。
最低でももう半年、全ての季節のケーキを制覇するまでは街を出るなど、とんでもない話である。
「そう言ってもらえて嬉しいよ。試験の日程についてはまた後日、調整して連絡をする。それまでは今まで通り、調査依頼を続けてくれ。」
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広域調査員は誰でもなれるものではなく、独自の判断で動き情報をまとめられるだけの知識と、危険な場所を巡ることができるだけの力、両方が求められます。
そのため、パイオン周辺を拠点として活動をしている広域調査員のグループは、数えるほどしかありません。
タイダルはアリスたちをある程度特別視はしていますが、特例として閲覧申請を許可をするというのは、その真面目な性格上許可することができませんでした。
そのため閲覧申請を受けた時点で、将来的には広域調査員へと推薦することを視野に入れています。
具体的な行動としては、半年の間にアリス達が受けていた依頼はすべて、広域調査員の申請条件に関わるものになっています。
それらの依頼をすべて断らずに受けていたため、ほぼ最短での試験となりました。
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