1-18.ギルドの洗礼
その後、アリスとマリオンはギルドの図書室と、街の薬屋を数点、それに雑貨屋で筆記道具を購入してから、街の北側の平原へと向かった。
特に事前情報の確認についてだが…これが非常に重要というか、最初のふるい落としと言っても過言ではない部分であったらしい。
『どうやら、事前調査がちゃんと出来るかといういう点も試されているようだな。』
『ええ…調査対象は3種類の薬草ですが、そもそもの採取時期に若干のズレがありました。
それも一番発生の早い薬草は成長しすぎると薬効成分が薄れるため、生え始めを確認してから3週後には旬を過ぎてしまっております。』
『そうなると、期限よりも早めに調査を済ませるか、種類ごとに都度提出したほうが正解になるか。しかし、こんな調査方法で薬草の採集時期を逃してしまったらどうするのだろうか?』
『恐らく、別にも調査員が出ているか、調査を待たずに採集に人を割いているということではないでしょうか?』
渡された資料には確かに薬草の特徴について記載がされていたのだが、それはあくまで基本的な情報でしか無かった。そのため、ただ依頼の内容通りに資料を集めるだけだと、情報の鮮度が失われてしまうであろうことがわかったのだ。
また葉や花の特徴は確かに資料に記載されているが、親切な薬屋の主人いわく、似たような特徴の植物もいくつかあるらしい。そもそも発生初期ではその特徴も判別しづらいため、この資料だけで目当ての薬草を見つけるのは非常に難しいだろう。
特に時期が最後にあたる薬草は数日で散ってしまう花弁に薬効成分が含まれているらしく、既に花が咲いてしまっていたらその情報を後に提出しても意味がない。そのため、恐らくではあるが…。
『既に収穫時期のものを見つけた場合は、私達で収穫しても良いのだろうな。』
『ええ。それぞれ収穫に最適な時間はそう長くないため、既に過ぎてしまった情報を持って行っても意味はありません。依頼内容では収穫も止められておりませんし、恐らくそれも想定内なのでしょう。』
『そして調査中…意図的に群生地帯の場所を黙っておけば、私達がそれを全て収穫してしまうことも可能ではある。だがそうすると当然、評価が下がる…というよりは、不適格と判断されるのだろうな。』
この依頼は間違いなく、今後私達がどの程度ギルドに役立つかを確認するかの試金石なのだろう。
正直な所、ここまであからさまに試されているというのは、あまり気分が良いものではない。だが、自分たちの来歴…出自もしれぬ来訪者であることを考え見ると、そうする気持ちも理解は出来る。
『やろうと思えば、詳細な地形や分布図のデータを揃えて叩きつけてやることも出来はするが…』
『おや、アリウス様であればそうするかと思っていたのですが、しないのですが?』
『流石に私でも、それが今の時代に見合わない情報だということはわかる。それに、事を荒立てるのをあまり良くない。意図的に、そこそこの精度の情報に留めておこう。』
『やはり、アリウス様は少し変わったようですね。ですが、良いことだと思います。』
『そうだな…私も少しは実感している。まぁたしかに、悪い気はしないな。』
かつてのアリウスであれば、苛立ちに任せて、コレでもかという詳細なデータを当てつけてやっていただろう。
だが、たとえそれが依頼に対する正当な成果であるとはいえ、相手に不快感を与えてしまうであろうというのは、今のアリウスには想像ができるようになっていた。
かつては他人のことなどどうでも良いと考えていたアリウスだが、わずかずつではあるが、他人への気遣いというものを身に着け始めているようである。
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アリウスはちょっと丸くなったようです。
以前研究所で似たようなことをされた際は、300ページに及ぶ膨大なデータと、専門知識がなければ読み解け無いような難解なレポート、それとついでに相手の研究内容の粗をつついた意見書を添えて提出しています。
それを全室長が集まる会議の中で叩きつけたため、会議後に所長にこっぴどく叱られました。
それはそれとして、叩きつけられた研究室ではそれにより研究がブラッシュアップされたため、その室長以外の研究所員からの評価は若干上がりました。
ちなみに、もとのボツ案では実際にやりましたが、あんまり読んでいて気持ちの良いものではなかったので、方向転換しました。
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